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#1 エピローグ

一応ファンタジー?

よろしくお願いします。


 吹雪の中、わたしは棺を牽いて歩みを進める――

 果ての見えぬ純白の闇の中、終わりを信じて歩みを進める。どこまでも続く、目の届く限り全てを多い尽くす白い雪。マントが風に靡き、凍えるそれらは髪も睫も凍てつかせ、わたしの体温を急激に奪っていく……。


「…………」


 旅の終わりはすぐ目前。長い間待ち望んでいたものが目の前にあるのならば、最早帰り道の保障など不要。投げ捨てる荷物には食料が。資材が。旅先で手に入れた数々の思い出の品が。雪に埋もれて取り残されていく……。

 結局の所、そうなのだ。最後に私に残されるのはこの棺と、棺と共に抱く本当に大切な思い出だけ。

 雪の重さは棺桶をより重く感じさせ、わたしの手足から体力を奪っていく。だが、歩みを緩めはしない。ブーツの中にまで入り込む雪は感覚を奪い、自分が歩いているのか止まっているのかも判らなくなる。

 それでも歩みを止めはしない。歩き続けている自分を信じ続ける。わたしの旅はこんな所で終わるはずがないのだ。そう、終わらせるわけには行かない……。


「マスター……」


 あなたなら、きっとそうしたはずだと思うから――。あなたなら、きっとこの吹雪の中、何の保証もない明日と自らの命を根拠もなく信じ続けたはずだから。

 否。そこには確かに根拠がある。自らが踏み固め道としてきた過去がある限り、その先に続く自分を信じている限り。

 旅は終わらない――彼はそう言ってわたしに笑いかけるだろう。だからわたしは彼が信じたわたしを信じたい。

 走馬灯のように脳裏を過ぎる様々な人々の感情。怒りや憎しみ、罵倒。けれど、笑顔や優しい言葉とて皆無ではなかった。

 旅は確かに意味があった 悲しみや苦しみがその記憶の殆どを彩っていたとしても、それは決して無意味などではない。

 雪の中、倒れる。足が止まる。息が切れる。棺桶が重い……。棺を引く手の感覚がない。震えているのは重さのせいなのか、それとも寒さのせいなのか。

 どちらにせよ関係などない。凍りついた瞼が痛く、重く……。呼吸し続ける事さえ億劫で、このまま眠るように息絶えてしまえたらどれだけいいだろうとさえ思う。

 それでも棺桶は手放さない。これを手放してしまったならば、わたしの今までの旅は全て無駄になってしまう。何よりこれを手放してしまったならば、彼に別れを告げなければならなくなる。

 約束を、破る事になる。わたし自らの手で彼の顔に泥を塗る事になる。だから手放してはいけない。何があったとしても、決して……。

 雪の大地を這う。足跡も残らないような激しい白の中、一歩ずつ、ゆっくりと、それでも歩き出す。

 前は見ない。先に何も見えずとも、わたしは諦めたりなどしない。絶対にたどり着き、そして果たすべき約束を果たすのだ。

 そして願いの先にある、わたしの幸せを取り返すのだ――。


「もう少し……」


 ――もう少しなのだ。


「あと少しで……」


 ――化物だなんて言わせない。


「マスター……」


 ――どうかわたしに力を貸して欲しい。


「人間に……」


 ――化物のわたしが、人間になるために。


 辿り付く先は巨大な聖堂。大きすぎる鉄の門を叩く。けれども音は弱弱しく、吹雪の音に掻き消されてしまう。

 それでも尚、必死で戸を叩き続ける。誰かがきっと応えてくれる。そう信じて歩んできたのだから。


「誰か……!」


 ――お願い。


「誰か……!!」


 ――いくら戸を叩いても返事はない。腕が痺れ、段々と上がらなくなってくる。

 扉に背を向け、力なく座り込んだ。息が上がっている。 体力的にもどうやら限界らしい。

 瞼が重い。 誰の声も聴こえない。真っ白すぎて馬鹿馬鹿しくなってくる。

 ああ、一人だ。一人しかいない。他には誰も居ない。わたしと、マスターと、あとはもう誰もいない世界に来てしまった。


「……」


 ……だが、それも悪くはないのかもしれない。

 誰も居ない場所で、誰にも知られずひっそりと死んでいく…きっと化物にはお似合いの最期だ。

 目を閉じてしまった。一度閉じてしまったらもう開くだけの力は残されていなかった。

 だから全身から抜けていく力を感じながら、わたしは静かに最後の一息を吐き出す。




 ああ――。




 世界がひどく、静かだ――。




 吹雪の中、力なく棺桶から手を離す。

 音も無く倒れた棺から、わたしが書き溜めた沢山の羊皮紙が飛ばされていく音が聴こえた気がした。

 わたしが生きた証。わたしが記した日記。彼がこの世に存在したという証。わたしがこの世に存在したという証。

 どうか消えてしまわないで。どうか飛ばされてしまわないで。どうか忘れてしまわないで。

 伸ばした手は白い記憶の中に消えて、後はもう何も残されはしないだろう。わたしという存在さえ白で塗りつぶし、全て無かった事にされてしまうのだろう。

 こんな最果ての雪の中、消え去ってしまうのがわたしの運命だとでも言うのだろうか――?


 ならば神よ――。どうか、わたしを地獄へ落として下さい。


 貴方の元に召されるくらいならば、わたしは魔女としての人生を全うしたい。


 どうか神よ――。彼の魂だけは、天国に召されるように祈りたい。


 今まで一度として欠かさなかった祈りの代価を、今こそ頂戴したい……。


「どうか、神よ……」




 彼を癒して。




 白い景色の中、彼がわたしに手を伸ばしている景色が見える。わたしは子供に帰ったように、無邪気な笑顔を浮かべながらその大きな胸に飛び込んだ――。





そして魔女は祈りを謳う



#1 エピローグ





 ――――旅の始まりは、暗い森の中からだった。




何を血迷ったのかこんなのを書こうと思ってしまったので書こうと思います。

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