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ソードマンライフ  作者: 双葉 怜
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邂逅

 見知らぬ男はゆったりと、テントの真ん中に胡坐をかいていた。

「お前は誰だ」

 抜刀。

 手の荷物を手放し、それらが落ちるより早く刀を構える。

 眼前に剣先を突き付けられた男は、しかし微動だにしない。

「職を求めて、流れ着いた者ですよ。あなたと同じ」

 男は胡坐をかいた足の上に手を落ち着け、抵抗する意思を見せない。

「どうしてわかる」

「このテントが物語っています。丈夫で軽く、安いキャンバス布。使いやすく加工された枯れ木。中に置かれた荷物はすべて雑多なガラクタばかり。それなりの野宿経験と、治安を考慮した用心が窺えます。

町でぬくぬくと過ごした者に、この感覚は湧きません」

 動かないまま答える。やはり敵意はみられない。そもそも、仕掛けるなら俺がテントを覗いた、その時に切りかかっていただろう。

 刀を収めて問う。

「あんた、荷物は?」

 刀を二振り、腰に提げているのは見えるが、それら以外はわからない。鞄を背負っているようにも、何かを隠し持っているようにもみえない。

「……ありません。来る途中で賊に襲われましてね。一通りの荷物を盗られてしまって」

 正直、二刀を使うのは昨今でも珍しいと言える。

 実戦でしか腕を磨く場所の無い今では、扱いに習熟の必要な二刀流はそれなりの手練れでもないと使わない。

「まぁ、不覚をとったか知らないが、不幸なこともあるもんだ。まぁ俺もこれから飯を作る。少しで良ければ持って行け」

「ありがたい。なにかお礼が出来ればいいのですが」

 ふと、思い当たることがあった。

「……さっき賊に荷物を盗られたと言っていたな。何て名前の賊だ?」

「黒…、なんでしたか、聞いたことのない名前でした」

「ふむ、心当たりがあるかもしれん」

「本当ですか。荷物があれば、いくらかお礼ができます」

 あいつらが若干調子に乗っていたのは、こいつから荷物を奪えたからだろうか。

 しかし奪えたといっても荷物ひとつ。それであんなに不用心に調子に乗れるとも思えない。それなりにイイものが入っていたか、たんにバカなだけだったのか。どうでもいいことだが、とりあえずとってくれば分かるだろう。

「じゃあとってくるといい。少し離れた、死体の転がっているテントだ」

「……なにかに襲われでもしたんでしょうか」

「さてね」

 ゆっくりと立ち上がりテントを出ていく男を見送りながら、俺はバーナーに火をつけた。



「いや助かりました。多少漁られた形跡はありましたが、大体そのまま戻ってきまして。なにかお礼をさせていただきたいと」

 彼が持ってきた乾きものと合成果汁で、いつもよりいくらか豪勢な食事をした後、話を切り出してきた。

「構わんさ。さっきの食料だけで十分だ。味付きの飲み物は久しぶりだったしな」

 水と乾パンばかりになりがちな暮らしでは、ああいった飲み物は少量でも、たしかな癒しになる。

「それに、金には困ってない。町に入れさえすれば、欲しいものは大概揃えられるさ」

「……、その刀、第三世代の『(こう)』ですよね?」

 腰の刀に目をやる。

「ああ、それがどうした」

「替え刃はあるんですか?」

 超振動刀とはいえ、結局は刀。使用を繰り返せば刃こぼれもすれば、時にはポキリと折れることだってありうる。

「今はちょうど切らしているな。移動が続いて鍛えなおす機会もなくてな」

「ではその仕事、私が」

 一瞬何を言っているのかわからなかった。

 仕事、とは俺の刀を鍛えなおしてくれる、ということだろうか。

 第三世代は、刀身の超音波振動に伴うエネルギー消費の効率化が、特に重視された世代だ。

 なかでも、特殊職人シンジケート『airheads』製の刀である『洸』は、その刀身に特殊な合金を使用し、多少の厚みの差異があっても安定した動作を実現、加工の精密性を緩和して、大量生産にこぎつけた数少ない商品である。

 しかし同様の技術を転用した後発型の勢いに押され、今や少数派。

 同時に、その刀身の加工技術や、使用されている合金も、シンジケート本部に直接問い合わせないとわからないとされている。当然、流通もほとんどしていない。

 ゆえに、彼が、この刀がどういうものか、というのを分かったうえで鍛えなおすと進言するのには不審感があった。

「できるのか?」

「はい。経験はあります」

 経験――――その言葉だけでは、とても信用が出来ない。

 言った通り、替えは無いのだ。もし失敗して、曲がっただの折れただのという日には、俺の命が危なくなる。

 護身のための相棒、とも言える一振りなのだ。おいそれと渡せるものではない。

「やはり、信用できませんか」

 頷いた。

 一度飯を共にしたといっても、それとこれとは話が別だ。

「では、これをお見せしましょう」

 そういうと彼は、腰の一振りに手を伸ばす。思わず身構えるが、彼は鞘ごと刀を引っ張り出して、俺に差し出した。

「『洸』ではありませんが、私の鍛えた刀です」

 スラリと抜いて掲げてみれば、間違いなく俺が見てきたどの刀よりも美しく輝いていた。

「『AHB-21』か。なるほど、これは、凄いな」

 『AHB-21アンチヒューマンブレイド』は第二世代後期、対人戦闘用として高い人気を誇った、細身の長刀だ。それまでの、対車両にも使えた、人間にはオーバーキル過ぎる代物を、適度に調整した逸品とされている。

 今となっては発売されるほとんどすべてが対人専用刀なので、骨董品の仲間入りを果たしてしまっているが、その美しい細身の刀身は他にない。

 制作は『八代刀工(やしろとうこう)』。前世紀から刀の制作、補修を続けてきた老舗だ。

 その鍛造の技術は群を抜いており、制作される刀は全て手作り。おかげで流通量も圧倒的に少なく、気が付けばその名を見ないようになっていた。

 当然、そんなところの作った刀を、こうまで美しく磨き上げた男の腕は信頼に足る、と言えそうだ。

「……なるほど。たしかに腕前は問題なさそうだ」

 その細身の刀をひとしきり眺めて、しかし心のどこかで彼を信用しきれていないところがある。

「だが、やっぱり刀を渡すわけにはいかない。……明日は仕事もある、今日はもうとっとと寝るとしよう」

 提案を受け入れたのだろう。男は静かに首肯し、荷物を持ってテントを出て行った。

 姿の見えなくなったところで毛布を取り出し、寝転ぶ。

「予想外にアッサリ引き下がったな」

 正直、刀の一本を見せまでした割にはすぐ引き下がったといえる彼の対応には、腑に落ちないところがある。

 刀を鍛えさせろ、といった後の語調は、押し売りを彷彿とさせるほどには強く、有無を言わせぬだけの熱を感じた。しかし断ったとたんに落ち着いて出て行ったのだ。

 あの変わりよう、余計なことを勘ぐらずにはいられない。


 そう思いながら夜は更けていった。

固有名詞がいっぱい出てきましたが、今後絡んでくることはあまりないので、興味ある方だけどうぞー。

……なかなか世界観の細かい説明が出来ず心苦しいですが、次回ではいくらか説明できると思うので、乞うご期待。

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