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営業中 手の器用さ

 いつも通り暇なランチタイム、あの女の子がお店に遊びにきた。

 サイラやシアンたちと遊んでいる。この前よりは慣れてきた印象がある。

 店の奥で遊んでる二人をおいて、マスターとコレクターは店番の真っ最中。利益の計算をしているマスターに掃除をするコレクター。

 不意にコレクターが口を開くのだった。


「例の件、連絡あってんだって?」

「あぁー言い忘れてた…ちょっと気分の悪い連絡だったからな。…ヒースさんからではなく、あいつからのだった…。」

「まーおおかた予想はついてたさ。で?」

「『協力に感謝する。そちらに目撃情報をまとめた紙を送らせてもらう。以後はそちらの判断に従って捜索、捕獲をしてもらって構わない。何かあり次第連絡求む。』とのこと。」

「なるほどね~。今回は真面目に連絡してきたんだね?」


 作業する手を止めずに話を続けるマスターとコレクター。まだ、お客さんは来てない。


「さっき言ったところまではな。それからはいつも通りのあいつだったし、うるさくて切った。」

「すこしはあいつも真面目になったかと期待しちゃったんだけんどーダメかー。」


 笑いながら、床をモップで拭くては止めないオレット。

 店の奥でサイラはシェルと折り紙をやっていた。パン屋の奥さんから、もらったものでしっかり折り方の書いてある紙も数枚ある。

 折り紙は東洋の遊びなので、サイラやシェルにはなじみがなく折り方を見ても上手くできない。すでに何枚かは犠牲になってる。

 店番に行く前にマスターが折り方を見て折っておいていった小鳥が一番上手だ。折り間違いがなく、丁寧に折られている。本人曰く、折り紙というものを触るのも見るのも初めてらしい。なのに一発で折れたのはマスターの器用さ故かもしてない。

 そんなこんなで、今まさにシェルが小鳥を折っていた。やはり、上手くいかず既に折り直しのせいで少ししわしわになってしまっていた。


「うまくいかない…うー。」

「そ、そうだね…。こう…マスターみたいに…うまくいかない。」


 シェルが小鳥の折り方と折り紙をにらめっこして折っている。それを見守るサイラも真剣だ。

 そんな二人のそばをうろうろしているマルシーズのシアン。

 小さい手で一生懸命に取り組むシェル。しわしわになってしまった折り紙を折っていって、少しぎこちなさが残る小鳥が出来上がった。


「できた…!」

「おぉ!すごい……!」


 出来たばかりのその小鳥に目を描き、シェルはサイラに渡そうとサイラの顔の前にそれを持ってきた。いきなり目の前に小鳥を突き付けられて戸惑うサイラ。


「おねえちゃんにあげる…。」

「いいの…?せっかく出来たのに…私がもらって…?」

「うん!おねえちゃんにもらってほしいの…!」

「ありがとう…大事にするね!」


 嬉しそうに両手でもっていろんな角度から眺めている。眺め終わると大切に小鳥をしまった。

 サイラも頑張る事を決めたのか、新しい折り紙と折り方の紙をとり、小鳥ではなくハートを作ることにした。小鳥より難しく、すぐぐちゃぐちゃになってしまって、苦戦した。

 シェルはいつしか手を止めてサイラの手元をじーと見ている。サイラは真剣に折っているためそのことに気づいていない。

 静かな時間が過ぎていく。



「ますたー!!」


 やっとの事お客さんが来た。元気に店の扉を開けて、声と鐘の音と共に入ってきた。小学生ぐらいの男の子数人。


「おい!!扉は丁寧に開けろ!高いんだから!」

「すいませーん。で!ますたー、またおもちゃ直してほしいの!」


 レジの前まで来て子供は、水に浮かべてスイッチを入れると進みだす船のおもちゃを置いた。少しボロボロになっていた。


「ん?これは進まなくなったのか?」


 船を持ち上げてあらゆる方向から覗き込むマスター。


「うん!見てみたら、プロペラ?って言うところになんか挟まっちゃってた!」

「挟むなよ。いいや、直してやるから待ってろ。」


 レジの引き出しから、ピンセットとドライバーでプロペラの部分を手慣れた手つきで分解して、挟まっていた小石を取り出した。そして、プロペラをもとに戻し、男の子に渡す。


「これでいいだろ。川とかで遊ぶようじゃないからな?石とか入りそうなところはさけろよ?」

「はーい、ありがとう!これで妹も喜んでくれるかな!あ、はいお金!」


 子供の手には硬貨一枚。マスターに硬貨を渡した。


「はい、物は大切にしろよ?」


 子供は元気よく返事した。

 子供の後ろでコレクターが呆れた顔と態度を示していた。


「子供からお金をもらうかねー?普通。」

「前も言ったと思うが、子供には今のうちから、物とお金の大切さを知っていた方がいいと思うんだ。」

「はいはい、ご大層な考え方で。」


 茶化すようにマスターの言葉に返事をする。

 コレクターはこのためだけに店の掃除を中止して子供の元に来たわけでは無い。タイミングを計ってある事を子供に聞こうとしていた。

 マスターが一通りの子供のおもちゃの修理を終えたところで、切り出すことにした。それまではコレクターも子供と一緒に修理しているところを眺めていることにして、掃除をさぼる。

 わーっと子供は無邪気な目でマスターに見入っている。器用に修理していく様が見ていて楽しいのだろうか。



 一通りおもちゃ直し終わったところでコレクターが切り出した。


「そういえば、君たちの周りで緑の髪で君たちくらいの女の子っていたりする?」


 子供に向かってそう聞いてみた。野良の魔術師が子供っていう話を聞いたから、子供の事は子供に聞いた方がいいと考えたのだろう。腰を下ろして子供たちの目線に合わせてる所を見ると本気なのが伝わってくる。

 子供は悩んでいた、首を左右上下に動かして考えているが、思いつかないよう。


「ぼくの周りにはいないよ。あおとか茶色とかは多いけど…。」


 そっかーと答えてくれた感謝を込めて子供の頭をなでる。


「てか、なんでそんな事聞くんだよー?これくたーもしかして、ろりこんになったの!?」

「そんなわけないだろ!それよりどこでその言葉覚えてきた!?」

「おれっち、さいきん頭よくなってきたんだ!!」

「その言葉は覚えなくていいぞー。」


 そのあとも結局周りに緑の髪の子はいないらしく、収穫はなしだ。

 子供とはそのあと他愛のない話をしていた。



 子供たちが帰ろうと扉を開けると同時くらいに、セルが扉を開けて入ろうとしていた。幸いぶつからずに済んだけれど、危なかった。そんなことお構いなしに子供は元気よく店を出ていった。


「…びっくりした。子供は元気だな…。あ、こんにちは。」


 レジの前までセルは足を運ばせた。そこに来てようやく挨拶をした。


「いらっしゃい。シェルちゃんなら、サイラと奥で遊んでる。」

「面倒みていただきありがとうございます。些細なものですが、お礼にと思ってこれを。」


 手に持っていたものは綺麗な包みだった。セルの見た目には申し訳ないがそぐわない。


「ん~かわいい包みだねぇ?それは何が入ってるの?」

「クッキーです。今ちょうどティータイムかと思いまして。」


 笑顔でコレクターに包みを渡す。コレクターが受け取ろうとふと、セルの手を見た。古傷かと思われる小さな傷が複数あった。それを見てなんでこんなに傷ついているのかを尋ねるほど、コレクターは無神経じゃない。

 ここで笑顔でありがとうって言って受け取るのが、コレクターらしい行動。だが、今回は違った。


「あれ?セルってこんなに手が傷だらけだったんだねぇ?痛くない?大丈夫?」


 これは何か考えがあって聞いたんだろうと思ったマスターは、お店の外のプレートをcloseに変えた。再び店に入ったあとで、また感とかで振り回されただけかもしれないと気づき、少しの後悔がよぎった。

 戸惑っているセルはコレクターがすでに受け取った包みから、手を離せずにいた。


「大丈夫ですよ。古い傷ですし、今は全く痛くありません。」

「なら大丈夫だねー。じゃ、皆でお茶会にでもしようかね?」

「俺は大丈夫です。そこまで、迷惑をかけるわけにはいきませんから、シェルを連れて邪魔にならないうちに帰ります。」


 笑み、一緒にお茶を楽しもうと誘う、コレクターにどこか畏怖するセル。いつの間にか包みから手が離れていた。


「迷惑じゃないしさ?オレはもっと君たちと仲良くなりたいなって!」

「いや、でも…。」

「遠慮はよくないよ。どっちにしろ奥行かなきゃシェルちゃんいないしねー?」


 セルの手を思いっきりつかんで、奥に連れていく。その光景を見てマスターは少し呆れていた。



 結局五人でテーブルを囲んでお茶してるのだが、お茶とお菓子そして折り紙が散乱していて、落ち着かない。一応少しは片づけたのだが、折り紙がやり場がなく、そのままになってしまった。

 サイラとシェルが頑張った結果ともいえる産物が、陳列していた。小鳥やら、花やら不格好だが、一生懸命さは伝わってくる。

 シェルが真剣に作ったものはほどんど、セルの前に並べられている。コーヒー片手にシェルが作った折り紙をマジマジと見る。その時のセルは少し微笑んでいるように見える。

 隣に座っているシェルは作ったものがセルの手にいく度に、心配そうに見つめる。


「それにしてもかなりの折り紙を使ったな…。」

「その…うまくいかなくて…。すみません…。」

「謝るほどでもない。」


 マスターはそう言って、折り方の紙を見て折り紙を始めた。今折っているのは鶴だ。東洋ではこれを折れるのが普通らしいが、慣れていない人からすれば全く折れないと思わせる折り方だ。


「これは案外楽しいしな?お店のレジのところにでも置くか…。」

「器用ですね…俺には全く折れる気がしないです。」


 マスターが折る様子を見て関心する。見られてたらおりにくいと、思いつつも折り紙を折り、鶴を完成させる。


「セルも折ってみたらどうだ?」

「え?俺ですか?」


 やめときます。と困ったように断る。


「たのしいよ!やってみて…!」


 断る兄にシェルは服の裾を引っ張ってそう言った。そんな妹のお願いを断れるはずもなく、折り紙を手に取る。


「折り方の紙見ても折れそうにないです…。これ本当に花になるんですか…?」

「それはセルの器用さに左右されるんじゃない?マスターだったら花になるよぉ。」

「なるほど、頑張って花にしてみせます。」


 真剣に折り紙を折っているセルを興味津々に見るコレクター。少しおり始めた頃、コレクターは口を開いた。


「そういえばこのクッキーってセルが作ったの?」

「いえ、幼馴染が、作って渡してくれました。」

「あ、彼女じゃないんだ。」


 不意に手が止まるセル。コレクターが何気なく言った言葉に止まったのか、折り方がわからなくて止まったのか。ニヤニヤしながらセルを見るコレクター。


「彼女じゃないですよ。幼馴染なだけです。」

「おねえちゃんやさしくてかわいくて、いいひと。あとつくってくれるおかしおいしい。」


 シェルがぎこちない、セルに補足する。嬉しそうに話すシェルはとても子供らしく、愛らしい。

 そんなシェルを見て嬉しそうに微笑むコレクター。

 話している間にもセルの手によって花が作られている。その手を見ているマスター。


「そういえば古傷って言ってたが、何の傷口が残ったものなんだ?」


 何も考えず、不意にそう言ってしまったマスター。


「えっと、それは…。」

「ナイフとか?そういった傷だよね~?」


 手を止め、下を向き応えようとしないセル。下を向いているというより、自分の手を見ている。


「だめです。おにいちゃんをいじめちゃだめです。」


 席を立って手を大きく広げ、セルをかばうようにシェルがコレクターの前に立つ。


「そういうつもりではなかったんだけど、ごめんね~。」

「シェル、大丈夫だから座って?」


 顔を上げず、そうシェルをなだめるセル。シェルはうんと返事をして元の席につく。


「で?あなた方が聞きたいのはなんですか?手の傷を問い詰めたいわけでは無いですよね?」


 完成した花を机に置き、頭を上げるセル。少し睨んでるように見える。


「そんな構えなくてもいいよ~。じゃっさ?質問なんだけど、野良の魔術師について知ってたりしない?」


 空気が変わった。

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