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14:思惑ミステイク

 マリカの逃亡幇助は、「ウィル様見守り隊」の計画でもあった。

 その計画の裏にある思惑は、半分半分。

「これまで通り、女中たちで独占してウィル様を愛でられる」

という我儘な気持ちと、

「泣くほど嫌がるマリカ様を引きとめるのは、あまりにも不憫である」

という同情の気持ちであった。

 そのため、見守り隊の隊員のほぼ半分が、せっかくの移動サーカスを無視して屋敷に居残っていた。

 使用人専用食堂の窓から、裏庭を横切るマリカを見守る。

 今宵は満月。空も明るいため、彼女の姿もよく見えた。

 マリカは赤毛を帽子に押し込んで、伏し目がちに裏門へと急いでいた。傍目には、急なお使いを言い渡された女中にしか見えない。

 お仕着せの力が存分に発揮されていた。


 窓の前を陣取って彼女を見送り、見守り隊は惜しむように呟く。

「おっとりした方だったから、ウィル様にぴったりだと思ったんだけどね」

「ちょっと年増だったけどね」

「その方がいいわよぉ。ウィル様ってば無口だもの。姉さん女房に察してもらう方が上手くいくわ」

「そういう意味ではやっぱり、お似合いだったのかもね」

「でも、もう遅いわ」

 ルアナがぴしゃりと言い切った。

 その表情は硬い。

「マリカ様がご自身で、逃げることを選ばれたんだもの」

 この言葉に、一同もしゅんとなる。

 なお、おっかない家政婦も、こうるさい執事も出払っているため、食堂は彼女たちが占拠していた。


 マリカの侍女に選ばれ、なおかつ見守り隊の隊長を務めるだけあり、ルアナには他者を引っ張る力強さがあった。

 今も厳しい顔立ちで、マリカを惜しむ隊員たちをぐるりと見回す。

「嫌がる方を強引に花嫁にすれば、それこそウィル様が不幸になるわ。私達の目的は?」

『ウィル様を見守り、幸せを願うこと』

 咄嗟ながらも声を揃え、隊員たちが復唱する。脊髄反射による賜物だ。

 仮面を外していても、もはや骨の髄まで見守り隊なのであろう。少々不気味な話ではある。

 不満顔でも息ぴったりの隊員に、ルアナも満足げだ。

「そう。幸せを願うことが、私達の目的。だからウィル様のためにも──ウィル様っ?」

 ちらりと視線を窓へ向け、ルアナは素っ頓狂な声で主の名を二度も呼んだ。

 女中たちも何事か、と窓に顔を向ける。

『ウィル様!』

 そしてルアナと同じように、叫んだ。


 窓の外を、ウィルフレッドが猪突猛進なる勢いで走り抜けて行ったのだ。

 目的は、その目で追わずとも分かる。

 ルアナは天井をにらみ、品悪くも舌打ちをこぼした。

「しまった、図書室にこもられていたんだわ」

 その言葉に、女中たちもさっと青ざめる。

 中には頭を抱える者もいた。

 マリカの脱走計画に傾倒するあまり、落ち込むと図書室に引きこもる、主の習性をすっかり失念していたのだ。


 なお使用人食堂の真上に位置する図書室からは、裏庭および裏口が丸見えであった。

 つまり、マリカの脱走も丸見えであったのだ。

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