プロローグ
「ムサシ……? それが標的の名前か?」
荒野の廃墟に響く声。
「まぁ、確かに標的だけど、人じゃない」
返る声は握られた灰色の端末から。この世界で他人とつながる数少ないツールだ。
「人じゃない? どういうことだ、お前は殺し屋だろう?」
「それはこの前やめたって言ったじゃないか! 今は優しーい主のもとで働いてるんだよ」
そういえばそんなことも言われた気がする。彼と連絡を取るのは久しぶりなのだ。
「それで、ムサシってのはなんなんだ?」
「刀だよ。最初期の、超振動刀」
超振動刀。今まさに俺が腰に提げているものだ。
人をより容易に切るために製造され、今も進化を続けている、現代の戦闘の主役。
「刀ぁ? それも最初期だって? そんなガラクタ、狙ってどうするんだ。今お前の持ってるやつの方が明らかに斬れるだろう」
超振動刀は進化を続けている。今俺の提げているものでも第三世代。通信相手の男は幾分裕福なのでおそらく最新モデル、第五世代だろう。
二世代もはさめば旧型は新型には文字通り、「刃」が立たないと言われるほどだ。
第四・三世代が主流の今現在では、最初期など、骨董マニアしか欲しがらない。
「ところがどっこい。その一振り、どうも曰くつきの業物でさ。聞いたことあるだろ? 先の大戦での二刀流サイボーグ剣士。その人愛用の一振りなんだってさ」
「確かに有名な都市伝説だな。で、それがどうした」
最初期なのだ、弱いことには変わりないだろう。
「ドライだなぁ。浪漫があるじゃないか。そして僕のご主人様はそれにたっかーい懸賞をかけた。
さぁ、君のやるべきことは?」
「確かに金には困っているが、興の乗らない仕事を受ける気はない。今度は自分でやれ」
切って捨てたところで沈黙。
普段なら、『しょうがないなぁ』、と通信を切ってきてもおかしくない場面だ。
「……賞金は全部そっちにあげてもいいよ」
耳を疑った。
「今、なんて言った?」
彼はことあるごとに俺に仕事を頼み、しかしながら自分の取り分はコソコソと確保する、小悪党のような男だったと記憶している。それだけに驚きの言葉だった。
「ウチのご主人様は刀自体にはあまり興味も無いそうだし、ちょっと見たら発見者に返す、とも聞いている。対して僕の興味はその刀でね。是非とも欲しい。
どうだい? 刀は僕、金は君。まさしくwin-winの関係じゃないか?」
一言でいえば、怪しい。
これまでも胡散臭い話はいくつもあった。だが、今回は確信できるほどにおかしい。
「……ヤバい奴でも絡んでんのか」
踏み込む。
うまい話には裏がある、というのは定番だが、どうにもヤバそうな臭いがしてならない。
「さっきお前、『ご主人様は刀自体にはあまり興味が無い』って言ったな。
じゃあ一体どういう目的でその『ムサシ』に懸賞をかけたんだ?」
あらかた予想はつく。
「……、旧剣士のオマケつき、いやこっちがむしろメインだね」
「結局殺し屋稼業じゃないか……」
初投稿でしたがどうでしたでしょうか
戦闘シーンなんかはまた今度、な前置き回でしたが、ちょくちょく様子を見に来てただけると嬉しいです!