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プロローグ_災難

お読み頂きありがとうございます。

 警察組織の中で、たった1つしかない警察庁長官のポストの選考に、創設以来から絶大な影響力を与えていた家筋があった。


 竜胆家の祖先をたどると、それは江戸時代まで遡る。

 竜胆慶次りんどうけいじは、脈々と引き継がれてきた警察の家系に生まれた。

 竜胆一族の期待を裏切らずに、異例の若さ(史上最年少)で大出世を遂げる。

 その実力は、国際警察機関や欧米の国家警察機関からも認知されていて、指名で協力依頼が来るほどだった。

 そんな仕事三昧の多忙な日々の中でも、大学時代に出会った女性と結婚して子供ができ、幸せだった。


 しかし、その幸せは突如として崩れ去る。

 希望が絶望に染まる。


 力の根源である権力は意味を成さず、これまで信じてきたものは崩れ去った。

 何もできなかったという、悔いと無力感を強く感じて、自信を喪失したのだ。

 何をするにも、意欲が湧かず、何もかもがどうでもよくなった。

 仕事も辞め、親族とも疎遠となって、数ヶ月がすぎる。

 日がな一日、だらだらと、タバコを吹かしながら酒を飲んで過ごしていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

――慶次の夢

『パパー助けてー!』

『早く来てケージー!』

『彼女と息子は関係ないんだ。頼む、止めてくれ!』

 何度も、何度も、慶次に助けを求める2人。

 そして、慶次の視界が一転する。

 真っ赤に染まった2人の苦しむ顔。

 2人に近づこうと必死に走るが、距離は一向に縮まらない。

 直視するしか出来ない慶次にとって、耐え難い苦痛だった……。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 連日のように悪夢にうなされる日々。

 見るのはいつも同じような夢だった。

 起きると決まって汗だくで目が覚める。


 体を起こしてベットに腰掛ける。

 卓上にあるウイスキーをショットグラスに注いで、一息に呷る・・ようにして飲む。

 タバコを吸おうと、箱を取って開けると中はカラだったので、くしゃりと握り潰して適当に捨てる。

 吸殻の山になっている灰皿の中から、まだ吸えそうなものを手にとって、火を点ける。

 タバコを吸って一息つくと「チッ」と舌打ちをして、シャワーを浴び、部屋から出て行く。


 晴天の中、おぼつかない足取りで、真っ直ぐに伸びた道を進む。

 時折、車が行き交う程度の閑散とした、海沿いにある街並み。

 着崩した白のワイシャツとパンツというラフな服装。ボサボサな頭髪と伸びた髭にラフな服装は、昼日中の街並みで、とても目立っていた。


 目的地にたどり着いた慶次は、視線をコンビニに向けると「チッ」と舌を打つ。

 目線の先には、昼日中から暴走族風の若者らがたむろしていた。

 のどかな街並みからは一変、バイクから大きなエンジン音が響き渡る。

 何が楽しいのか、ギャハハと奇声にも似た笑い声をあげる集団。


 そんな中、見向きもせずに通り過ぎてコンビニ店内に入る。

 先程まで聞こえていた不快なノイズは、店内に入ると気にならなくなっていた。

 視界を店内に向けると、女子高校生と連れの弟妹と思われる子供達が、菓子を選んでいる。

 女子高校生は連れの弟妹に何やら注意すると、目的の棚に移動した。残された弟妹はせわしなく騒がしい。


 それだけ買ったら金足りねーよと慶次は独りごちる。

 親戚関係だろうかと思考を巡らせるが、それは一時の事だった。酒類コーナーでウイスキーを手に取り、乾物のサラミを1本手に取る。レジで手に取ったものと一緒にタバコを注文して支払いを済ませると、雑誌コーナーに向かい本を読み漁る。


 雑誌をパラパラとめくり、1冊を2秒ぐらいで速読していく。

 情報収集には、新聞やネットニュース、書籍に雑誌など様々な媒体が存在する。

特に、雑誌は有力な情報源であるため、関心のある特集や記事を拾い読みするだけでも得るところが沢山ある。

 ふと、意識をレジに向けると、女子高校生と連れの弟妹が買い物を終えて店外に出るようだ。店外の状況から、今から起こりうる事象は、誰しもが容易に察することが出来るだろう。


「キャァー、止めて下さい! お願いします。お願いします」

「「ひっく、おねぇちゃーん」」


 悲鳴を聞いた店員が慌ててバックヤードの中に駆け込んで行く。

 慶次も悲鳴が聞こえたのか、雑誌から視線を外して外の様子を伺うが、何事も無かったように視線を下げる。

 すると、バックヤードから先程の店員が清掃具のモップを両手で握り締め、駆け足で店外に出た。


 店員がモップを握り締めながら、店外へと出て行く姿を眺め見る慶次。

 チッと一つ舌打ちすると、読んでいた雑誌を放り投げるように、元に戻して店外に出た。

 店外に出ると、先程の店員がコンクリートに覆われた駐車場の地面に横たわっており、暴走族風の若者らから激しい暴行を加えられていた。


「勇者様の登場ってか? 弱すぎて話しになんねぇし。ギャハハ」

「おらおら! ご自慢の聖剣モップはどうしたよ」

「ちげーし、ライトセーバーだろ? ギャハハ」

「ねーちゃん。どうだ、俺の棒術試してみるか?」

「棒術っておめぇ、馬鹿だろ。ギャハハ」

「ちげぇーねえ、ギャハハ」

 地面に横たわる店員に暴行を加える者、女子高校生と連れの弟妹にちょっかいをかける者とに別れている暴走族風の若者らを横目に、現場を通り去ろうとする慶次。

 普通の神経をした人間がこの場を旗から見れば、あたかもそこ彼処に地雷のある地雷原を、何事もないように歩く死神のように想像するだろう。


「これから君たちのおねぇちゃんはさ、お兄ちゃん達と一緒に楽しい事して遊ぶから先に帰っときな」

「お前達のお姉ちゃんは女子力がアップするんだぜ、ギャハハ」

「おいおい、おめぇ、社会の窓開けるの早すぎ、ギャハハ」

 暴走族風の若者らの言動が、女子高校生と連れの弟妹の悲鳴を聞くに連れて、度を越していく。


「ねーちゃんが一緒に来るなら、弟妹は見逃してやるぜ?」

 暴走族風の若者らのリーダー格と思しき男が、女子高校生の後ろから抱きついて体を弄りながら言う。


「おねぇちゃんをはなせ、ばか!」

 姉に対する仕打ちに耐えかねたのか、連れの弟がリーダー格と思しき男に声を上げ足を――コツ――蹴った。


「……ああん・・・?」


 からかい半分の空気が、剣呑な雰囲気へと一気に変わる。

 暴走族風の若者らのリーダー格と思しき男が、女子高校生の弟を掴み上げて平手で殴りつけた。

 殴りつけられた連れの弟は、1メートル程吹っ飛んで地面に叩きつけられた。

 それを見て、青ざめた女子高校生とその妹が慌てて駆け寄った。


「真人! 大丈夫!?」

「えーん、おにいちゃ~ん」

「クソガキが……楽しい気分が台無しだぜ」

「た、毅さん。こ、こいつらどうしましょっか」

 暴走族風の若者らは、たけしと呼ばれたリーダー格の男の、一挙手一投足に気を配る。

 リーダー格の男を除いた若者らは、迸りを受けないよう動きを止めている。


 たった数秒。


 普段であれば、ちょうど一つ、瞬きを打つ程に過ぎない時間。

 人間の脳は緊張状態にあるとき、時間が長く感じるという。

 いつ終わるか知れない沈黙は、リーダー格の男によって破られた。

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