表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

謎の連続死亡事故

 重い音が響いて、は自販機の取り出し口から缶を取り出した。その場で開けると飲みながら歩道を歩いていく。コ―ヒ―の味はあまり感じなかった。頭のなかは自分の今後を思案するので精一杯だったからだ。

 ―やっぱり、裁判は免れられないのかしら?

 溜息が零れる。やはり何度考えても、行き着く先はそこしか思いつかなかった。いや、その前に明日のニュ―スで流れるかもしれない。流れるだろう。病院が患者を間違えて、投与してはならない薬を患者に投与した、そのせいで患者が死んだとなれば充分にニュ―スの素材として価値があるはずだ。しかも死んだのはまだ小学校にも入学していない幼児だ。明日の会見がどうなるか、すでに心絆には恐ろしくてならない。薬の投与を指示したのは他ならぬ自分だ。患者を殺した医者に、果たして今後、仕事があるのだろうか。医者でいられなくなれば自分はこれから、いったいどうやって生きていったらいいというのだろう。

 医者でいられない自分、そのことは想像するだけでも心絆の恐怖を掻き立てた。今の自分には恐怖しかないという自覚があった。人を殺してしまった恐怖、莫大になるであろう賠償金に対する恐怖、これからの世間の視線に対する恐怖。何もかもが怖かった。逃れる術がないから怖い。戻れるものなら昨日に戻りたかった。そうであれば自分はあの子を殺さずに済む。何もかも、なかったことになるのだ。

 しかしそんなことが叶うはずもなく、心絆は飲み干して中身のなくなった缶を、ちょうど通りかかった別の自販機のごみ箱に捨てた。車道を挟んで左斜め前にコンビニの明かりが見える。それが視界に入って、今日の夕飯はあそこで買ったもので簡単に済ませてしまおうかと思った。腕時計を見れば時刻は夜の八時近くになっている。この時間から自炊をするのも億劫だった。ひどく疲れていた。今夜はもう早く帰って寝てしまいたい。

 だがそのために横断歩道へ足を向けたときだった。ふと不穏な気配を感じて心絆は背後を振り返った。するといつの間にか背後に一人の女性が立っている。

 女性はまだ高校生のようだった。見覚えのある制服を着ている。かつては心絆も着ていた、市内の県立高校のものだ。下校途中のようだが、心絆を避けて歩道を進んでいく様子もない。特に心絆に用がある様子も話しかけてくる様子もないのに、じっと佇んだまま動きもせずこちらを凝視してくるのはなんだかひどく気味が悪かった。ちょっとしたアイドル並みの可憐なルックスの持ち主だが、無表情でこちらを睨んでくる風貌からはなんの魅力も感じられない。恐怖すら感じて、心絆は思わず後ずさった。

「なんです?何か用ですか?」

 声をかけたが女子高生は何も言葉を返してこなかった。無言のまま視線だけは外さず、じっと心絆を睨み続けている。彼女の双眸には殺意にも似た敵意が感じられて、心絆は思わずその場を駆け出していた。コンビニなら他にもある。とにかく今はこの女性から離れるのが最優先だと思った。得体の知れない人の傍にいるのは怖い。特に同性ならなおさら怖かった。猥褻が目的ではないだろうと思えるだけに、なおさら近くにはいたくない。何をされるか分からないではないか。

 だが駆け出してすぐに背後に足音が響きだした。走りながら振り返るとあの女子高生の姿が視界に入ってきて心絆は足を速メール。なんとかして撒こうとまっすぐには走らず角を見つけては曲がっていった。しかし足音は全く遠ざかってはいかず、ずっと一定の距離を保ちながら心絆から離れてくれない。最初の角を曲がると同時に熱風を背後に感じた。夏の暑さで感じる暑気とは異なる、ヒ―タ―の温風のような作為的な熱風だった。あまりにも不自然な熱気に、嫌な予感を感じて振り返ると熱源がない。心絆の背後にあるのは自分を無言のままに追いかけてくるあの女子高生だけで、熱源となりそうなものは何もなかった。エアコンの室外機すらない。なのに時折熱気とともに突風が心絆を襲ってくる。あの女子高生のほうからだった。熱風を感じ、振り返ると必ずといっていいほど彼女が不気味な笑いを浮かべている。異様そのものといった表情で、次第に心絆の目には女子高生の顔が誰か別人の顔と重なって見えてきた。今や心絆を笑いながら追いかけているのは、全くの別人だった。

 ―そんな、莫迦な。

 心絆は幻覚のように立ち現われてきたその別人の顔に見覚えがあった。忘れられもしない。おそらく一生、心絆の脳裏からこの顔が消えることはないだろう。だがこの顔の持ち主は、三年も前に死んだはずではないのか。そのはずだ。心臓や腎臓といった重要臓器を全て摘出されて生きているはずなどなく、自分は彼女が荼毘にされる火葬場にも足を運んだのだ。彼女がもはやこの世のどこにもいないことなど、考えなくても明らかなこと。なのにどうして、その彼女が自分を追ってくるというのか。

 ―どうしてなの?どうして?決めたのは私じゃないわ!

 抗議が喉の奥から湧き上がってきた。しかし声にはならず荒く吐き出される息とともにどこかに消えていってしまう。悲鳴が出ないのは恐怖のせいだろうか。それとも心のどこかで、すでに受け入れていたのか。自分は彼女に怨まれて当然だと、頭では理解していたのだろうか。この世には本当に、幽霊なんて現象があるのか。

 ―いや!お願い、助けて!

 息が切れてきた。疲れで足が縺れてきても、後ろの彼女は足を緩めたりしてこない。距離がだんだん狭まってきた。心絆はもはや何も考えずに足だけを動かしていた。彼女に捕まってはならない、という思いしかなかった。彼女に捕まれば、自分は確実に殺されると。心絆にあったのは、その確信だけだったのだ。

 その恐怖心だけを動力に必死で走っていると、突然規則的な甲高い音が耳に飛び込んできた。これまでは聞こえてこなかったその音に、慄然として顔を上げてしまう。

 前方で、警報音とともに遮断機がゆっくりと下りてくるのが見えた。

 心絆は絶望感に包まれるのが分かった。遮断機が下りきってしまえば、もはや足を止めてしまうしかない。電車が通過してしまうまでこの道を往くことができない。だが足を止めてしまえば、確実に彼女は自分に追いついてくるだろう。そうなれば自分はどうなるか分からなかった。焦って周囲を見渡してみても、踏切の左右には道がない。線路の間際まで古い住宅が迫っていて、踏切を渡らない限りこの道の向こうには行けないようになっていた。歩道橋もない。心絆の無意識は狼狽に支配されかけたが、しかし足が半ばまで下りていた遮断機の前まで来たときに、ふと妙案を思いついた。

 ―そうだ、いま渡ってしまえば、あいつはすぐには追ってこられない。遮断機と電車に遮られて、足止めを余儀なくされる。その間に身を隠してしまえれば、自分は安全に家に帰れるわ!

 ふいに希望を感じた。見通しが立ったことで疲れに重く感じる足も、一気に軽くなったような気がする。心絆は勢い込んで自分の身の丈よりも下まで下りてきていた遮断機の下を潜った。線路に向かって駆けだす。一本しか線路の通っていない踏切は短い。すぐに抜けられるはずだと思ったのだが、ちょうど真ん中まで来たところで足が地面から離れなくなった。前に出そうとした右足が地面から離れず、バランスを崩しそうになって立ち止まると左足も地面から離れなくなる。まるでとてつもなく強力な接着剤の上に立っているようで、心絆は慌てた。なんとか足を離して踏切から出なければと焦る目前で、遮断機が地面と平行になってしまう。少し前まで心絆が行くはずだった反対側の道路で、ス―ツ姿の中年男性が動転したような様子を見せていた。彼は懸命に口を動かしている。よく聞き取れなかったが、危ない、早く出ろ、電車が来る、彼が伝えているのはそんなところだろう。だが早く出たくても足が地面に縫い止められたように動かない心絆にとってそれはなんの役にも立たない指示だった。危ないことも早くここを出なければならないことも、誰よりも心絆がいちばんよく分かっている。

 ふふ、笑い声が聞こえた。背後から聞こえたその声に、ぎくりとして心絆は思わず首を巡らせる。たったいま心絆が潜ってきたばかりの遮断機の向こう、今は地面と平行になっている遮断機の向こうに、彼女の姿はあった。彼女はじっと佇んだまま、こちらを見つめて勝ち誇ったような微笑を浮かべている。もはやあの異常な熱風はない、普通の、心絆にとっては見知らぬ女子高生にしか見えなかったが、目に見えなくなっただけで心絆にはその笑みのなかに彼女の意思が見えるような気がした。きっと死にたくなかったはずの、彼女の意思が。

 ―先生、どうして助けてくれなかったの?

 ―他の子は助けてくれるのに、どうして?どうして私は助けてくれなかったの?

 言葉も直接、耳に入ってきた。入ってきたように感じられた。心絆は両手で耳を塞いだ。しかしそれでも遮ることができず、明瞭な音のまま言葉は脳を刺激し続ける。心絆はとうとう悲鳴を上げた。自分の声でもって彼女の言葉を消そうとした。しかし自分の悲鳴は、自分の耳にも、音としては聞こえてこなかった。

 悲鳴を上げた瞬間、全身にこれまで想像したこともないような衝撃があった。

 足は自由になった。どれほど力を入れても動かなかった両足が、あっけないほど簡単に地面から離れた。しかし喜びを感じることはなかった。直後にまた地面に叩きつけられたからだ。何が起きたのかは分からない。自分の感覚の由来を自分で理解できるほどの意識は、もう心絆には残っていなかった。

 ―やっぱり、祟りってあるのね。

 もう少し早く、分かっていたらよかったのに。心絆は三十年近い人生の末に、ようやく真理を見つけたように思えた。誰に否定されることも、することもない真理を。この真理は絶対のものなのに、なぜもっと早くに、悟ることができなかったのだろうか。もっと早くに悟っていたら、こんな思いをすることなかったのに。

 後悔だけが湧き上がってくる。全身を支配する悔悟の思いは心絆のなかにずっと残り続ケータイつ消えたのかも分からなかった。


 開いた自動ドアの外に歩を踏み出すと、優人は辺りを見渡して未愛の姿が外にないのを怪訝に思った。

 ―どこ行ったんだ?

 先に出ていると言っていたのに、向かいのコンビニにでも行ったのか。それなら一言だけでも言っておいてくれればと思ったが、他人を待たせて自分の用を済ませている自分が不満に思うことではないだろう。優人はレジを済ませた後になってひとつ買い忘れたことに気づき、一人だけで再び店内に戻っていたのだ。忘れたのは予備の乾電池だけだったから、すぐに商品は見つけられたし清算までスム―ズに終わらせられたものの、自分の分の買い物はすでに終わらせたから外の自販機コ―ナ―で待っていると言っていた未愛の姿が消えていたのには不安を感じずにいられない。どこに行ったのだろうと優人は思わず周囲を探してしまった。向かいのコンビニでも入ったのだろうか。それとも自分と同じく未愛も出てきたばかりのホームセンタ―に戻ったのだろうか。未愛にも何か買い忘れたものがあったのかもしれないし、店内にあるトイレを借りに行ったのかもしれない。それなら少し待ってみようと優人は自販機コ―ナ―に歩を進めた。あまり長いこと戻ってこないようなら近くを探してみたほうがいいかもしれないし、それで見つからないようなら未愛の家に電話してみる必要もあるかもしれないが、とりあえずは待つのが正しいはずだと優人は自販機に近づいて硬貨を入れ、スポ―ツドリンクのボタンを押した。出てきたペットボトルを口に運びながら手持ち無沙汰にしていると、けたたましいサイレンの音が近づいてくるのを聴覚が捉える。驚いて振り返ると数台のパトカ―が目の前の道路を通過していくところだった。

 ―何かあったのか?

 思わず通り過ぎたパトカ―の後ろ姿を目で追ってしまう。複数のパトカ―がサイレンを鳴らしながら駆け抜けていくなど尋常のことではないように思えたからだ。いったい何があったというのだろう。追跡されている車がないから、交通事故だろうか。どこかで誰かが電柱にでもぶつかったのか。

 気になってなんとなく制服のポケットからケータイを取り出してみた。パソコンに慣れているせいでキ―ボ―ドほどには迅速に動かない指を動かし、インタ―ネットに繋いでみる。いつもパソコンで見ている交流サイトのケータイ版を表示してみた。このホームセンタ―の近辺の住所を入力し、何が起きたのか訊ねてみるとすぐに答えが返ってくる。明城線で人身事故があったらしいというのが、その答えだった。誰かが踏切から線路に侵入して、電車に撥ねられたらしいと。

 明城線の事故と知って、優人は急速に不安になった。明城線は優人や未愛にとっては通学に欠かせない足だ。明城線の電車に乗らなければ自分たちは家に帰れない。人身事故なら今頃は間違いなく運休しているだろう。復旧は何時になるだろうか。せめて不知闇行きの上り線であってくれと優人は切に願った。上り線の事故なら下り線までは影響していないだろう。それなら帰宅にはなんの支障もない。だが下り線なら、城聖駅で何時間も足止めされる可能性もある。そうなったら最悪だった。

 ―早く神住にも教えてやらねえと。

 優人は情報を確認すると、ネットの接続を切ってケータイをポケットに戻した。事故のこと、早く未愛にも教えて駅に急いだほうがいいと思った。明城線が運休するなら代わりにバスで帰ることになるだろうから、早めに時間は調べたほうがいい。

 が、そのためにケータイに指を這わせようとして優人はふと思い至った。重要なことに気づいて優人はケータイを再び制服のポケットにしまう。未愛には直接伝えるしかないと、辺りを見渡しながら彼女を探した。

 ―神住、まだケータイとかそういうの、持ってないんだよな・・。

 いまどき高校生にしちゃ珍しいことだと思うが、事実なのだから仕方がない。ケータイがなければ連絡は直接口で伝えるしかなかった。不便だが、優人は未愛を探すために自販機コ―ナ―を離れる。歩道に出て左右を見渡し、路上には姿が見えないのを見て取って横断歩道を渡ってみた。しかし向かいのコンビニに未愛はいなかった。それで再びホームセンタ―の店内に戻ってみたが、そこにも姿は見えない。では未愛はなかに戻ったわけではないのだろう。どこに行ったのだろうかと優人は疑問に思った。このホームセンタ―の近辺に他に店はない。ここを離れればもう駅前の商店街までは住宅が連なっているだけだ。まさかそんなところまで未愛は足を運んだりしていないだろう。商店街はどこも閉店時刻が早いから、この時間ではすでに開いているとも限らないし、そこまで行かなければならない何かがあるなら律儀な未愛は必ず自分にひとこと話してくれたはずだ。しかし未愛はそんなことは何も言っていなかった。単純に自販機コ―ナ―にいるからとしか言っていなかったのだ。

 ―まさか、変な奴らが近づいてきたわけじゃないよな・・?

 ふと恐ろしい想像が脳裏に浮かぶ。未愛の可愛らしい顔なら、この時間に外で手持ち無沙汰にしていれば、妙な男が近づいてきても不思議はないかもしれない。未愛が知らない男の軽い誘いになんか乗るとは思えないが、もしも複数で来られたら満足な抵抗もできずに連れて行かれることだってありうるかもしれなかった。自分が呑気に乾電池の買い物なんかしている間に、未愛に何かあったらと思うと悔やんでも悔やみきれない。

 そう考えるとだんだん居ても立ってもいられなくなってきた。優人は焦る心を抑えつつ歩道に駆けだす。ホームセンタ―にもコンビニにもいないとなれば、もう手当たり次第に近くを探してみるしかないと思った。できる限り人目につかないところを見て回れば、見つかるだろうか。

 ―もしそれでも、見つからなかったら・・。

 不穏な予想が湧いてくる。もしそれでも見つからないなんてことがあれば、そのときには未愛の家に電話してみよう。そうなったらもう捜索は警察の領分だ。優人一人の手には負えない。大勢で手分けして探すしかない。そうでなければ未愛の身が危険にさらされるかもしれなかった。

 だがそんな不吉な予想を弄んでいるときだった。自分の想像をどう処理したらいいかも分からないまま歩道を駆けていると、ふいに制服のポケットからけたたましい呼び出し音が流れてきた。メロディ―ではない普通の呼び出し音に、誰だろうかとポケットを手探りしてケータイを開く。液晶画面には公衆電話と表示されていた。優人の知り合いならみな自分のケータイで優人に電話してくるし、それらの電話は全て登録してあるから着信があれば指定した音楽が鳴るはずだった。それが鳴らずしかも公衆電話からとなると、優人には咄嗟に発信者が分からない。いまどき公衆電話など、いったい誰がかけてきたというのだろうか。自宅の電話ならいざ知らず。

「―はい。もしもし。どなたですか?」

 しかしそうはいっても電話を受けずにいることは優人にはできなかった。躊躇しつつも通話ボタンを押してケータイを耳に当ててみる。通話状態になると微かな雑音が頭に響いてきた。すぐに小さな声がそれらのささやかな音に重なってくる。その声を聞いて、優人は驚きに思わずケータイを取り落としそうになった。

「神住!どうしたんだ?今どこにいる?心配になるから何も言わずに一人にならないでくれ」

 電話をかけてきたのは他でもない、未愛だった。生徒会に入ってから緊急時の連絡にと教えたケータイの番号を、覚えていてくれたのだろう。未愛の自宅なら決まった音楽が鳴るはずだから、未愛はまだどこか外にいるはずだ。公衆電話があるところ。どこだろう。駅だろうか。いつの間にそんなところまで行っていたのか。

 優人が安堵を込めて未愛にどこにいるのか問い質すと、未愛は最初に詫びてきた。それから微かに震える声で、優人に訴えてきた。

「・・真野くん、私、怖い。どうしよう」


「―意識が飛んだ?」

 優人はル―ム内のソファに腰を下ろすと、隣に同じように腰を下ろした未愛を窺い見た。未愛は小さく頷いてきた。

「そう、なの。・・私、気がついたら踏切のところにいて、どうやって行ったのか、全く覚えてなくて、記憶がないの。こんなこと初めてで、何が起きたのか分からなくて。だから、どうしたらいいのか分からなくて」

「記憶喪失?」

 優人が簡略に要約してみせると、未愛はまたしても頷いてくる。

「だと、思うんです。あの、こういう時って、いったいどうしたらいいんだと思いますか?」

 極めて真面目に訊ねかけられ、優人は返答に窮した。二人して黙り込んでしまう。周囲にはカラオケル―ムにはあるまじき静寂に包まれていた。

 優人が未愛といるのは城聖駅前にあるカラオケボックスの個室だった。未愛が電話をかけてきた公衆電話はその駅前にあり、優人は駅前で未愛と再会した。そしてそのままこのカラオケボックスの個室に入ったのだ。優人にはここぐらいしか二人きりで静かに話せるような場所が思いつかなかった。カラオケボックスに歌う目的以外で入店するのは初めてのことだったが、ここなら壁の防音もしっかりしているし、自分以外の誰かが未愛の話を聞くこともないだろう。咄嗟にそこまで考えてしまうぐらい、再会した未愛は深刻な面持ちをしていたのだ。ならば静かな場所で話を聞いてあげたかった。

 そうだな、と優人は考えながら慎重に口を開いた。

「俺は医者じゃないから、こういう時にどうするのが適切かなんて、分からないんだけど、ひょっとしたら脳神経外科とかを受診してみるべきなのかもしれない。けど、神住はこれまで、こんな異常を感じたことはないんだよな?」

 未愛は頷いた。

「そう。だから、余計に怖くて・・」

「なら、どうして今日だったんだろうな?」

 優人が思わず呟くと、未愛は意味を問うような顔で優人を見返してきた。

「深い意味はないよ。普段はなんともなかったんだったら、どうして今日に限ってそういう激烈な症状が出たのかなと思っただけだから。何か変わったことはなかったの?今日はいつもに比べて頭が重かったとか痛かったとか、酷い眩暈がしたとか?」

 訊ね返すと未愛は首を横に振ってきた。

「ううん。今日は何も、そんなことない。頭痛とか眩暈とか、そんなのなかった。気がついたらあるはずの記憶だけが欠けていたの。ホームセンタ―のドリンクコ―ナ―にいたはずなのに、瞬きしたら踏切の前に瞬間移動してたような気分。どうしてそんなところにいたのか、全然覚えてないの。たぶん歩いて移動したはずなのに、そのことも覚えてない。私普段、踏切の辺りは通らないから、あんなところまで歩いたのなら道を覚えてないとおかしいのに」

「踏切では、何もなかった?」

 え、未愛は首を傾げてきた。

「何も、って?」

「なかったか?さっき、ケータイでネットを見たら、近所の踏切で明城線が人身事故を起こしたって出てたから。あのへんで踏切って、神住がいたところしかないし、だからもしかして、神住が事故を目撃したショックで一時的に心神喪失みたいな状態になったのかもしれないって思ったんだけど、見てないなら今言ったことは忘れてくれ」

 事故、未愛は優人の言葉に呆然としたような表情になった。

「それなら、見たよ」

 呟くような声が聞こえてきた。

「事故なら、見た。気がついたら救急車とか、パトカ―が周りにいたもの。その瞬間は見てないけど、誰かが電車に撥ねられたのは知ってる。血が、たくさん出てたから・・」

 未愛の声は今にも消え入りそうなほど小さくなっていった。当時のことを思い出したのかもしれない。慰メールために優人が未愛の手を軽く握ると、少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。その様子がとても可愛いと、優人には思える。

「撥ねられたのは、たぶん女の人。それ以上のことは分からない。私が見たのは、落ちていたハンドバッグだけだったから」

 無理するな、優人は未愛に優しく話しかけた。

「無理に思い出そうとしなくていい。誰だったのかまでは訊いてないから。それよりも神住が気分を悪くしたら大変だ。踏切事故なら、自殺かもしれないし、神住が気に病むようなことはないよ」

 すると未愛は自殺、と怪訝に思うような顔をした。

「あれ、自殺だったの?」

 意外な問いかけに今度は優人のほうが首を傾げてしまった。

「そうは見えなかった?」

 訊ねると、うん、と未愛は頷いてくる。

「そうは見えなかったって。私の他にも、その、撥ねられた女の人を見ていた人がいたの。たぶん、どこか近くの会社の人。帰宅途中のサラリ―マンさんだと思う。その人が言ってたの。撥ねられた人は、靴のヒ―ルか何かが、レ―ルの隙間にでも挟まって動けなくなったように見えたって」

 へえ、と優人は思わず溜息を吐いてしまった。

「ハイヒ―ルって、そんなに危ないものなの?」

 意外な気がした。ハイヒ―ルなら優人の母親もよく履いている。それを思うと心配になってしまった。優人の母は自家用車での移動が主で徒歩ではほとんど移動しないが、道路を歩かないわけではないのだからリスクはゼロにはならない。男の優人にはよく分からないリスクだったが、未愛は首を傾げてきた。

「分からない。たぶん、そんなことないと思う。私のお母さんも、たまにヒ―ルの高い靴とか履くけど、一度もそんな話はしてなかったから」

「じゃあ、何があったのかな?」

 分かんない、と未愛は俯いた。

「・・人って、どうしてこんな、簡単に死んでしまうんだろうね」

 独り言のような小さな囁きだった。そうだね、と優人も同意を返す。

「人に限らず生命はみんな脆いものだと思うよ。いつどんな形で失われるか分からない」

 本当にそうだわ、と未愛は何かを悟ったような遠い目になった。

「最近は、それがよく分かる気がする。美優が、あんなことになってから」

「ああ、友佐のことは俺もショックだった」

 うん、と頷いて、そこでようやく未愛は優人のほうに顔を向けてきた。

「なんか、怖いよね。こうなると、まるで続いてるように見える。次は自分の番なんじゃないかって思えてくる」

 大袈裟だよ、優人はあえて笑ってみせた。

「今日のことは単なる偶然だよ。知らない人とはいえ、大きな事故が起きるとインパクトが強いだけだから。あんなすごい火事が起きたすぐ後に踏切事故なんか起きたら、どうしても不吉な予感が湧いてくる気がするからね。それだけだよ。同じ市内だというだけで、友佐と今日の事故のあいだには、何の関連もないんだから。次は自分の番だなんて、そんなふうには考えないほうがいい。日々の生活に注意を向けるのは、悪いことじゃないけどね」

 そうだけど、未愛は頷きかけたが、しかしそれでもまだ不安そうだった。

「なんか最近、続くから・・」

「他にも今日みたいな事故を見たの?」

 うん、と未愛は頷いてきた。

「四月には、城聖駅のホームで転落事故があったし、ドリ―ムガ―ルズのライブでは、桜川さんが大変なことになったし。他にも、いろいろ事故を見てきたから」

「交通事故?」

「そう。市内だけじゃなくて、不知闇の街でも見た」

「城聖駅のホームの転落事故っていうと・・」

 優人は記憶を探った。馴染みの駅とはいえ、四月となると記憶は曖昧だった。四月に何かあっただろうかと、思わず考え込んでしまう。

「四月の二十日のこと。駅のホームから女の人が線路に身を投げたの。誰かは分からないけど、目の前だったからよく覚えてる」

 二十日か。その日は部活の試合で他県に出ていた優人には、城聖駅のホームでの事故のことなど耳に入る機会がなかった。だから今頃になって聞かされても状況が具体的にイメ―ジできない。しかし目の前でその事故を目撃したという未愛には相当な衝撃があったはずだ。衝撃が強ければなかなか忘れられないだろう。悲惨な事故であればあるほど、目撃しただけでも心の傷になるものなのかもしれない。しかもそのうえ、さらに別の事故を目撃したとなればなおさら―。

 ―あれ、とすると神住の身近ではそんなにたくさんの事故が起きているのか?

 優人はなんとなく怪訝に思った。優人は今までの人生でそんなに事故など見た記憶がない。自分の目で見た事故の記憶といえば、先日の火災を除けば中学生の頃、塾帰りに見た乗用車の自損事故だけだ。優人は自分の行動範囲を広いと自覚している。部活では国際試合にも出場したことがあるから、外国だって何度も行ったことがあった。それでも人が死ぬような重大事故など、そう頻繁にはお目にかからない。なのに未愛は、優人にとっては決して大きな都市とは言い難いこの城聖市や不知闇の街でだけで、一言では言い尽くせないほどの事故を見てきたというのか。なぜ未愛にだけ、それほどにも機会が多かったというのだろう。事故を自動車事故に限ったとしても、身近に絞るとそれほど高い確率で起きるとは思えない。それが一人の人間の周囲にだけ、集中して起こるというのは少し信じられない気がした。

 ―城聖市って、最近そんなに事故が多かったっけ?

 だからそれほど遭遇率が高いのだろうか。この街はそれほど事故の起こりやすい危険な街だったのか。ならば自分はもっと詳しいことを把握しておくよう努めたほうがいいだろうか。卒業までは自分もこの街で暮らすのだ。普段は地域ニュ―スなどそれほど関心はないが、そういうことなら知っておいて損はない。

 ―少し、調べてみようか・・。


「優人、いつまで起きてるの。いい加減に寝なさい。身体壊すわよ」

 声とともにドアが開く音がした。それに生返事を返しつつ優人はパソコンの画面を見続ける。文章を目で追っていると、足音が背後に迫ってきた。

「なに見てるの?ゲ―ムなら土日にしなさい。朝が辛くなるわよ」

「ゲ―ムじゃねえよ。ちょっと調べもの」

 気になることがあって、と呟きながら優人はマウスを動かし続ける。すると耳に溜息が吹きつけられてきた。覗き込まれているのが分かって、そちらに視線を向けてみる。

「調べものって?―あら、新聞を調べてるの?お母さんのスクラップブック、貸してあげようか?」

 覗き込んでいるのは母だった。いや、と優人は首を振ってみせる。

「もう調べたいことはほとんど分かったから。―それより母さんはこの人知ってたりする?」

 優人は言いながら別のウィンドウを画面に表示させた。そこに表示されたサイトには一枚の画像が添付されている。優人はこの画像に写っている女性がどこの誰だか知りたいのだが、個人が通りすがりにケータイのカメラで写したものだから、顔が曖昧で検索しても特定できなかったのだ。

「襟のところに金色のバッジが小さく写ってるだろ?だからこの人、母さんと同じ弁護士じゃないかと思うんだ。ス―ツの襟に金のバッジつけて歩いてる人なんて、弁護士か政治家ぐらいしか思いつかないし、政治家だったら報道されたはずだから。市議会でも県議会でも、議員が欠ければ補欠選挙があるだろ。だったら弁護士じゃないかと思うんだけど」

「検察官もバッジはつけてるわよ。なあに、優人。この人がどうかしたの?あなたの好みとか?」

 まさか。優人は冷静に返した。

「単に気になるだけだよ。このあいだ城聖駅で電車が止まったの、この人が線路に落ちたかららしいから。どういう人だったのかと思って」

 ふうん。母は興味もなさそうな声を漏らしてきた。それから少しのあいだ画面を見つめて、ああこの人、と何かを納得したような表情になる。どうやら母には一目見て分かるような人物だったようだ。

「まあ、よく知ってることは確かね。ある種の有名人だったから、この人。弁護士だけど、腕利きだったってわけじゃないわ。オタクってことで有名だったのよ。アイドルオタク」

 母の口調には僅かに軽蔑が混じっていた。母にとっては歓迎できることではないのかもしれない。

「優人は知ってる?ドリ―ムガ―ルズっていう若い女の子ばかりのアイドルグル―プがいるんだけど」

 問いかけられて一瞬だけ言葉が詰まった。まあ一応、と曖昧に応じてみせる。実際には優人はドリ―ムガ―ルズのことは名前以外ほとんど知らない。アイドルに興味はなかった。優人にとって未愛より魅力的な女性アイドルは存在しないからだ。

「なんか、前にニュ―スで見たことあると思う。メンバ―の誰かが死んだとか」

 母は頷いてきた。

「桜川聖歌さんね。その人のファン、というかマニア的な追っかけで有名だったの。ファンクラブの会長をしていて、それでテレビにも出てたわ。何かのバラエティの企画でね、桜川さんのグッズで埋め尽くされた自宅の映像が流れたこともある。美人だし、アイドル好きで若者にも親しみやすいってことで、それなりに人気もあったみたいだけど、弁護士としての資質を疑うような発言もあって、私は好きになれなかったわ。弁護士はタレントじゃないの。アイドルの女の子を追いかけて、バラエティで笑ってる暇があったら、その時間は法律や判例の研究に使うべきだわ」

 母は本気で嫌悪しているような表情をしていた。母にとっては弁護士が本業以外のことでもてはやされるのは許し難いことなのかもしれない。

「名前は確か上園絵理奈さんって言ったかしらね。若い人だから、探してみればまだネット上にブログとか残ってるかもしれないわ。興味があれば検索してごらんなさい」

 いや、いいよ。優人は首を振ってそのウィンドウを閉じた。

「それ以上詳しいことには興味ないから。そんなことより意外に明城線って事故が多いんだな。驚いた」

 そうね、母も深刻そうな顔で頷き返してきた。

「酔ってホームから落ちたとか、ケータイを触りながら歩いて足許を見失ったとか多いわ。すぐにでもホームドアを設置するべきなのに、どうしてなかなか実現しないのかしらね。優人も気をつけなさいよ。駅はそんなに安全なところじゃないんだから」

 分かってる、優人は答えるとパソコンの電源を落とした。もう寝るよ、と呟いて椅子から立ち上がると、母は満足そうな笑みを浮かべた。ベッドに身を投げ出すと、おやすみと言いながら前髪を撫でてくる。この仕草は優人が幼稚園に行っていた頃から変わらなかった。条件反射で母が照明を消して出ていくと、瞼が下りそうになったが、かろうじて堪えて覚醒した意識のなかで思考を弄ぶ。先ほどまで見ていたインタ―ネットの掲載内容を頭のなかで整理していった。

 ―上園弁護士の背後に、神住がいた・・。

 未愛の姿は優人の脳裏に焼きついていた。端のほうに小さくしか写っていなかったが、彼女の姿なら見間違えないという自信がある。未愛は上園弁護士の背後に、俯くようにして佇んでいた。ならば未愛が見た、城聖駅のホームから転落した女性というのは上園弁護士で間違いないはずだった。日付と場所も一致している。もっとも検索して出てきた当時の新聞記事に名前がなかったから、居合わせた他の利用客によって偶然撮影されたという画像がなければ優人は彼女だとは気づかなかっただろう。そして上園弁護士の転落直前の服装を見ることがなければ、優人は今でも不思議には思わなかったはずだ。未愛が頻繁に事故の現場に居合わせること、それの事故の被害者がほぼ全員、同じ柄の品を身につけていることなど。

 ―レインボ―ロ―ズのブランドって、そんなに売れてないんだよな・・。

 そのはずだった。女性ファッションには疎い優人にも、あのブランドが流行ったという記憶はない。街でもあのブランドの服やバッグを持っている女性はそんなに見かけたことがなかった。ドリ―ムガ―ルズの桜川聖歌がプロデュ―スしたということで、発売当初こそはそれなりに話題にはなったようだが、色彩が派手でコ―ディネ―トがしづらいという理由ですぐに廃れていき、桜川聖歌の死とともにすぐに生産中止になったのだという。現在ではもっぱらネットオ―クションでしか入手できないそれを、着ている女性が事故に遭う現場にばかり立て続けに居合わせる。ありえないような偶然だと思った。こういうのを、事故に引き寄せられたようだ、というのだろうか。

 ―もちろん、そんなはずはないが・・。

 苦笑した。もちろん、そんなことはありえない。事故は予測できないからこそ事故というのだし、野次馬が事故に引き寄せられることはあっても、その逆はありえない。それに、美優以外の事故の被害者は、未愛にとって全てが他人だった。そんな彼女たちの知人が偶然に撮影していた直前の画像や報道写真に、共通する何かが写っていたとして、そんなものに意味があるはずなどないし、あったとしたらそれはもはや事故ではない。何者かの意思が絡んだ犯罪だった。しかしそんな事実はない。ならばどんなにありえないような偶然が重なっていたとしても、それは偶然以上の何かではなかった。そんなものを気にしているとしたら、自分のほうがどうかしているのだ。

 ―ひょっとして、自分はまだ気にしているのだろうか・・?

 未愛のあのときの異様さを。あんなことはなんの関係もないはずだ。自分のよく知っている人間が、常ではありえない表情をし、異様な雰囲気を漂わせたからといって、それが対外的な影響を及ぼすはずがない。今日未愛が踏切事故に居合わせ、そこに至るまでの記憶がないことが、昨日のあの異常にどう結びつくというのだろうか。よしんば結びついたとして、それが彼女の目撃したという事故と関連するはずなどない。未愛の異常は、未愛自身の何かに由来するはずだ。眩暈や記憶喪失という症状が現れるのなら、優人に分からないだけで頭のほうに何か深刻な病変があるのかもしれない。ひょっとしたら脳に疾患がある可能性もある。ならばそれを心配しこそすれ、優人がそれ以上に懸念しなければならない何かなどは存在しなかった。二年前の不知闇での交通事故に始まり、それ以後未愛が行き合った事故では全ての被害者が、上園絵理奈や桜川聖歌や美優も含めて全員が、少なくとも優人が知らない今日の踏切事故に遭った誰か以外の全員が、同じレインボ―ロ―ズのブランドの品を身につけていたことなど、なんの意味もない偶然のはずだ。

 ―佐田も同じブランドのクリアファイルを持ってたからな。それで気になってるのかな・・。

 漠然とそんなふうに思った。そうだ、あのとき彩夜花が持っていたクリアファイルも同じレインボ―ロ―ズのブランドの品だった。雑誌の付録か何かかもしれない。それからプリントの束が床に落ちたのを、未愛が拾い集めて彩夜花に渡し、彩夜花がそれをファイルに戻したときに未愛が様子を変えたのだ。ちょうど前日の火事のときと同じように足許をふらつかせ、俯いた顔には同じような嘲笑があった。あのとき優人には、未愛の異変はとても単なる体調不良には見えなかった。まるであの一瞬だけ人格が変わったように見え、だからこそ気になっているのだ。いったいあのとき未愛の身に何が起きていたのだろうと。だからこそ未愛が通常よりも高い確率で事故に遭遇すると聞いて、その事故のことを調べてみたくなったのだ。そうした事故を見たときはいつも、同じように酷い眩暈がして記憶が飛ぶというようなことを話していたから。

 ―いったい、神住の身体にはどんな異常があるんだろうな・・。

 明日は学校を休んで病院に行くと言っていた。未愛は今日のことを不安に思って、念のために病院で診てもらうことにするらしい。では明日の夕方にでも彼女の家に電話して訊いてみようかと思う。それで未愛の異常が優人もよく知っているような疾患によるものだと分かれば、優人は逆に安堵して純粋に未愛の快復を祈ることができる。妙な薄気味悪さからくる不安など消して、真実彼女のことだけを考えられる気がした。

 ―神住は、ゆっくり眠れているだろうか・・。

 そうであればいいと思った。別れ際の未愛は今日のことをとても不安そうにしていたから。せめてベッドのなかだけでも心安らかであればと思う。気持ちが傾けば、瞼を閉じても未愛の笑顔が見えるような気がした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ