第7話:獲物は終わるまで獲物
「ごががぐげげ!」
片手剣を一定のリズムを刻んで斬り掛かるから避ける分には大変助かるが、意味不明な声がマジで目障りだな。しかも俺の攻撃の際には見切っているのかは知らねえが素早く避けやがるし。
とにかく俺はさっさと終わらせる方向に持たせたかったので、周りにある物を注意深く見ながらも相手の動きに注目して。
ゾンビみたいな奴の攻撃の隙が出来た時に周辺の隅にあった薪のようなサイズである木の棒を走りながら取って、一気に接近して間合いに入り込んでから盛大に叩き込む。
「ぐべぼぼ!」
ゾンビの表情は良く分からないので何とも言えないところだが動きから確認してみると奴は結構なダメージを受けたと見て良いだろう。
「ばばごが!」
しぶといゾンビは俺の攻撃に数発耐えてから、勢いで上から切り裂いた。おかげで俺の右肩のちょっとした所から血が吹き出してしまった事に気にせずに左手で持っていた中華包丁を使って横斬りで腹を血飛沫に染め上げる。
「うぜぇぞ!ゾンビ!」
二刀流に持った堅い木の棒と中華包丁を交互良く斬り掛かるとゾンビは避ける暇も無かったのか、全ての斬撃を食らって呻き声を上げながら壁の方へと下がっていく。
「ぐげご!」
はっ!最初だけかよ。威勢が良いのは……やっぱりお前とクソ野郎に殺人鬼と呼ばれている俺との差は天変地異だったようだな!
「あばよ。綺麗に死んでいけ」
中華包丁を上から一気に躊躇無く振り下ろすと、ゾンビの身体は真っ二つに斬り裂かれて俺の顔面に大量の血を飛ばしてきた。血の独特な腐った臭いを手で軽く拭き取ると檻は解除されていつでも退出出来るようになった。
「変な所で無駄に時間を喰わされたぜ」
早く元の道に戻って最奥で金庫を開ける方法をこの目で見ないとな!ゾンビを血祭りに上げて一思いに遠慮無く殺した俺は冷たい目で見てから元来たY字の道に戻って、さっきとは逆方向の右側へ進んでいく。
「もうちょっとだ。あともうちょっとで金庫を開けられるぜ」
期待が膨らむぜ……奥に進むだけで金庫の中を開けられるだからな。もはや興奮しかない!
心臓の鼓動の動きが妙に高鳴っている俺は気持ちを高めてそそくさと足を早めると、何か文字の羅列が入った場所へと辿り着く事に成功したのでよく確認してみると、そこには金庫を開けるヒントとなっている文章だと言う事が判明した。
文章には鎌倉幕府を建てた年をダイヤルに当てれば、扉は開かれんと書いている。はははっ、こんな問題……アホでもわかるぜ!
「という事でこの文章から察すると――」
「1192で良い国作ろう鎌倉幕府だったな。けど最近の調べではその年では無いと言う噂が立っている。よって、君のその浅はかな考えでは永遠に解けないと考えた方が良いぞ」
何だと、普通は1192で正解に決まっているだろう。俺の考えをことごとく粉砕するてめぇはマジで何なんだ。舐めてんのか……。というか
「お前は何者だ?見た感じ、このゲームの参加者みたいだが俺を付けてきたのか」
「獲物だからな……跡を付けるのは自然の摂理とも言える」
獲物だ?俺は茶色の逆立った髪の毛をしたコイツに狙われんのか?にしても右頬に十字のキズがあったり、奇妙な薄気味悪い表情をしたりとどう考えてもアレな奴に当たってしまったな。
「ストーカーは犯罪……とはいえ、こんな世界だから何でも有りだな。良いぜ、来いよ!お前の身体をグシャグシャにしてから、じっくりと鎌倉幕府の設立年を考えてやる!」
「さっき言ったけど君には永遠に解けない。何故なら君は今日この場で喰い殺されるんだからな!」
薄気味悪い男は一気に俺の間合いに入って、キレの良すぎるパンチと連続キックからの空中蹴りを披露した。
さすがに動きが俊敏過ぎた俺は判断が覚束無い為に、ただただ防いで身を守ることに徹するしかない事に焦りを感じる。こいつは……マジでヤバい奴だ!人間を辞めてやがる!
「そらそら!どうした!」
何!?俺が突き刺した中華包丁をあっさりと避けて、左足の付け根で蹴りを入れるだと!?
「ぐはっ!」
駄目だ。コイツは俺とは何かが違う。コイツは前に何か戦闘のプロとして働いていたのか?俺の唐突な攻撃もすぐに避けていくし、一つ一つの攻撃が速すぎて追い付けない。このままだと、本気で殺られかねない!
「何だかつまんないな。君はこの程度で立ち止まる弱者だったのかな?」
この野郎……言わせておけば。舐め腐り過ぎだろ!本気で殺してやるこいつだけは。
「からの!」
一瞬の隙を突いて、一気に中華包丁で切り裂いてやる事が俺の今の目標だ!何としてでも、コイツだけは顔の原形を無くしてズダボロにしてやる!
「君からは意志が伝わってくるな。てめぇを殺したいと大きな殺意がね!」
ちょこまかと避けやがってマジで目障……何?中華包丁が無い!
「無駄な動きが多いから簡単に武器を弾き返えされてしまうんだ。そんな感じで生きていくなら、このゲームでは簡単に解体されるぞ。死にたくなければ、もっと純粋にゲームを楽しむ事だな」
この野郎、さっきから余裕をかましやがって!
「黙れ。さっさとその薄気味悪い顔を消してやるよ!」
中華包丁は天井に突き刺さったままか。だが、こちらにまだ薪サイズの堅い木の棒がある!これでぶん殴れば、頭は簡単に粉砕出来るはずだ!
「よっ、それ!動きがまる見えだぞ。良くそんな殺意感丸出しで人を殺せたな。俺が通行人だったら、一瞬でスクラップだったぞ」
男は俺の攻撃を遊んでる感じで避けて、キリの良いところで俺の右腕を捕まえて壁に飛ばしてから、右足で強烈な垂直蹴りを披露してくれた。おかげで腹の痛みが止まらねえ。
「この野郎!」
「言い忘れていたが、俺の名前は桐山龍だ。前職は傭兵として生きてきたから遊び半分で来られた君では永遠に勝てないと知った方が良い。では、最後はこれで終わりにしよう」
薄緑の上着のポケットから何をごそごそと……!
「その顔は察し状態か。そう、これは手榴弾だ。このよく分からない森を探索していたら上手い事見つけたんだ」
まさか、あの館で爆弾を投げつけたのはお前なのか?
「初めの一回は君があのクレイジー女を殺した二階の館で投げつけた。そして次の二回目は……」
「桐山龍、覚えてやるよ!その腐った顔をな!」
「言ってろ。お前はもう終わりだからな……さらばだ!」
ボロボロに動けなくなった俺から安全な距離まで離れた桐山は手榴弾のピンを外すそうとしたが背後から呻き声を上げてくる声に行動を中止した。おそらくあのゾンビがまたしても来たのだろう。この危ない展開にはナイスの救援だぜ!
「何だ、コイツは」
「ぐぶびがぁ!」
やっぱりしぶといゾンビと桐山が取っ組み合いの最中に俺は何とか自力で立ち上がって桐山の隙が出来た所で強引に手榴弾を奪い去る。
「くそ!奪われた!」
今まで散々にやられたツケだ。この手榴弾で仲良く消し飛びな!状況が逆転した俺は急いで安全な距離まで逃げてからピンを抜いて、全力で投げつける。
「お前は獲物だ!終わるまではな!」
桐山は意味不明な言葉を残して手榴弾の爆発に飲み込まれたと同時に地下の耐久性が無かったのか、かなりボロボロに崩れ去っていった。まぁ、もうこんな所に用事は無いから別に崩れてくれても良かったな。二度と桐山も脱出できないだろうし。
「中華包丁は天井に突き刺さったままで放置してしまったから二度と使えないな。仕方ない」
武器は折れたバールと薪サイズの木の棒だが、まだ生きていけるだろう。今回はかなり危険だったが、上手い事逃げられたな。
「さて、金庫の方に戻って宝物を拝みにいくとしますか」
右肩の血をポタポタと地面に落としながら、金庫の方へと足を進めていった。頼むから1192であってくれよ。そうじゃないと頑張ってきた意味が無くなってしまうからさ。