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11話 機械仕掛けの大統領(プレジデント)

 シャルラッハートを追って、ホワイトハウスを徘徊していると、地下へと繋がる階段を見つけた。厳重に守られているわけではないが、気になる。

 禍々しいオーラが出ているというのは少し非科学的だろうか?しかし、ここに何か重要な物があるということがわかった。クロノスが攻めてきた時と似たような感覚だ。

 普通はこんなにわかりやすいところに避難場所を設置するとは到底思えない。罠を疑うべきだろう。

 一応僕は階段をゆっくりと降りる。

 さっき、シャルラッハートの言葉だけで、僕はかなり威圧を受けていた。緊張で心拍が上がり、呼吸も少し荒くなる。

 階段をすべて降りる頃には周りが見えないほど真っ暗だった。

「全く。決着前に別れた人格を紡ぐんじゃなかったよ」

 独り言をつぶやき、緊張感を和らげようとしたが、僕はそれよりもまず、視界を確保するべきだったと後悔した。

 突然サイボーグが現れたのだ。

 そのサイボーグはSRA第三部隊カラーズに僕が居た頃に戦ったやつにそっくりだった。

 両腕がガトリング砲に付け替えられ、全体的に身長は僕の1.5倍はあった。サイボーグは僕に向けて銃を乱射するが、僕は着弾点を予測して回避した。そのサイボーグの考えは対面しているだけで手に取るように理解できた。人の心を読むのは苦手だ。今までよく空気を読んで合わせることが出来たかと思うともの自分に感心してしまう。

 今回の相手は機械だ。プログラムで動く。多少学習はするだろうが、僕はそれすら先読みしてサイボーグの銃撃に触れない位置に転々と移動し、最後は後ろに回りこんだ。

「装甲が硬いこと忘れてた」

 僕はサイボーグの背部に胸をつけ、M16を手から離す。腹を通し両手首をがっちり掴み、勢い良くブリッジをしてサイボーグの側頭部を地面に叩きつけた。

 首が右側に傾くように曲がり、中の回路やコードで支えられているようにも見え、故障したと思われる部分からは電流を帯びて出ていた。僕はM16を拾い上げ、入り口と反対側の通路に走り、サイボーグから距離を取った。そして首から出ているコードを狙い弾丸を連射する。

 7発撃って、やっと1発命中し、流れ出る電流が強くなり、放電し、強いエネルギーを持ち爆発した。僕は角に回避し、破片をやり過ごす。

 そして爆発が収まったところを除くと、サイボーグの胸部分より上が消えていた。

 以前は頭をふっ飛ばしても、時間が経ってから問題なく動作したが、今回は恐らく回路が駄目になった為、もう動かないだろう。



 その頃、クロノスは細身のサイボーグの四肢を破壊し、行動不能の状態に追い込んでからホワイトハウスの内部を詮索する。

 持久走のペースで5分間まっすぐ駆けると、扉が見え、彼はそれに近づく。そこへ指を触れ必死に開けようとしたのだが扉は固く閉ざされていた。

「RPGだと普通通れないよな」

 クロノスは扉を思いっきり蹴った。しかし、一発じゃ反応が薄い。そのため何度も何度も体重を入れてやっと蹴破った。

「疲れた。少し休むか?」

 休息を求めたクロノスは残念ながら扉の向こうからサイボーグの姿を確認し、すぐに戦闘態勢に入る。

「何だこの形。初めて見るな」

 彼が出会ったサイボーグはカリヒが戦っているタイプと同じだ。

 いや。これはサイボーグではない。

 以前カリヒがSRAの第三部隊で交戦したサイボーグのデータを元に作られたAI兵器だ。すべての機体がネットワークに繋がれている。つまり、命令さえすれば一箇所に集まってしまうのだ。

 クロノスは重要機密が詰まった部屋の扉を蹴って壊したため彼の位置にホワイトハウス中のhumanoid weapons 通称HUWEヒューウィがクロノスを追跡している。

 クロノスはM16を向ける。

 HUWEは右手のガトリングを向ける。

 クロノスのほうが早かった。彼の7発の銃弾は6本の筒を的確に塞ぎガトリングを破壊した。しかし、すぐにHUWEは関節部分からガトリングをパージして爆発を阻止した。それから左手を突き出すHUWE。クロノスは同じようにもう一つの手を塞ぐ。

 パージして、HUWEはクロノスに突撃する。クロノスはそれを回避し、すぐさま体を旋回させて、HUWEの背部に弾丸をばら撒いた。

「やはり。効かないか」

 そしてすぐにクロノスは敵の後方に取り付いて、左手を首に回した。そして左足をHUWEから見て5時の方向に大きく踏み出し腰を遅れて投球のように上半身を屈めて腕を振り下ろす。

 地面にHUWEを叩きつけ金属の装甲を重みで破壊した。

 


 やたらとでかいサイボーグと交戦中だ。敵は動きが鈍いので、僕は鉛弾に当たらないように逃げまわり、大きく隙を見せたところで殴る蹴るなどしてダメージを着々と与えていく戦法を行っていた。しかも、豆鉄砲はもうすでに残っていないし、頼りになる肉体もそろそろ披露で音を上げていた。

「疲れたなぁ。これじゃシャルラッハートと対面しても殺せる自信ないや」

 弱気になりながら長々と入り組んでいる廊下を駆け巡っていた。

『カリヒさん!』

 リーナの声が僕の耳に入る。

「ああ。恐怖がついに僕ではなく、リーナに成って具現化したか。いや、この場合具現化って言わないな」

 口に出しながらゆったりと速度を落とし走る。

『次の通路を右に曲がってください』

 指示出しを始めたぞ?僕は軽く膨らみをつけて右にカーブした。

「リーナ。君は本当にリーナなのか?」

 僕は感情を込めずに応える。まあ、当然だろう。疑いにかかっているのだから。

『カリヒさんはどう思いますか?』

「そうだね。僕は正直疑っているよ」

『そうですよね。いきなり出てきたって、ってあそこも右です』

 リーナは話を中断し、指示を始めた。僕はそれに従う。

『いきなり出てきたって困りますよね?今は私はリーナではなくリーナの声をした別の何かと名乗っておきます。カリヒさんは下手に私がリーナだっていうと信用してくれませんからね。あ、右に曲がってください』

「よくわかっているね。君はリーナだ。でさあ、さっきからどうして右にしか曲がらないんだ?」

 僕は関心の声を上げながら返答し、右に曲がる。

『ただUターンをしてほしいだけです。で、こっちは左に曲がってください』

「わかった。で、リーナ。何をさせたいのか応えてくれ。僕の性格を知っているのならば」

『ええ。カリヒさんは回りくどいのが苦手ですものね。目的地には武器庫があります。そこを左です』

「ああ」

 彼女は本物のリーナだ。

 僕は耳で取り入れた情報を保存する能力に欠けている点がある。

 それを考慮してくれたのだろう。そんな気遣いが出来るのは彼女だけだ。

「リーナ」

 僕はいきを吐き出すように呟く。

『どうしました?改まって』

「愛してる」

『やっと初めて、カリヒさんから愛の言葉を頂きました。嬉しいです』

 彼女の声は今までに聞いたことが無いくらい高揚していた。

 僕は自分でも涙ぐむ。

「僕は。君を失って気づいた。君には僕は無愛想過ぎた。もう少し情を持って接してあげればよかったって思っている。これは後悔であり罪悪感だ。本当にごめん」

『別に構いません。私はいつも誰かの代わりでしたから』

「やめてくれ。そんな言い草をされるんだったら責められるほうがマシだ」

 僕は彼女の言葉を振り払う。

「泣きついてくれ。僕にもっと君の罪悪感を背負わせてくれ!いつも1人で抱え込んで…」

 僕は歩みを止めた。頭と両肘を目の前にある扉につけて膝をついた。

『むしろ、カリヒさんの場合、この方が堪えますよね?だから敢えてやっています。これは罪ですよ』

「いいや。君が1人で抱えている事に僕は苦悩しているんだ。だから。楽になってくれ!僕を困らせないでくれ。僕はただ自己満足がしたいだけなんだ!」

『でも、やり方がわかりません。私はいつも背負うだけで、誰かに背負ってもらうことをしませんでしたから』

「どうして死んだんだよ!僕を置いて!」

 ただ目の前に出てきた彼女を攻め立てた。何にも意味がない。何1つ意味が無いことを僕はしている。それは痛感するほど理解している。でも…彼女と話を続けたかった。

『ご、ごめんなさい』

「いいや。僕こそごめん。君は悪く無い。悪いのは全部僕だから。これが痛みの代償だってわかっている。僕に罪をくれ。リーナ。神の与えた罪は痛すぎる。僕には辛い。だからせめて…神に与えられた罪を、君が上書きしてくれ」

 僕は抽象的に話す。考えがまとまらなかったといえばそうなのだが、彼女に募る同情などが一気に込み上げて、溢れでた。言葉が覚束ない状態になる。つまり僕は彼女に罪を求めた。意味が無いと言えば本当に何の意味を持たない。でも、彼女にすがった。最後の願いとして。彼女を頼った。

『こんなことを言いたくありませんが、私はあなたの道具じゃありません。だから思い通りに操作出来ると思ったら大間違いです』

 彼女は“もう1人”のように僕の心の脆い部分を漬け込んできた。全く。僕は自分のことしか考えていないんだよ。結局。

 彼女はそんな僕に嫌気がさして、この世界からいなくなったのか…

「リーナ。愛してる。もうすぐ。君のところに行く。最後に。僕の最後の。君へのお願いだ」

『ええ。最初で最後な気がします。改まって言われたの』

「僕を嫌いにならないでくれ」

 しばらく間が空いた。でも、すぐに彼女のクスクスという笑い声が聞こえる。

『たまに思います。カリヒさんは馬鹿ですよね私がカリヒさんを嫌いになるはず無いじゃないですか』

「いいや。ごめん。僕は君がより一層好きになった。早くあっちに逝きたい。君とふれあいたい」

『駄目ですよ』

「わかっている。シャルラッハートを殺してから。僕は死ぬ」

『駄目です。最後まで生き抜いてください』

「それが罪か?君との時間はお預け。なんて過酷なんだ」

『皮肉のつもりですか?』

「ああ。ごめん。じゃあ。戦うよ。逃げずに」

 僕は立ち上がり、扉を開ける。

「…これは?」

 


 クロノスは投技で3機のHUWEを破壊し続けた。機械自体が重く、自重で崩壊するくらいなのだ。

「意外と簡単だな」

 といって、さっき壊した扉の置くの部屋にはいる。そこには小さくうずくまった、裸体の少年少女の体が液体のつめ込まれた円柱のカプセルに入れられていた。酸素マスクのようなものをつけられ、チューブで繋がれている無残な姿が彼の目に写った。

 数は軽く100個を超えていただろうか?

「人体実験でもしているってのか?」

 クロノスは唖然として、その中にある1つのカプセルに手をかざして触れた。

「これが、あいつの企んでいたことなのか?」

 クロノスはこの部屋の中をくまなく探した。

 ホワイトハウスは、政権の中枢で、その中で執務を行う為に在ると言うことくらいはクロノスは知っていた。

 実はシャルラッハートは過去に一度、この部屋を公開した事があった。

 この子たちは親に捨てられて、死の淵をさまよっている。もし願いが叶うなら。この子たちの脳をデータ化して機械に埋め込み、金属の肉体を与え、自由気ままに余生を活かしてあげたい。という禁忌を犯した政治的パフォーマンスだったという。

 クロノスはそれを知らなかった。それにここの子供たちに同情する気など更々なかった。彼の中からこみ上げてきた感情はシャルラッハートへと静かな怒りである。

「なあ。居るんだろ?シャルラッハート?」

 クロノスは呼びかける。すると奥の扉から1人でシャルラッハートが歩いてきた。まるで何かを企んで居るような。それとも真っ向からクロノスに挑むつもりなのか…

「やあ。クロノス」

「俺はさあ。お前の考えがわからないよ。なんで奴隷制度を再臨させたのかとか、この人体実験のような場所だとかさ」

「ここのカプセルの中にいる子供たちは、私の我儘で無理やり閉じ込めているのは認めるが。奴隷制度を考案したのは私じゃないとでも言っておこうか?」

 シャルラッハートは不吉な笑みを浮かべてクロノスを見る。お互いに丸腰で、圧倒的にクロノスのほうが有利な立ち位置にいるのだが、シャルラッハートはそれでも笑う。

 その笑顔の中には少しの情が溢れでた。

「じゃあ、まあ。俺は考えることは苦手だから率直に聞く。ここのカプセルの中にいる子供たちに何をするつもりだ?」

「機械の体を与えるんだ」

「どうやって?」

「脳を刻んでスキャンしてデータ化だ」

 クロノスは聞くんじゃなかったと後悔した。

「私は、大統領になる前は教師をしていたんだ」

「へえ。先生か」

「今から30年くらい前になるかな?」

 シャルラッハートはジメジメした話を持ちかける。

「教師をやめた理由ははIS、Islamic State だ。当時ISは宗教にカッコつけて大量に人を殺していたんだ。私はある日、小さな州の学校に転属されてね。簡単にいうと、ISに生徒が誘拐されたんだ」

「そんな話はどうでもいい。誰が奴隷制度を作ったんだ?」

 クロノスは煮えくりかえるほどに怒りを持っていたが、落ち着きを保ち、シャルラッハートの言葉を遮り問た。

「God Program だ」

 シャルラッハートは悲しげな目で言葉をつぶやき、1つのカプセルに掌を押し当てて、口を動かす。

「No.389。中にいる少女はシャーロット・ガルシア。これは私の教え子だ」

 と言った。その言葉にクロノスの我慢がぷつりと切れ、シャルラッハートに飛びかかるが、足に激痛が走り、敵の足元に滑りながら素通りした。

「なんだ?」

 クロノスが振り返ると、サプレッサーのついたハンドガンを持った黒スーツの男が彼を撃っていた。

「まて、未だ殺さないでくれ。彼には話が残っているんだ」

 シャルラッハートは黒スーツの男に命じた。



 僕が手にしたのは小型パワードスーツの試作品だった。これは手足の関節部分につけることにより、僕の体の補助をしてくれる。使い方によっては、格闘技を利用して攻撃力を圧倒的に上げる事ができる。

「リーナ。シャルラッハートの場所を教えてくれ」

『すみません。わかりません。私はカリヒさんの手助けをしろと言われただけで』

「そっか。じゃあ教えてほしい。僕はどこに行って何をすればいい?」

『God Program と接触してください』

「その、ゴッドブログラムが何なのか知らないけど、リーナ。案内頼むよ」

 といって僕は彼女に、左右の指示を聞いて走る。

 さっきのサイボーグがガトリングの銃口を僕に向けてくるのが目視出来る。僕はスライディングをして機械の股をくぐり背中に回りこむ。かなりスピードが出ていたので、勢いにまかせて体を回転させて足払いをする。サイボーグはバランスを崩し、うつ伏せ担って倒れる。僕は力まかせで、全体重とパワードスーツの運動を利用し、殴りつける。サイボーグの背面ど真ん中を叩きつけて貫通させた。

 僕の生身の拳の皮は剥け、少量の血を垂らした。



 クロノスは銃傷を庇いながら這って黒スーツの男に接近した。下からの動きに判断が遅れ、黒スーツは剃るように倒れた。クロノスは片足で立ち上がり脱力し、全体重を被せた拳で男の鼻をへし折り、地面に後頭部に叩きつけた。

 ハンドガンを奪い取り、シャルラッハートに向ける。

「俺はお前の考えを理解できない。だからお前の味方を出来ない。残念だが」

 彼の銃を握る右手の皮は剥けて、血を流していた。

 そして引き金を引くクロノス。だが、その手は宙を舞い、真っ赤な飛沫が彼の顔に振りかかる。

 クロノスは大声を上げ腕を抑えて転がる。

 激痛が彼を襲った。彼が見上げる先にはチェンソーのような回転鋸を右腕に、M16の銃口をそのまま取り付けたような機銃を左腕に装備したHUWEが居た。

「全く。最後まで俺はついてないな」



 僕は拳の血を着ている服の袖口に拭った。

「あ。クロノスが逝った」

 僕とリーナは彼の死を看取った。

『どうしてカリヒさんはわかったんですか?』

「なんか。感応現象的な?」

 僕はパワードスーツの補助を受けながら速度を上げて駆ける。

 右だの左だの散々言われ、下り階段を見つけることが出来た。

『あ、時間切れで…』

 リーナの声はノイズのように消えた。

「え?ちょっと待って?リーナ?」

 もう少し話がしたかった。僕は不安になりながら階段を下る。

「ここでいいのか?」

『ええ。構いませんよ?』

 リーナの声ではない。誰だ?

「えっと?マシロか?」

 取り敢えず思い当たった死人の名前を出してみた。

『当たりです。よくわかりましたね。カリヒさん』

「適当に人の名前を言っただけだよ。推理なんざしてないさ」

『初めまして』

「よろしく。で、君は敵か?味方か?」

『どっちだと思います?』

「どっちでもいい」

 言葉を吐き捨て一本道を走る。

 機械音の声が聴こえる。この距離ではなんと言っているのかわからなかったが取り敢えず。これがゴッドプログラムだとわかった。

「マシロ。君はGod Program に何を命令されているんだ?」

『クロノスかカリヒさんのどちらかを連れて行けって言う話よ』

「どっちか?どっちもじゃ駄目なのか?」

『1人だけがGod Program に選ばれるらしいのだけれど、詳しくはわからないの。ごめんなさい』

 この幻聴を作り出しているのはそのGod Programだとしたら何故今になって彼女達の声が聞こえるのかが納得がいく。

 その機械の声が聞こえた時に僕はその言葉を改めて言葉として捉えることが出来た。

『カリヒ』

 何かが僕の名前を呼んでいた。

『あ、時間が切れた』

 彼女の声もノイズのように遮られる。

「お前もかよ。まあいいや。ねえ。君はGod Program か?」

 僕は機械音の主に聞く。その部屋1つが金属と回路で成り立っている機械だった。

『ああ。と言うよりは、God Program の喉とでも言うべきだろうか』

 スピーカーから放送のように流れる声。しかしこれは人間のものではないとすぐに分かるくらいぶれている音だった。

「喉ねぇ」

 僕は無線機を通せるか確認する為ミカエルに送った。

「こちらレッドテイル。エンジェル、応答せよ」

『はい。何ですか?』

 銃声と、金属が擦れる鈍い音が聞こえた。

「今どこにいる?」

『ホワイトハウス前です』

「何だ。来てくれたのか」

『勘違いしないでください。カリヒさんがリーナさんを失った悲しみで任務を放棄していないか見に来ただけです』

 僕は彼女に笑い声と共に返答する。

「大丈夫。リーナとも約束したから。僕はアメリカ大統領、シャルラッハート・ワシントンを殺し、この世界から奴隷制度を撤廃させる!僕やリーナのような子供の奴隷を減らすために!」



 数時間前、第三部隊カラーズのサジ、ミレーナ、フランカは持ち前の格闘術で航空便の運転手を気絶させ。運転席を乗っ取り飛行機を操縦していた。

「初めて飛行機を運転するよ」

 サジはいつもは落ち着いているのに、今回は高ぶっていた。それには2つの意味がある。好奇心と恐怖心だ。もし自分が軽いミスを犯せばここにいる乗客300人ほどを巻き込むということを考えた瞬間悪寒が走るほど緊張するが、それに勝る好奇心と自信過剰な性格は彼のマイナス思考を相殺した。

「このままアメリカの空港に無理やり着陸すればいいのか?」

 サジは通信機を取った。

「こちらF35便。機体がハイジャックされた為着陸します」

 その頃ミレーナは分解して持ち運んだ6本のガトリングをフランカと作り合わせる。降りた時の“交渉材料”として利用するためだ。

 勿論。フランカも武器を持っている。カリヒが以前愛用していたミネベアだ。

 空港では金属探知機の囲いを通る前にベルトを外すように言われる。それを彼女は知っていて、ベルトに弾薬と銃の金属部分になり得るものを引っ掛けていたのだ。

 そしてガトリングのパーツは3人で分けて別々の客を装いカモフラージュしたのだ。



 ワゴン車を盾にアーシャは狙撃兵との銃撃戦をしていた。

 彼女の撃つ銃弾は的確に狙撃兵の眉間を貫く。

「後何人ですか?」

 ミカエルは銃を握り、ワゴン車に背中をつけながらアーシャに問う。

「見えるだけ2人です。それ以外はわかりません」

「2人倒し終わったら突っ込みますよ。もし敵が居たら運が悪かったってことで」

 ミカエルは撃って隠れ、撃って隠れを2回行う。

「倒しました!」

「突撃!」

 アーシャの達成感でいっぱいの声が響き、ミカエルの駆り立てるような大声が反響する。

 そして彼女たちは建物の内部に入り、ミカエルとアーシャがペアを組み、メリラがソロで2手にわかれた。

 ミカエル組は地下に、メリラは奥の部屋に向かう。


 

「なあ。God Program」

『どうした?』

「奴隷制度はお前が創ったのか?」

 僕は静かに怒鳴るように聞く。

『そうだ』

「理由は?」

『人類は在る一定期に進化をやめた。原因は増えすぎた人口と間引きのため戦争をやっていたことだ』

「人口が増えるのはわかるが、間引きで戦争って言うのは考え過ぎじゃないか?」

『そうだな。戦争は以前からあった。理由は何だと思う?』

 機械の声は段々人間らしく成った。

「そうだな。劣等感と価値観の違いが関係の亀裂を生むんだろ?」

『正解だ。知識には抜かり無いな』

「これからお前が言うことが手に取るようにわかる。『奴隷という誰から見ても下の存在を置くことによって価値観を保ち、劣等感を排除出来る』ってことだろ?」

 僕はその部屋のスピーカーを睨んだ。カメラがどこにあって、僕をどこで認識しているのかわからないから。取り敢えずな。

「でもそれだと、奴隷に対する扱いでもまた価値観の違いが出るだろ?」

『それをうまく調和するのが大統領の仕事だ』

「お前。大統領を天秤か何かとでも思っているのか?」

『その通り。大統領は力を調節するだけの道具にすぎない』

「僕とは全く価値観が合わない」

『面白いことを言うな。カリヒ』

 僕の皮肉に機械は人間のように反応する。

「なんだよそれ。人間ぶるなよ」

『はっはっは』

 その高笑いは情が含まれていて、気分が悪い。僕はそいつに嫌悪を見せる。どうやら僕も“同族嫌悪”が激しいタイプの人間らしい。

「で、まあ本題だけど、僕とクロノスをこの部屋に呼ぶつもりだったのか?」

『そうだな。どちらか1人という選択だがな』

 だからさっきクロノスを殺したのか。間近に見たわけじゃないから死んだという事実しかわからないがな。

「これこそ。理由が気になるな」

『ああ。単刀直入に言う。大統領に。君が言う、天秤になるつもりはないか?』

 その声は自分の利益しか考えていない悪魔のような人間の言葉だった。


                    …続く

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