決闘再び
飯も食い終わって外に出ると先ほども見た面倒な王様とその従者が待ち構えていた。今度は何の用だろうか。
「実は君にお願いがあってね」
「わざわざこんな目立つところまで追いかけて欲しくなかったんだが」
俺が本音を言うと少しは申し訳なく思っているのか苦笑いを浮かべてきた。分かっているなら後日呼ぶなりなんなりして欲しいものだがどうも急ぎの用ということなのだろう、
それもここに移動してくるまでに発生するような唐突なことに違いない。
「おじさん。マスターにもしかして復縁の依頼?」
「おー流石はコレットちゃんよくわかってるね」
は?復縁?何言ってるんだろうかと俺は思ったが事情が分かっているらしいアイシャは頭を抱えていた。他のメンバーは当然よく知らないので俺と同じように疑問符を浮かべている。
「実はアイシャの家出は僕が悪いって妻が怒っちゃって……。相手の君がいたらなんとか誤魔化せ…もとい説得できると思うんだよね」
「…それ別に今である必要なかっただろ」
なんでも彼の妻、つまり現王妃は一般庶民の出らしくそもそも王となる前の彼がぶらりと旅した町で一目惚れして口説いたのだとか。なので普通に今は実家に戻っているらしく特に行くのも制限はないはずということらしい。
結局押し付けられてやってきたのは本当に普通のエルフ民家でとても王族の一員になったような人物がいるとは思えない家だった。アイシャもその家自体は見るのは初めてのようでちょっとそわそわとしている。
「それにしてもエルフ族にも変わった風習が多いのですね。うちの王家も変わった習慣があるのですが」
「お姉さまはあまり好きじゃないですからね……。私としてはぜひお兄様と来年は楽しみたいのでお願いできますか?」
いったいどんな行事なのだろうか。少し安請け合いするのは怖いところもあるが断れるわけもなく承諾するとティアはティアでこちらを少しすねた目線で見てくる。いつも通り可愛いだけで何の威嚇にもなっていないと本人に教えてあげたいところだ。
「あら?アイシャ帰ってきてたの!?」
後ろから声がして振り返るとアイシャと同じく絶世と言ってよいエルフの美女がいた。年齢はスキルによるとなかなかなのだが流石はエルフとてもそうは見えない。
「あなたの彼氏ってもしかして凄く失礼だったりしない?今なんだかイラっと来たのだけれど」
「ごめんなさいお母さま。アレは治らないの」
というか首輪については特に何も言わないのか。
「それにコレットちゃんもいるのね。他にも……女の子がたくさん」
ふむ、どうやら彼女はあまりハーレム状態の人間は好ましくないらしい。一瞬で目が鋭くなったのでなんとなくわかる。
「先輩、今更ですけどエルフって別に女性が皆小さいってわけじゃないっていうのはアイシャさんでわかってたんですけどやっぱり小さい方が多いんですね」
「あーあ」
あーばかだな。誰を見てそう思ったかすぐにわかるこの状況でそんなこと俺にささやきかけるなんて。サツキの方が確かに微妙に大きいから少しうれしかったのかもしれない。勝ってるのイリスとルシエくらいだもんな……ルリアは若干サツキより大きいし。
「僕の胸を見て何か言いたそうだねレン君」
「慎ましいというほど小さくもない大きさだしそんな気にしなくてもいいと思うぞ」
俺はとりあえず目の前の脅威から現実逃避を試みるが当然サツキの声を拾った彼女は臨戦モードだ。
「ふう、では私とアイシャで決闘をしてもしアイシャが勝てば何も咎めず夫のところに戻るとしましょう」
あれ?俺じゃなくてアイシャと決闘するのか。それにしても王と言い王妃といい血気盛んだな。エルフはもっと冷静であるべきと思ったがアイシャとがエルフの最初のコンタクトなのでそこまで違和感がない。
「おねーちゃんがんばれー」
「あれ、これ本当に私がやるの?ねえおかしくないかしらご主人様」
俺もおかしいと思うが諦めてくれ。何が酷いってアイシャが負けた時のパターンを何一つ口にしていないということである。レベルとセンスの差を考えるとかなりいい勝負になりそうだが、だからこそ不安でもある。
「移動なんて面倒だろうしこの家の庭でいいわよね」
王妃はどうも大雑把な人らしいということがよくわかり、きっとアイシャのあの感じは彼女の教育のおかげなのかもしれない。それにしては彼女があまり木の中以外知らなかったのは意外だが何かあったのだろうか。
こうして、いまだ困惑しているアイシャと彼女の母との決闘が始まった。