第26話:終点
雲の彼方にある階段を突き抜けていくと、未だに見えぬ光景から一変して別の舞台が見えてくる。
「あれは何だ?」
疑問を僅かに漂わせながら近づいていくと、辺りは暗闇に包まれクリスタルのように輝きを放っている階段の中央付近にはもう一人の挑戦者と広々とやり合えるステージがあった。
俺はそこに降り立って軽くストレッチを終えてから司会者の名前を大声で高らかに叫んでみるとやれやれと困った表情をしているテラーが遙か真下から姿を現してきた。
いや……まさかあんな真下から舞い上がってくるとは、俺は頑張ってこの場所まで徒歩で歩き続けたというのに……酷く不憫な目に合っている気がしてならないぜ。
「おやおや、随分とお早い到着となってしまいましたね。もう少し後からゆっくりと歩いてくると踏んでいたのですが」
悪いな……すぐに到着しちゃってしまって。どうやら足を随分と早めてしまったらしいと若干反省しているといきなり司会者のテラーが手を叩き出したぞ。一体何が起きたんだ?
「おっと、失礼。何故だか手を叩きたい気分になってしまいましたが……さて、先にあなたが到着したとなるともう一人の方がしばらく時間が掛かりそうですね。それまではこの無重力に浮いているフィールドで雑談をしましょうか」
雑談か。そんなに話す事は無いが一つだけ聞いておくするか。
「何の為に俺達をこの世界に集めたんだ?ただの余興の為にやったのか?」
「余興というか興味本位で始めたのは確かです。地球上に鎖を帯びた人間をこの世界に解き放ってしまえばどうなるのか?それが興味の対象となって、1名は例外として約9名をゲームに招待しました」
1名はあの葉巻を吸っていた胡散臭いオッサンの事だな。じゃあ、この調子で質問に答えてもらうとしますか。
とは言ってもコイツに答えてくれるかは少し不安な所ではあるが
「司会者テラー、あんたは何者なんだ?宙に浮いたり、はたまた階段作ったりこんな舞台を一瞬で用意したり……さっきからやっている事が人間の域を超えてやがる。俺に気になって仕方がない」
さて、この質問を投げかけただけでにこやかスマイル0円のテラーが真面目な表情になってきたぞ。
やはり、この質問は少々ヤバかったみたいだな。答えてくれると俺的にもスッキリするんだから素直に答えて欲しいぜ。
「あなたに分かりやすく伝えればアルタナ星の創造主となります。この私が創造主に生まれた瞬間、人間であるあなたには理解不能だとは思いますがこの星の地形やあらゆる物を創造によって創る事が可能なのです」
創造主って……偉い中二な感じになってきたが、今までの行いを見ていたらあながち間違いではないな。
本当に俺達にとっては有り得ない話だが、この男は人間を超えた存在だというのは確かな事なんだろう……未だに開いた口が塞がりそうにないのだが。
「さて……あなたからの質問は一旦締めさせて貰いましょう。そろそろ、あの挑戦者がこちらの舞台に舞い上がって来ますので」
いよいよか。向こう側の挑戦者は俺を途中までどん底にいたぶってくれた佐々木かやたらと格闘技が秀でている桐山になるだろうが……果たしてどっちが舞台に足を踏み入れるんだ?俺は心臓を少々バクバクさせながら待機していると足音が次第に大きくなって来るのが聞こえてきた。そして段々と見えてくる対戦相手は……やっぱり何かと因縁があった男である桐山だと判明した。そうか、佐々木の野郎は桐山に殺されたのか。無念のリタイアになってしまったんだな。
「ふぅ、やっぱり君だったか。何か安心したよ、あの男だったら恐怖心がマックスの状態で怯えながら戦う所だった。君となら遠慮無しに戦えそうだ」
「そうかい!俺もあんたが対戦相手でホッとしたぜ。ようやく決着がつけられなかった戦いに終止符が打てそうだからな!」
桐山が相手なら遠慮無くやり合えるぜ。俺は桐山相手にホルスターからSOGを構えると司会者であるテラーが空中に舞い上がって舞台の説明を高らかに始める。
「ようやく、この終点に二人の挑戦者が集いました!今こそ応援する時です!」
何をしているのかと思った時に真っ暗闇のどこからスポットライトのように俺達を照らし出して、周辺の方から某動画の弾幕が流れ出す。コメントはどれもこれも半分応援しているような挑発している言葉ばかりで正直に言って俺達を馬鹿にしているとしか思えなかった。
「これは、ネットからのコメント。リアルタイムで流れているのか」
流れている言葉の弾幕に懸念な表情をしている桐山にテラーは笑顔で語り始める。
「あなた達の熱き戦いにコメントが集中しているようですね。今日は特に若者の視聴率が最高潮に達していますし、若者と一緒に大いに盛り上がれそうですね!」
流れている言葉の弾幕が非常にうぜえな。コメントの中には俺を馬鹿にしているとしか思えない発言の糞野郎が居るし、とんでもなく苛つく気分だ。
「テラー!コメントを消しやがれ!目障りなんだよぉぉ!」
マジでうざい。消えろよ……俺はテラーに対して大声で吐き散らすとテラーはやれやれとした表情でコメントの表示をオフにする。ふぅ、とりあえずこれで心置きなく戦い合えそうだ。
「あっ、そうだ。せっかくの最終戦なのでハンデを付けさせて貰いましょう」
なっ!俺の後ろや桐山の背中の方にある階段が綺麗さっぱり無くなりやがった。しかも全体的に身体が軽いような気がするが、まさか!
「拳銃が砕け散っただと!?テラー……お前は一体何を企んでいやがる!」
「別に、私はあなた達に素の状態のありのままで真剣なる戦いをして欲しいだけですよ。武器で勝負するなんて邪道ですらね……」
ちっ!今まで精一杯コツコツと集めてきたアイテムがテラーの意識かなんかであっさりと砕け散るとは。だが、素手であろうが俺は勝ちを取らせて貰うぜ!
「では、最後の終点を私と向こうの遥か地球に居座っているお茶の間に見せて下さい!」
テラーは元気に高らかに叫ぶと一瞬にして消え去る事でこの舞台に残っているのは俺と桐山だけになってしまった。
こうなると俺が桐山をボコボコに殴り倒して、ゲームを綺麗に鮮やかに終わらせるしか道は無さそうだな。
よし、さっきまで佐々木相手に大活躍したSOGという名のスペシャルナイフが無くなってしまったが、全力でぶちのめしてやるぜ。
「ふっ、その表情から察するとやる気に満ち溢れているようだな。だが、悪いが俺にも叶えたい事はあるんだ。司会者のテラーは信用出来ないが、決着をつけなければこの戦いが終わらない以上は本気で俺も相手になってやるから手加減無しで拳をぶつけて見せろ!」
上等だ!やってやるよ!圧倒的な意気込みに満ちた俺は全力で桐山の方へと猛ダッシュして、跳び蹴りを喰らわそうとしたが……さすが桐山が相手なだけであって避けるのはお手の物らしいな。なら、次はお前の左足の部分を払ってやるよ!
「やるじゃねえか!」
俺が放った右足で地面に落ちそうになった桐山は地面に当たる瞬間に左足を垂直に向けて首に直撃させてきやがった。おかげで俺の顎は外れそうになりそうだったので一瞬だけうろたえていると、その隙を好機と睨んだ桐山は次々と殴り込んできた。
その攻撃を見事に当てられた俺は辺り一面に真っ赤な血を垂れ流しながらも滑空蹴りで桐山を仰け反らせる努力をする。
「中々やるようにやったな。最初に出会った時はただたんに一般人だけを上手く狙って殺しただけのアマチュア殺人鬼と思っていたが……俺が思ったよりもスクスクと成長してくれて嬉しいもんだよ!」
俺の粘り強い動きに感銘している桐山は何故だか嬉しそうな表情をしていたが、次の瞬間には高速の動きで数発程叩き込まされてからフィニッシュに回転蹴りを喰らわされる。
何か言葉に言い表しにくいが頑張って表現するとなれば、内臓か何かが飛び出しそうな勢いだ。
結果的には飛び出していないからホッと安心出来るのだが……その後の攻撃は完全に桐山に嵌められていく。
それはそれはもう酷いもんで、桐山の打撃を休む暇なく叩き込まれていく。マズいな……このままだと、体力が無くなって奈落の底に落とされる可能性が高い。
だが、世間やテラーに殺人鬼と呼ばれようが俺は日本というちっぽけな国に住んでいる素人だ。
この殺し合いの世界で経験を積んでも今の状態では傭兵として戦場を駆けぬけてきた桐山は至極真っ当に挑もうが勝てる確率は殆ど無いに等しいと言えるだろう。
「そら!もう終わりか」
どうすれば良いんだ?今頑張って抗ったとしても、桐山の打撃を直に喰らってしまった影響で身体が自由に動けないから正々堂々と挑むのは以ての外だと言っていい……なら、どうする?
諦めて桐山に奈落の底に突き落とされて死を辿るか。いや、この俺がこんな最終戦で負ける球じゃねえ。だから俺は真っ当な勝負をせずにただ勝つためだけの試合をするだけだ!
「木島、完全に俺のペースに陥ってしまったようだな。正直言うと、このまま行けば俺の勝ちは目の前だろう」
「ふっ、そうかよ。なら……早く楽に殺してくれや。ボロボロに痛めつけられた俺は足も腕もそして身体のアチコチの言うことが効かねえからやってくれよ。もう、この世界で散々に遊び尽くした俺は満足出来たからさ」
「満足か。何を企んでいるのかは不明だが、今のお前の状態なら簡単に逝かせる事が出来るな。せっかくだから最後に一言吐けよ」
一言吐くとすればお前のその運動能力を俺に寄越せと言いたい所だが、今はマトモな事を言って終わらせるとするか。
「今まで楽しかったぜ、桐山!」
俺は直立不動のまま立っていると桐山は何とも思わずに突っ込んでくる。
「もう少し強かったら、面白い戦いが出来たのにな」
ギリギリの所を狙う為にわざと桐山の殴りかかる拳が顔面に当たりそうな距離の時に飛び降りて、舞台の縁の所で両手で強く握ると真下に落ちそうになった桐山は急いで俺の右足を片手で強く握ってきた。
やはり、傭兵である以上相当粘り強い奴らしい。いい加減に楽に死んでいって欲しい所ではあるが……
「スポットライトだけじゃ、真っ暗闇で全然見えなかった。だからお前はこれを活用して、わざと殴られまくって奈落の底に誘導。その際にギリギリの所で避けて俺を奈落の底へと誘うのが目的だったのか。ふっ、君は顔の表情とは裏腹に非情な作戦を練っていたんだな」
いくら褒めようが道連れに誘おうが、お前は俺の望みを叶える為にさっさと死にな!
俺の右足を片手で鷲掴みする桐山を情け無用で強くブラブラとブランコのように動かしていくと桐山は掴まる力が弱まったのか遂に奈落の底へ落ちていく。
その際に桐山は一瞬ではあったがニヤリと笑っていた。あの野郎、結局最後までよく分からない野郎だったな。
だが、どんな手段であれ俺の勝利だ。これで俺は……自由と幸福を手にする事が出来る!ははっ。あはははっ!




