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10話 無知で愚かな人間(ヒューマン)

 僕は…

「おい」

 僕が僕を見ている。

「ここはどこだ?」

 僕は、目の前に居る僕に聞く。

 周りは暗く、まるで水中にでも居るかのように体の自由が効かなかった。

「なあ。カリヒ」

 僕はその声を聞いてすぐに話している相手がもう1人だと気づいた。

「ああ。君か」

 僕は彼の頬に触れようとするが、僕の手は半壊していて、歪になっていた。

「そうだ!リーナが!」

 僕は頭を抱える。

「ああ。お前がしっかり彼女を見ていなかったからリーナが死んだ。お前のせいだ」

 もう1人は僕を斬り裂くように睨みつけ、それはもう叩きつけるように言葉で薙ぐ。

「うるさい!僕は!リーナに心配されないように!気を配ったんだ!」

「ああ。それが仇となったんだ」

 それは僕の耳に入り、脳みそをかきみだした。

「やめてくれ!もう!体ならくれてやる!だから!リーナのことを攻めるなんて…やめてくれ!」

「要らねーよ。リーナが居ない世界なんて…必要ない」

 僕は彼を見上げる。

「変わってくれ。頼む。僕はこのまま罪悪感に押しつぶされて生きるより、君に飲まれて死んだほうが増しだ」

 泣きながら。壊れた体を紡ぎながら、僕は彼に訴える。

「都合がいいな。人間らしくて腹立たしい。人を殺すために生きるバケモノが」

 もう1人は僕を追い詰めるために言葉は吐き、怒号を続けた。

「君は言ったよね。僕から逃げるために、依存したって。リーナに!でも僕はリーナを心から愛していた。君以上にだ!君は妹のリナをかぶせてリーナを見ていた!そんな生半可な愛に、リーナは傷ついていたことを、君は知っていた。それでも目を逸らした。彼女はいつも誰かの代わりだって!言っていただろ!」

「知っているよ!だからあれ以来僕は!」

「嘘をつくな!お前はいつも掃き溜めとしてリーナを抱いていた!リーナから誘ってきたと言い訳をして!」

 僕は首を振り否定し続けた。

「違う!僕はリーナのことを愛していた!」

「彼女の為に、涙を流せたか?」

「涙は関係ない!」

 冷静なもう1人の対応。僕は声を荒げて反発する。

「君の抱えた罪悪感はなんだ?」

「もっと、彼女を理解して上げたかった」

「それは後悔でしかないだろ?リーナは。僕…いや。君しかなかったんだ。すべて、君だけだった。君のためなら命を張って動けるし、君が望めばなんだって手放した」

「そんなことはない!」

「いいや。リーナは君の傀儡だ。都合良く動く人形でしかなかった」

「ふざけるな!」

「ふざけてない。君は幾度と無くリーナの寝言を聞いたはずだ」

 その言葉で、僕の脳裏にあった彼女に関する記憶が過る。

『愛されたい』

『望まれたい』

『必要とされたい』

『認められたい』

『嬲られたい』

『痛みを抱えたい』

 何よりも應えたのが、

『私を私と見てほしい』

 だった。

 確かに、今思えば。僕が彼女にあった感情は愛ではなく後悔だった。

 もっとリナと過ごしたかったという心の片隅にあった願いを彼女は読み取ったのだろう。

 何が罪悪感だ。ただの押し付けだろ。

「やっと気がついたか。君はいつも僕を困らせる。何度君の尻拭いをしたと思っているんだ?」

 僕は傲慢だ。愛されたいがために今目の前に居る彼を作り出し、負の感情をすべて押し付けた。

 待て?

 すべて?

 僕には殺戮衝動がある。それは僕の何よりの快楽だ。それは負の感情に含まれるはずだ。もう1人が僕の負の感情をすべて持っているのであれば、誰がこの衝動を持っているのだ?


『僕だよ!』


 僕と、もう1人の他に人格はあった。その人格はどちらの僕にも干渉していたのだ。

 そしてその僕は…

 小学生くらいの背格好で…

「まずい。カリヒ。逃げるぞ!」

「は?」

 僕はもう1人に手を引かれた。

 さっきまで壊れかけていた僕の体はもうすでに“直っていた”

「なあ。あいつは?」

「僕が“産まれる前”から居た。怖くて今まで近づかなかったが、一番やばいやつだ」

 思い出した。あいつは…僕が拷問されていた時の…

 少年は真っ黒な空間を縦横無尽に駆け、僕ともう1人の僕の目の前に来た。

「ねえ。なんで逃げるの?」

 死神の正体は彼だ。僕はなぜか知っていた。彼が居たから、僕には恐怖がなかったのだ。

「離してくれ」

 もう1人の手を、手首から離し、男児の僕に歩む。

「馬鹿!」

「いいから!」

 止めるもう1人。僕は構わず近づく。

「ねえ。リーナは死んじゃったんでしょ?」

 今より少し高い声で首を傾げて聞いてきた。唇からは血が出ていて、服はボロボロ。

 僕は膝をつき、目線を合わせた。

「ああ。死んだ。リーナは…僕のせいで」

「知ってる。でも殺したのはクロノスだ。だからクロノスを殺そう」

 僕は首を振った。

「いいや。それは違う」

「どうして?」

「君にはお礼を言わないとね。今まで僕を助けてくれてありがとう」

 僕は彼を抱擁した。

「どういたしまして?」

「いつも、僕の隣に居てくれてありがとう」

「それはリーナが居たからだよ。ねえ。体を変わってくれないかな?僕はクロノスを殺す。そしてついでにシャルラッハートとか言う、僕を作り出した原因を殺す。それでいいだろ?」

「いや。すべて僕に任せてくれ。僕は君に頼りすぎた。だから今度は僕がなんとかする番だ」

 すると男児の僕は僕の腕を噛み千切った。

「嫌だ!僕は殺す!リナを奪ったお母さんも、お父さんも、それの元凶であるシャルラッハートも、リーナを殺したクロノスも!」

 僕は痛みをこらえて少年の僕に告げた。

「君だけでか?それは無理だ。なぜなら君には作戦指揮を立てる能力も脳みそも足りていない」

「殺せば何でも解決だ」

「じゃあ今僕を殺しな?それが出来ないと無理だよ?」

 少年は噛み千切った方の手に再び歯を突き立てて来る。僕はそれを回避し、飛び上がり、踵落としで肩を外す。少年は痛い痛いと泣き叫ぶ。

「だろ?君じゃ無理だ。とっとと消えてくれ」

「わかった!その代わり。殺しの手伝いはするから」

 少年は僕の中に消えていった。

 多分これで、僕の殺戮衝動は弱まっただろう。まあ、なくなるのは時間の問題だ。

「君はすごいな。つくづく驚かされる。壊れた心を一瞬で修復し、手のつけようがなくなった負のエネルギー体を手懐けた。普通の人間じゃ出来ないだろ」

「僕のレプリカに言われてもな…」

「言っておくが、僕は確かに君と同じ存在だが、もう違うものだ。だから僕は僕で君は君だ。似て非なる」

「知っているさ。でも僕を褒めるのはお門違いな気がするんだが」

 会話が弾んだところで、彼は僕に伝える。

「でも僕はもう逝くよ、カリヒ。リーナの居ない世界なんか、生きていたって仕方がないからね」

 僕は頷く。

 すると彼は音を立て、光のように消えていった。僕の心に負の感情が人並みに戻ってきた。

「僕は立ち直るつもりはないよ」



 僕の目の前にはクロノスが居た。それはもう。怯えている。そしてクロノスの隣にはリーナの死体があった。

 僕は自分の時計を見る。

「1秒も経っていない?」

 あの不思議空間は僕だけの時間が流れていたのだとでも言うのだろうか?

「クロノス」

「俺じゃない。俺じゃない」

「少し外してくれ。リーナにお別れを言いたいんだ」

「あ?ああ」

 青ざめた顔で、彼は銃を置き、外に出て行った。完全に生きる意味を失っただろう。僕はクロノスが去るのを確認し、リーナを抱えた。

 未だ体温が少し残っているが、すでに生温い程度で、生を感じない。

 しかし、僕は彼女に…彼女の肉に伝える。聞こえているといいな。そう願いながら。

「リーナ。僕は君には何もしてあげることが出来なかった。だから、ごめんね。それしか言えることがないや。

 だけどね。思うんだ。君が居なかったら、知識を持て余していた。なんて言ったらいいのかわからないよ。君が居てくれてよかったってしか。

 言葉がまとまらない。どうしよう。今、君と話がしたい。何でもいい。なんでもいいんだ。だから…ごめんね。僕は君と話がしたい」

 涙が止まらなかった。同じ言葉を何度も繰り返し、彼女の体を抱いて、涙する。

 服に、体に、大量の血を浴びて、彼女の匂いを、鼻で、肌で、目で感じ取って、最後の別れを告げた。

「僕は初めてあった時、確かに、自分の妹を思い出した。でも、そのうち君がたまらなく好きになった。嫌だ。別れたくない。君とずっと生きたかった。贅沢は言わない。君が隣りにいてくれればいい。我儘でも、君をもっと抱きたい。もっと君を愛したい。もっと君に必要とされたかった。僕は君の愛をしっかり受け止めたい!ごめんね。リーナ」

 僕は泣きわめく。それでも足りない。この世のすべてを憎み、恨むように。僕は怒号を吐き続けた。

 


 泣いてすっきりした後、クロノスは僕の居るところへ、申し訳無さそうに歩いてきた。

「どうした?」

「俺にも…懺悔させてくれ」

「ああ。そうしてくれ」

 クロノスはリーナに手を合わせて黙祷をした。これは仏教だろうか?はたまた知識の合成だろうか?

 そして、クロノスは立ち上がり、俺に対面する。

「俺のことが憎いか?」

 と、挑発のように言葉を紡ぐが、同様していたため、死ぬ気で居ることがバレバレである。

「愛する人が殺されて、憎くないわけ無いだろ」

 僕は彼に聞こえるように声帯を軽く振動させて伝えた。

「…」

 クロノスは黙った。僕の予想外のコメントに焦りを見せたと捉えられる。

「これは僕が本を読んで、自分の脳内で構築した新たな思想だ。

 痛みは与えた分、受けた分がプラスマイナスゼロ。君は今までに痛みを散々受けた。僕は今までに痛みを散々与えた。だから君は僕に痛みを与えられたと考えている。

 もしそれで納得ができず、リーナを殺していることに負い目を感じているのであれば、僕に協力しろ。そうしてシャルラッハートを討ち取る。いいな?」

 僕は睨みつけてクロノスに伝えた。

 クロノスは今まで聞いたことのない言葉を耳にして、高笑いを見せる。

「なんで?なんでお前はそこまでクールなんだ?」

 そしてクロノスは続ける。

「俺がマシロを失った時、そこまで早く立ち直れなかったぞ?」

 僕はマシロという人間を知らない。でもこれだけはわかる。クロノスにとって大事な人間だったということくらいは。

「なあ。クロノス。僕は君を許していない。だから君と一緒に死ぬことを選んだ。多分。僕の痛みの借金は未だ残っている。死ぬつもりなら僕も君も一緒だ。だから。死にに行こう」

 クロノスは首をふる。彼は僕に協力するつもりであるものの、死という断片的で不明なものに恐怖していたのだ。

「いいや。一緒に生きて帰ろうぜ。カリヒ。お前が死んだら、誰がリーナを弔うんだよ」

「知らなかったか?僕は君と違って人望が厚いんだ。だから僕が居なくてもリーナを供養してくれる仲間はいるし、僕が死んでも、君が死んでも、僕の仲間はリーナ同様、同じ墓に入れてくれるさ」

 僕はクロノスに皮肉と挑発を混ぜたコメントを告げる。

「ああ。わかった。今、シャルラッハートはホワイトハウスにいる」

「君、運転は出来るか?攻め入るぞ」

 


 1つ、悪感情はすべて別人格やエアフレンドに押し付けているから。

 1つ、痛みを受ける予兆。

 1つ、リーナが橋になってくれた。

 リーナをトランクに詰め込み、僕は無線をつなげる。

「こちらレッドテイル。エンジェル。応答願う」

 すると、ミカエルはしっかり応答した。

『こちらエンジェル。どうしました?レッドテイル』

「ウィッチが戦死した」

 それを伝えると、ミカエルのすすり泣くような声が聞こえる。

『カリ…レッドテイルは大丈夫ですか?』

「僕は大声で泣いたから平気。あ、黒騎士を味方に引き入れた。これから白の帝国を攻め入る」

 黒騎士は文字通りクロノス。白の帝国はホワイトハウスの伏字。

『くれぐれも無理のないようにお願いします。そちらに大事があってはすべてが駄目に成ってしまいます』

 珍しく抽象的な表現のミカエル。彼女は混乱しているのだろう。最後に皆の名前を読んであげたいが、僕は通信終了とつぶやき通話を切る。

「準備出来たぞ。カリヒ」

「ああ。ありがとう。クロノス」

 僕はトラックの助手席に乗った。ここからホワイトハウスの距離はさほどない。だから3時間以内につくだろう。



 その頃、ミカエルはISの借りているアパートの壁に体を寄せて泣いていた。彼女にとって、リーナは姉のような柔らかい存在。

 その様子を見たメリラは不思議に重い、ミカエルに近づき寄り添った。

「どうしたの?」

 彼女はある程度悟った。しかし、少し脳内で誤解が生まれていて、死んだのをカリヒと解釈した。そしてミカエルが、

「リーナさんが…亡くなったそうです」

 かすれた小さい声で言う。それを聞いたメリラは想像以上にダメージを受けた。彼女も釣られて涙した。

「あれ?」

 大粒の涙が溢れる。

「そんな。リーナさんが?」

 信じられなかった。何故自分がここまで傷ついているのかわからないほど、彼女は泣いた。

 そして2人はアーシャに合流した。

「アーシャさん。落ち着いて聞いてください」

 瞼を腫らして顔を赤くするミカエル。アーシャは感受性が強くもらい泣きをしそうになる。

「リーナさんが亡くなりました」

 彼女も同じく、理由がわからずに傷つく。

 理由は簡単だ。

 リーナのふわふわした愛情は心の傷をそっとバンソーコーのように覆っていた。

 SRAの中で一番傷を負っていたリーナ。それなのに、SRAの中で一番幸せそうだった。

 泣きじゃくるアーシャを抱きかかえるミカエル。みんな方を寄せ合い傷を舐め合った。

 


「なあ。クロノス」

「なんだ?」

 僕はトラックで寛ぎながら彼に聞いた。

「マシロって言っていたな。どんな女の子だった?」

 彼はしぶしぶ答える。

「そうだな。外見は金髪に白の肌だった」

「外見じゃなく、中身。覚えている範囲でいい」

「全部覚えているよ。確かに小さい頃だったけど」

 そうだなとクロノスはつなぎ、単語を1つ1つ作り出す。

「正義感が強い。優しい。働き者。無鉄砲。ガサツ。他人を優先した考え方で…」

 クロノスは言葉を止めた。

「聞けば聞くほどリーナに似てくるな。それだけ奴隷はリーナのような考え方の女の子が出てくるのか?」

「多分違う。知らないけど。でも…マシロが死んで以来、俺は不純な関係が許せなく成った」

「トラウマか。マシロの死因が“それ”なんだな?」

「ああ」

 ガス欠でトラックは止まった。

 人通りの少ない場所でよかったよ。僕とクロノスは降りて、中に積んだクロノスのオートバイを2人乗りで行く。

「リーナ。置いていくけどごめんね」

 僕らはM16をそれぞれ持って向かった。



 目的地につくと、そこには警備隊がボンネットやスナイパーやらで武装していた。

「めんどくさ。爆弾持ってくればよかった」

「お前、口調が変わったな。穏やかだったのが、突然切れのある感じになったよ」

「そうだな。負の感情を取り戻したからだよ。すまん。オートバイ。壊していい?」

「まあ、もうガスも足りないし、仕方ない。いいぜ」

 僕はバイクに跨がりそのまま突っ込んだ。警備隊は僕に銃を打つが、当たらない。そのままバイクを降り、警備隊のど真ん中に叩きつけた。そして、そこにクロノスがM16の弾丸を打ち込みバイクを爆発させた。盾を持った兵は蹴散らされ、その場に隙ができた。

 この位置からスナイパーは狙ってくる。僕は素早く撤退した。

「さあ。次はどこへ攻める?ここは薄くなったがスナイパーがいる」

 クロノスと作戦会議をすすめる。

「正面から行こう。警察の盾を盗って強行突破だ」

「オッケー。それまでに撃たれるなよ?」

 僕とクロノスは言葉通り特攻し、ボンネットを掴み、スナイパーの狙撃をやり過ごしながら、中に入る。

「割りと簡単だったな。被弾は?」

 クロノスは傷を心配する。

「大丈夫。どこも怪我をしていない」

 ボンネットを捨て、中の階段を進むと、サイボーグが現れ、放送が響いた。

『やあ。クロノス。いつか寝返ると思ったよ。それにしてもテロリスト君は手際がいいね』

 シャルラッハートの声だ。

『飼い犬に手を噛まれる。いや、飼猫に目を潰されると言ったら正しいかな?』

「すごいな。言葉だけで半端無く威圧されそうだ」

 僕はクロノスの耳に囁く。

「ああ。その前に、この眼の前に居るデカブツを処理するぞ」

 サイボーグは大きさや形は全く人間と同じだが、すぐに機械だと判断出来た。肌の色がおかしい。もうこれは機械人間サイボーグと言うより、機械兵器と言ったほうが正しいと思えてくる。

 僕は銃を構える。

 クロノスは銃を構える。

 サイボーグは指から機銃のように弾をばら撒く。僕は階段を降り、銃弾をやり過ごす。クロノスは側面に出て射程を外れた。

 以前サイボーグと戦ったことがあるが、M16程度の弾丸じゃ全く効果はない。

 僕は階段を前段降り、サイボーグが見える範囲まで動く。クロノスと僕で前と後ろを囲んだが、サイボーグは僕のもとにまっ直線に降りてきた。

「やばい!」

 僕は転がる。やつは僕が居た地点に体重を込めた飛び蹴りを繰り出し、床を砕いていた。

「嘘だろ?」

 僕は銃を打ちながら距離を取る。僕は銃を撃ち止め屈む。クロノスが後ろから銃を撃ち、僕はしゃがんだまま後退して、位置を入れ替えた。

 弾は当たるが、鉄をへこませるくらいで全くダメージにつながらない。

「言語が通じる相手ならいいな」

「ああ。でも残念ながら摂食機関はないみたいだ」

 ロケランを打ち込んでやりたい。これほど強くミレーナを求めたことはないよ全く。

 考えろ。ミレーナなら、この装甲をどうやって破壊する?

 いやそもそもミレーナは思考力が弱いからロケランしか使わないのか。あとは手榴弾。まあ、僕の知識の足しになるようなことは一切してくれなかった。むしろ馬鹿が感染った。

「クロノス。弾が切れたら僕のを使ってくれ」

 僕はクロノスの足元に銃を転がした。そしてクロノスは銃を捨て、僕のを拾って撃ちこむ。敵は撃っている間は動かない。僕は空になった銃を持ち、敵に近づく。

 クロノスは撃つのをやめた。

 僕は銃口を持って、グリップで遠心力をつけて頭部を叩いた。

「ダメージは?ない!?」

 僕は無傷な敵に気づき、即座にバックステップをする。タイミングよく弾丸を躱せた。

「一旦外に出るよ!」

「馬鹿!スナイパーが居るぞ!?」

 僕はクロノスの忠告を無視して、敵に背を向け逃亡して、ボンネットを広い上げ警備隊が持っていたM16とその弾を拾い上げる。スナイパーの弾を掻い潜り、中に入る。クロノスは逃げながら応戦していた。僕は助走をつけてサイボーグに駆け出す。

 そしてボンネットを突き付けタックルした。

 サイボーグは仰向けになる。

 クロノスはサイボーグに至近距離で銃を乱射しているのだが、全く効果がない。いや、多少は凹ませている。

「すまん。弾切れだ!」

「もうないな。内側から破壊できればいいんだけど」

 僕は起き上がろうとするサイボーグに重さ1.5キロほどのボンネットを叩きつける。

「あ、これ、結構効果がある」

 僕は何回も叩きつけて首をポロッと出した。

 咄嗟にサイボーグが起き上がる。

 僕は急いで可否行動に出て、クロノスに大声を上げて知らせる。

「すまん!未だ生きていた!」

そしてサイボーグが僕に銃を向けてくる。僕は武器を捨て、ボンネットを構える。

「武器はここにおいておくから、またさっきの作戦で行くよ!」

 僕はボンネットでタックルをする。今度は回避され、危うく、僕が蜂の巣になるところだったが、咄嗟に回避して、敵の射角から外れる。敵は目が見えていないものの、僕の動きに対して、的確に反応をしている。サイボーグではなくもうすでに二足歩行AIといったほうが正しかったのかもしれない。僕は取り敢えず敵のサイボーグから離れた。

 その間、僕が置いた武器をクロノスは拾ってくれたようだ。

「頭飛ばされて動くとか、ゴキブリか?」

 クロノスは僕が持ってきた銃を握り、乱射してサイボーグの気を引く。

 今の立ち位置は僕がサイボーグの8時の方向、クロノスはサイボーグの1時の方向になる。

「クロノス。銃口を的確に破壊できるか?」

「あ?」

 僕はクロノスに支持を出すが、ぶっきらぼうに返答される。サイボーグはクロノスに銃口が付いている5本指を向ける。クロノスは3秒間引き金を引き続けると、まず手始めに、頭無しサイボーグの指がはじけ飛び、その後肩が爆発を引き起こし、左腕部分を大幅に破損させた。これでサイボーグは最後のガンダムのように頭部と左肩部を失い、武器が削がれた状態になる。

「さすがだな。口は悪いがやるときはやるね。クロノス!」

「褒めてんのか貶してんのかどっちかにしろ」

 このセリフにデジャヴを感じるな。それだけでリーナを思い出す。

「じゃあ、攻略は任せた!僕は射撃下手くそだから、先に行くね」

 弾が空になったM16を拾い上げ、マガジンを取り外し、リロードする。

「ああ。後は俺に任せて先に行け。このセリフ。一度言ってみたかったんだよな」

 僕はクロノスを後にし、そのまま先へと進む。

 さあ、今回の戦闘で、僕とクロノスはどれだけの罪を背負っただろう。もう取り返しがつけられないな。

 僕は自分に対する痛みならば受け止めてやれる。しかし、これ以上仲間が殺されたら僕は立ち直れるのか不安だ。

 僕は前を向き、そのまま走る。アメリカの大統領。シャルラッハート・ワシントンを殺すために。

 彼の掲げる奴隷制度を破滅が今回の目的だとすれば、サイボーグになる人間はこれ以上でなくて済むはずだ。

 そんな子供染みた甘い考えで僕は進む。

「刺し違えても殺す!」

 僕は今までにない殺気を快楽ではなく、敵意として示す。


                   …続く

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