01-07 犯罪の片棒
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「そいつを捕まえたら好きなだけ食べさせてやる!」
「「「本当か! ワァアー」」」
「くそぉー! ハッハッ……」
屋台の店主らしき者が、逃げている少年を指差して、捕まえたものには報酬を与えると叫ぶと、通りにいた者の雰囲気が一斉に変わり、一斉に声を上げると集団となって追いかける側に回った。
後ろの雰囲気が一瞬で変わり焦って逃げる少年。
「お兄さん! あの男の子は知り合いなの! 助けてあげて!」
「チッ、やけにトラブルが続くな」
少女から助けを請われても、少年が犯した罪の片棒を稼ぐわけには行かないだろうと、どう切り抜けるか思案しながら、こっちに向かってやってくる少年と集団を見やる。
このままでは、通りを抜ける前にでも捕まるだろうと推察する。
金をばら撒く、という手も考えなくも無いが、持ち合わている分だけでは、とても効果が得られるとは考えられないだろうと思案する。
残された方法は、逃走の手助けをするため集団を相手取るのみ……いや、そんなことをしている内に自警団がやってきてしまうと、さすがに逃げれないだろうと考えていると、少年を追いかけている集団から声が上がった。
「待ちやがれ! 俺が一番に捕まえて報酬を頂くぜえ」
「そうか……よし、出来なくもないな」
慶次は顎に手を当てて僅かに考えると閃いた。
こくりと少し頷くと走ってくる少年に向かって流れるように歩き出した。
「邪魔だ、退けよ、あんたあ!」
「……」
距離はあと残り僅か。少年は逃走経路のど真ん中で歩いてくる慶次を大きな手振りで退け退けと訴える。
「退けぇえええ! ……グェッ」
「……ハッ……悪いな」
武術の体裁きである縮地法を使って、目にも留まらぬ速さで間合いを詰める。
すかさず、腹に拳を叩き込むと少年は大きく目を見開いた。
しかし、走りこんできた少年の勢いは止まらない。
今度はその勢いを相殺させるため、自分の体に巻きつかせて回った。四回、五回と回転し終えると静止していた。
腹を殴ったことで気絶した少年を肩で担いで立っている慶次。
先程まで、少年を追いかけていた集団は、それを見てゆっくりと立ち止まる。
しかし、一部の者は、故意に慶次へと襲い掛かる。
「俺が捕まえるんだよぉ! あああ……ハグッ」
「でしゃばるんじゃねぇ! うわああ……ホゲッ」
「……フッ、ハッ……ふぅ」
暴徒と化した襲い掛かってくる男達を、走って向かってくる勢いを利用して、後ろへと片手で受け流す。
受け流された男達は地面に倒れ付すと、呻き声を上げながら苦しんでいた。
「「「おおー!」」」
固唾を呑んで、その光景を見守っていた集団は、暴徒と化した男達を見事な立ち回りで撃退する瞬間を目の当たりにし、一斉に興奮の叫び声を上げながら拍手した。
周辺の安全を確認した慶次は、肩に担いでいる少年を静かに地面へと下ろした。
すると、少年を追いかけていた屋台の店主らしき男が、見物している集団を掻き分けるようにしてやってくる。
「ハッハッ、ハァハァ、退いてくれ、退いてくれ!」
「な、なんだよ」
「い、痛えじゃねぇか」
「チッ、もう少しで捕まえられるところだったのによぅ」
屋台の店主らしき男が棒を片手にして、小走りで少年に近づいて行く。
「くそっ、この小僧めがっ」
すると、手に持っていた棒を振り上げて少年を殴りつける。
「……ッ」
ガッという鈍い音がしたかと思えば、屋台の店主らしき男は少年を殴ったつもりが、突然少年の前にいた慶次を殴り飛ばしていた。
「おい、どういうつもりだ? ……俺を殴りつけるとは良い度胸だな?」
「な、なんだよあんた!? ……ひぃ、きゅ、急にあんたが目の前にやってくるから悪いんだぞ! なぁ、み、みんな!? 見てただろ!?」
棒で殴りつけられた慶次の顳顬からは、赤い血が滴ると一筋の線となって顎を通って地面へと落ちる。
顎から滴る赤い血を、親指で掬い上げて口へと近づけ舐め取ると、屋台の店主らしき男を睨め付ける。
慶次の醸しだす雰囲気に動きを止めていた屋台の店主らしき男が、その光景に怯みながら言い訳がましい態度をして周囲に訴え掛ける。
「おいおい、ありゃあ拙いぞ……」
「ああ。捕まえた奴を殴りつけるのは拙いだろ……」
しかし、一部始終を目の当たりにしていた集団の目に映っていたのは、屋台の店主らしき男が棒を振り上げて、慶次に襲い掛かった姿だった。
そしてそれは、自らが死角となっていたことで、証言者となるような目撃者が一人もいなかった。
「な、なんだよ……こ、こいつが! 盗人のこいつが全て悪いんだ!」
自分が悪者にでもなったような錯覚に囚われた屋台の店主らしき男は、訴えかけるように言い逃れの言葉を放つ。
その状況を見て、座り込んでいた慶次はゆっくりと立ち上がると、全身についた汚れを態と大きな態度で払い取る。
そうして、僅かに両手を広げながら、ゆっくりと屋台の店主らしき男に近づき抱きつく。
自然と慶次の顔が屋台の店主らしき男の耳元に近づくと、口を動かさず、男だけに僅かに聞こえるという程度で話しかけた。
「……盗人を捕まえた俺に、報酬を与えたくないあんたが、一方的に俺をこの棒で殴りつけた。あんたの側に立って、証言をしてくれそうな奴もいない。
さて、ここで簡単なクイズだ。この状況だ。目撃者から聞いた自警団は、あんたのことを知ってどうするだろうな。想像を膨らませろ。
しかし、そうだな。聡いあんたの考えることだ。この場をどうにか逃れて、自警団に少年を突き出してやろうと考えてるな。仮にだ。自警団が来ないとしても、俺がここにいる奴ら全員に、手柄を譲ればどうなると思う? あんたは確か、あのときこう言った筈だ。「そいつを捕まえたら好きなだけ食べさせてやる!」とな。
なに、子供でも分かる簡単なクイズだ。あんたは何か拙いことを言ったか? いや、言ってない筈だ。
しかし、言ってないと世の中、拙いこともあるんじゃないか? 強請り集りの輩に勘違いの間違いを説得できるのか。見返りを求めず納得するのか。このことがどういうことか少し考えれば簡単だろう? あんたは商売人だ。俺の言うことを理解してる筈だ。分かるだろ?
どうだ、ここは俺の言うことを素直に聞いくか? なに、悪いようにはしないさ。ただ、今日は商売あがったりになるだろうがな……」
慶次の話を聞くまで、屋台の店主らしき男は、徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。そして、僅かな時の中で「どう料理してやろうか」と悪い顔を浮かべていたのだが……。




