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ソードマンライフ  作者: 双葉 怜
5/5

仕事

 結局さして眠らないまま、俺は仕事の集合場所にいった。

 空は雲一つない晴れ模様で、太陽の光は容赦なく乾いた大地に降り注いでいた。

 周りでは襤褸(ぼろ)を着た青年や、ひげを生やしたゴツイ中年がぞろぞろと並び、ギルド『ミートマート』の職員からヘルメットなどの装備を受け取っていた。

 少し遠くの建築現場では、雑で不安定な足場を駆使して土を盛り固めている様子が見える。

「あの仕事をこれからやるハメになるのか……」

 肉体労働ばかりだと覚悟はしていた。しかし、あからさまにキツそうなところを見せられては、やる気も薄れるというものだ。

「そういえば、昨日の男もこの仕事をするのだろうか」

 暑い荒野の真ん中で、肉体労働に従事する男たちを見ながら、ぼんやりと考える。

 腰に提げた刀からしても、それなりに動けそうではあるが、果たしてこのような力仕事がどれだけ務められるだろうか。身のこなしだけで出来る仕事でもないだろうに。

 炎天下でぼんやりと考え事をしていると、後ろから小突かれた。

 後ろを見れば、頭一つ身長の高い男が顎を振って前を指した。どうも、前に行け、と言いたいらしい。

 確かに俺の前は人ひとり分ほど隙間が空いていて、先の一人はちょうどヘルメットを受け取って、職員にお辞儀をしているところだった。

「おっとと、こいつぁ悪い」

 適当に会釈してから、職員の前に行く。

「腕に自信はありますか」

 唐突な質問。どうやら腰の刀を見てのことらしい。

――――しめた! これはあの力仕事をしなくてもよくなりそうだぞ。

「もちろん」

 ほぼ即答。勘が正しければ、これは警備の仕事に回してもらえそうな流れだ。

「銃は扱えますか」

 予想は外れた。

「じゅ、銃!?」

 扱えないわけではない。しかし、銃など見るのも触るのも久しぶりだ。

 あんな“役立たず”など。

「使えませんか」

 ため息とともに、職員の腕がヘルメットの方へ伸びる。

 この炎天下の中で、あの力仕事。せっかく掴みかけたチャンスだ。それだけは避けたい。

「……ッつ、使えます!」

 うそを言ったわけではないが、焦りで少し声がおかしくなる。

 おかげで若干怪訝な表情をされたが、ヘルメットに伸びた手は戻され、再び向き直る。

「では、あちらへ。銃を受け取ってください。……次」

 職員は面倒臭そうに現場の近くを指さすと、俺の後ろの偉丈夫を呼び寄せていた。

 

 何も受け取らず、今一つ要領を得ないままに指さされた方へ歩くと、銃の入ったプラスチックの箱が無造作に置かれていた。

 なんというずさんな体制だろうかとも思ったが、よく考えれば使い方の分かる奴などそうそういないのだ。加えて箱の中のアサルトライフルは、手入れもまともにされていないだろうという有り様。そもそも使えるものを選別するのに時間がかかる。

 あの職員が本当に銃が使えるのか、と聞かなかったのはこの中から使えるものが選べれば十分、ということだったのだろう。

 とりあえず動くかどうかだけでも点検していく。メッキがはがれて一部が腐っているものや、あちこち錆びて全く動きそうにないものをハジキながら使える一丁を探す。

「ったく、よくもまぁこれだけのガラクタを集めたもんだよ」

 ……たとえ、動くものが見つかったとしても、それが本当に警備の役に立つかはわからない。

 ある程度の射撃は経験がある。しかし、今の人類をこんな銃で戦闘不能にするには、頭部を撃ち抜く必要があるだろう。

 戦争中に施された遺伝子操作。強化された人類の、さらにハイブリットの二世三世。

 現人類は旧人類とは比べ物にならないほどの身体能力を獲得しているのだ。

 たとえこの銃から放たれた30口径弾が誰かの腕を撃ちぬいたとしても、当人がその腕で刀を振り回すことに何の支障も与えられない。

 乱射して、いくつかの急所に当たればまた違うとも言われるが、現状ではほぼ叶わない話だ。

 なぜなら――――

「弾が無いんだよなぁ…」

 銃本体はそれなりに置いてあるが、肝心の銃弾は見当たらない。

全くのゼロというわけではないが、ほとんど廃材同然と化したものばかりである。一度解体(ツブ)して再製造すれば使い物になるかもしれないだろうに。

 

 ただ、製造法は失われているが。

 

 銃の殺傷力では資源の浪費が激しいと判断した前世代は、早々に刀や剣という部位欠損による戦闘不能を狙える近接武器の研究に移行した。

 その全人類間での戦闘スタイルの原点回帰が、今から百数十年前。

 同時に銃器は製造・使用共に衰退をはじめ、各地に輸出されていた銃本体や弾薬は一部を残してスクラップ、刀剣の研究材料や、(銃よりは)まだ効力のあるミサイルなどに転用されていった。 

 結果として残ったのはガラクタ程度にしか扱われなくなった粗悪品ばかりで、その製造法すらも朽ちて久しい、というわけだ。

「まぁ、警備には向くんだろうがなぁ」

 当然、遠間から攻撃できる銃は、威嚇・けん制には高い効力を発揮するするであろうことは容易に想像がつく。が、当たってもさしてダメージを食らわない、と気付かれたときはやはりゴミである。

「おっと、これは使えそうだな」

 なんとか動きそうなものを見つけた。

 弾倉はスッカラカンだが、そこらのものから抜き取っていけばマガジン一つ分くらいはあるだろう。


「……それで、これからどうすればいいんだ」

 弾は詰め終わったが、その後の指示は受けていない。

 それなりに時間をかけてしまったとも思ったが、いまだ最初に指示を受けた職員はぞろぞろと並ぶ浮浪者を捌いている最中だった。

 とりあえず、建築現場付近に待機していればいいのかと思って向かってはみたものの、警備をしているように見える人物は見当たらず。

「そういえば証明書も受け取ってないし、どうやって報酬を受け取れるのかも聞いてない」

 廃墟で案内を受けて以来、サトウから連絡はきておらず、いつ動けるようになるのかの目処の立たない中でのこの状況。

「全く、ここのギルドは無能だな!」

 一時的な雇用者にかいがいしく世話を焼くところもそうないが、ここまで不親切な所もそうはない。

 ほとんどが元盗賊や元兵士のゴロツキ共にケンカを売れば、いくら城壁と屈強な衛兵がいても、町が一両日中に略奪の嵐に見舞われることは自明。

 少なくとも報酬は払われるだろうが……。



 ぼんやりと建築風景を見ていると、午前が終わり。

「ヒマだ……」

 結局指示らしい指示は何もなく、俺はライフルを持って悶々と炎天下の中立ち続ける苦行を成し遂げた。

 こんなことならばいっそ壁の上で体を動かしていれば良かったと、そう思った。

 その時、視界の端に黒煙が立ち上った。

 あたりは何もない荒野のはず。

 そんなところで煙の上がる可能性は――――

「襲撃か……!?」

 物資の輸送に使われる車は現在ほとんどガソリン等の化石燃料が積まれていないが、照明用に発火性混合物を積んでいれば、煙が上がる可能性は十分にある。

 とっさにアサルトライフルを構えて、スコープを望遠鏡代わりに覗き込む。

 煙は確かに上がっている。

 しかし妙な点も同時に見つける。

「動いている?」

 煙は揺らめきながらこちらに向かっているようにも見える。はたして何が発生源なのか。

 完全に敵襲だと判断できるようになるまでまだ時間がある。

「後ろの奴らに知らせなければ……!」

 昼飯も食わずに汗だくになって働いている彼らは、当然このことには気づいていない。

 監視をしているギルド職員達に知らせようとあたりを見回すが、なぜか見当たらない。

 確定していない以上大声を出すわけにもいかない。

「見てくるしかないか……?」

 そこらの賊相手なら十分一人でつぶすことが出来る。

 だが、それ以外だったら?

 黒煙の正体はいまだつかめない。もしも、過去の戦争の遺物のような大型兵器だったら?

 限りなく低い可能性だが、自分の手の中にはその過去の遺物がしっかりと握られている。

 まだ、百数十年しかたっていないのだ。大型兵器が風化するには早すぎる。この辺境、当然ギルドの統治の及ばない無法地帯も数多く存在しているだろう。

 そこの武装集団が、壁建設で手薄になった今を好機と攻めてきていたら?数は両手両足の指では足りないだろう。

 その場合でも、相手は人だけではないかもしれない。何が眠っているのかはわからないのだ。

 着実に煙は大きくなってきている。近づいてきているのがはっきりとわかる。

「行くしか、ないか……」

 大型兵器が相手なら、今の『洸』では歯が立たないだろう。

 だが、人相手に遅れはとらない。

 頬を叩いて喝を入れ、姿勢を低く。かかとに力を入れて走り出す。

 砂煙のむこうでは依然としてもうもうと黒煙が上がっており、その量は若干増したように見える。

 あちらの装備にもよるが、俺はもう補足されているだろう。

 奇襲などという安全策を取っている暇はなかった。ま正面からの特攻。

「ある意味で奇襲かもしれんな」

 単身突撃と侮って隙をさらすか、反対に警戒しすぎて足を止めるか、見込める戦術効果はこの程度だが、不安を紛らわせるには十分な思考だ。

 

 そして会敵用意。柄に手をかけ、速度を抑える。姿が見えると同時の切り込みで、流れを掴む。


 砂煙から敵と黒煙の正体が姿を現す。

 人数は一見で30、一個小隊弱といったところか。皆ゴーグルを装着しており、その足取りも、悪路での戦闘への慣れを感じさせる。

 だが足さえ止められれば十分に相手できる。

 が、同時に姿を現したのは、やはり兵器。

 戦車だ。砲塔は取り外されて、代わりにいかにも凶悪なトゲつき鉄球とクレーンが装着されている。

 無限軌道(キャタピラ)の前には対人用と思われる大きな針が備えられ、なるほど後ろの壁を壊すにはうってつけの重機デザインだ。

 戦車を囲うように並んだ歩兵の武器はまちまちで、半数が『洸』のような打刀系、長物が少数。

 警戒すべきは、車上のおそらく頭領だろう男の背負う大刀だ。バカ食いするエネルギーのせいで大ギルドの軍隊でもないと運用しないデカブツが、なぜこんなところにあるのかとも思ったが、今はどうでもいい。

 そのリーチは驚異的で、おそらく一ステップより長いだろう。その巨体に見合った威力ならば、打ち合うこともできない。できるだけ一撃で仕留めたい相手だ。

「ゼアァッ!」

 こちらの視界が晴れ切るより早く敵の一人が上段に構えた刀を振り下ろしてくる。

 戦車正面に走りくるこちらを早急に排除したい、という心づもりなのだろう。

 しかし遅い。

 胴を横一閃に両断し、回し蹴りで上半身を奥の兵にぶつけてさらに怯ませる。

 車は急には止まれない。当然このままここで戦闘しようとすれば、戦車にミンチにされるのは自明。

 戦車の右横に回り込むようにして飛び込み、そこにいた兵士の首に一撃。まさに敵中に飛び込んだ形となった。

 一度隊に追い抜かされれば、追いつきながら戦うことになる。それは避けたい。

 ここからはスピード勝負だ。できるだけ間を開けないように迅速に兵を片付け、戦車にできる限り並走する。

 前に五人、後ろに四人。先に前を片付けて後ろの妨害に充てるつもりで眼前の敵を袈裟がけに叩き切る。首の前を掴んで背後の四人に投げつけるように進路から排除。

 同様にさらに前の兵に切りかかろうとしたが、すでに前三人は覚悟を決めたように陣形を組んでおり、こちらの足止めに徹することにしたようだ。

「かかれ!」

 左右二人の飛び込みと、背後からの追撃。しかし甘い。

 こちらは戦車と並走するつもりで走ってきたのだ。二人の間を踏み込みで抜け、奥の一人を切りつける。一撃というには少し浅いが、十分に致命傷。

 後ろは不意を突かれて事故を起こしたようだ。切り込み二人が後続と衝突してしまっている。もう気にする必要はないだろう。

 しかし前にも横にもまだ敵は多い。

「なんとか戦車に乗れれば……ッ!」

 車上の敵を倒し、車を止めることが出来れば大幅に余裕ができる。少なくとも、当面の脅威は退けられる。

 が、すでに戦車は全速で走り出しており、追いつくことは至難の業。

 とり逃したともいえる。

「歩兵は置いて行ったか」

 時速6~70キロは出ているだろうか。障害物のいない荒野を鉄塊が駆ける。

 最初から跨乗していた男を除いて、歩兵は全て放置。警備が少ないことがわかっての行動だろう。

 すでに追いつけないほどの差が開き、残された道は歩兵の殲滅。しかしそれでも現場への被害は抑えきれない。

 そう思いながらも再び走り出すと視線の先に妙な人影が見えた。煙で誰かはわからない。

 ちょうど戦車の進路上ど真ん中。轢き殺されるか、鉄球につぶされるかという位置。

 人影はそんなところにいながらも泰然としており、周囲には静かな気が満ちている。

「……斬る、つもりかッ……!?」

 腰のあたりに手を据えて、ゆっくりと引く。そしてあらわれるのは遠目にもわかる鮮やかな刀身。

 人影はそれを正眼に構える。

 戦車も引く気はないようで「轢き殺してやる」と言わんばかりに猛然と突進。

 

 影が動く。


 距離は十分にあった。少なくとも、刀のリーチではなかった。踏込と振り下ろしを合わせてかするかどうかの遠い間合い。

 しかし、動いたと思った時には戦車をすり抜けその後ろに。

 下段まで完全に振り下ろしたその刀からは赤い光が灯り、修羅の様相。

 戦車は打って変わってノロノロと進み、少しして、両断。

 跨乗していた男ごと、脳天から股下まで叩き斬ったのだった。


うぐへぇー

ここまでやろう、って決めたら予想外の長さにっ!

プロットとも全然違うし、この後大丈夫かなぁ……

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