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-後編-

「気がついたか?」


目覚めた時に始めに聞こえたのは、隊長である三嶋の声だった。

高遠はまだ朦朧とする意識を無理やり覚ますように首を振って、声のしたほうを振り向く。


「申し訳有りません隊長。BLNは倒したんですが――」


「ああ、言わずとも予想はつく。

お前達が向かった後に分かったことなんだが……」


高遠の言葉を遮って三嶋が続ける。


「あの場所で、海藤正樹……という名の男と出会わなかったか?」


あまりにも的確なその質問に、思わず黙り込む高遠。


「隊長、あいつのこと知ってんすか?」


ぶっきらぼうにそう言い放ったのは隣で寝ていた八神だった。

まるで拗ねるように口を尖らせて言う姿を見ると、完膚なきまでな敗北を味わったのがよっぽど悔しかったらしい。少しの間沈黙していた三嶋だったが、次第に八神は苛立ちを顕に、


「教えてくださいよ隊長、あいつは何なんですか!?」


上半身を起こして、三嶋が話すのを急かすように言う。

それを見かねて、一呼吸置いた後に三嶋は口を開いた。


「【DarknessEagle】というグループを知っているか?

奴はそこに所属する言わばギャングのような存在だ」


「……はて、聞いたことはありませんが」


高遠は少しの間考えるも、自分の記憶の中にそのようなグループ名は存在しない。

三嶋は顎に手を沿え、「ふむ」と一言呟くと話を続けた。


「まあ、無理も無いな。警察でも上層部しか知らない影のグループだ。

それと、グループといってもメンバーは海藤正樹ただ一人。

つまり実質的には奴一人のことを指して呼ぶことも多い」


「ようは奴のワンマンチームってことか。

それとDarknessEagle……漆黒の鷲、ってところだな……

そのチーム名の由来はまさか――」


「察しの通りだ。

コルト社製のダブルイーグル一挺で、あらゆる障害を排除してきたことからこの名がついたらしい。

お前達もその強さは十分に味わっただろう」


その言葉でバツが悪そうに沈黙する二人。


「さて、問題はここからだが……

実のところこの海藤という男、BLNではないがその強さは一線を越えている。

正直なところ、全国で指名手配中のBLNよりも厄介な存在と言えるだろう」


無言で頷き、肯定の意を示す二人。


「だからこそ野放しにしておくわけには行かない。

……今度は私が行ってこよう」


三嶋の突然の言葉で驚きを顕にする二人。


「隊長自ら!?だったらオレにやらせてください。

このまま負けたままではいられません!」


「そうです、もともとは私達に課せられた任務。

隊長が出向かなくとも!」


口々に反論する二人。

だがそんな二人の言葉にも動じずに、三嶋は目を鋭く細めると、


「馬鹿を言うな。

奴は殺すことに何のためらいも無い人間だ。

――今度は、死にたいのか」


二人を戒めるように、低く押し殺した三嶋の声が室内に響く。

その言葉に威圧されて、二人は何も言えなくなる。

確かに、今の二人では確実に勝てる相手とは言い切れない。

それに三嶋の言うとおり、先ほども海藤は何のためらいも無く殺そうとしてきた。

それはすなわち、敗北した時には死が待っているということ――

悔しさから自然と拳を握り締め、唇を噛む二人。


「お前達は決して弱くない。

だが、今回は相手が悪すぎる……それだけだ」


三嶋は一言だけ言うと、立ち上がって部屋から出て行こうとする。

が、扉の前で急に立ち止まったかと思うと、


「ところで、寝てるしかないほどの怪我ではないだろう?

丁度いい機会だ、特務課隊長としての戦い方を見せてやる」


振り向くことなくそんなことを言ってから部屋の外へと出て行った。

一瞬何を言っているのか分からず唖然としていた二人だが、すぐに言葉の意味を理解する。

ようは寝てるぐらいなら付いて来いと言っているのだ。

三嶋の言わんとしていたことが分かった二人は、出入り口の方に体を向けると、


「「はい、了解です!」」


もう室外へと出て行った自分達の隊長に向かって敬礼した。




三人が向かったのは先の戦闘が行われた廃工場。

副長である藍沢は、念のため署内に待機している。

廃工場の入り口を抜けるとすぐに、聞き覚えのある声が聞こえた。


「……なんだ、また来たのか?」


呆れるようにどこからか声が聞こえる。


「警察本部特務課隊長、三嶋啓二だ。

海藤正樹、貴様を公務執行妨害で確保する。

……いや、罪名はそれだけではないはずだがな」


警察手帳を開き、どこにいるとも知れない海藤に向かって声を張り上げる三嶋。

その言葉でいささか驚いたように、


「へぇ?てことは後ろの二人も警察の人間かよ。

それにしても、とくむかだって?聞いたことねぇな。

……いや、それよりも驚くべきは警察にしては楽しめたってところか」


言い終わると目の前の資材からすっと一人の男が姿を現した。


「貴様が海藤正樹か。

先ほどは部下が世話になったな」


「アンタがこいつらの上司ってわけか。

てことは当然、楽しませてもらえるんだろうな!?」


右手に持つダブルイーグルの照準を三嶋に合わせる海藤。

すぐにでも飛び掛りそうな高遠と八神の二人を制して、三嶋も拳銃を抜く。

が、その拳銃を見てあっけに取られたように目を見開く海藤。


「S&W M60だと?おいおい、警察の正式採用拳銃かよ」


三嶋の取り出した銃は、日本の警察が携帯しているミネベアM60(俗に言うニューナンブと呼ばれる拳銃)の後継機。チーフススペシャルの二つ名を持つこの回転式拳銃は、警察の標準装備みたいなものだ。

勿論、火力や扱いやすさ共に目立ったところはなく、ダブルイーグルと互角に渡り合えるような銃ではない。それを知ってか、海藤はため息と同時に目をスッと細める。


「後ろの二人の武器が確か……MG42とMP5だったよな。

まあ、ただのギャングにしては大層な武器を持っているもんだと思っていた。

んでそれが警察の人間と知って少しは武装についても納得はいった。

けどよ、その上司はどんな得物かと思えば……なめてんのか?」


期待を見事に裏切られ、怒気を孕んだ声で言い放つとダブルイーグルを持つ手に力が込められる。


「……期待を裏切ってしまったようだが、武器の性能が勝敗を決めるものではない」


「その台詞、オレに勝ってからほざけ!」


海藤は容赦無しにダブルイーグルを連射。

それをかわしながらM60のハンマーを起こし、応戦。

だがリボルバー式拳銃はその特性故どうしてもオートマチック拳銃に比べて連射性が劣ってしまう。


「どうした!

一発一発丁寧に撃ってるんじゃ、オレを捕まえることなんて永遠にできねぇぜ!?」


三嶋が一発撃つのに対して、海藤は四発以上の弾丸を飛ばしてくる。

その弾を柱の影に身を潜めることでかわすと、シリンダーをスイングしてエキストラクターを押すことで空薬莢を排出。

そして普通なら一発ずつホールに弾薬を詰めなければいけないのがリボルバー式の難点なのだが、三嶋はスピードローダーを使うことでこの時間を短縮し、五発の弾丸を一気に装填する。

装填が完了すると同時に柱の影から飛び出すと、銃口を海藤に向け左手で撃鉄を扇ぐように撃つ。

リボルバーにあるまじき驚異的な連射速度で飛んできた弾丸を海藤は辛うじて木箱を盾にしてかわし、空になったマガジンを交換する。


「その連射……ファニングか!」


ファニングというのは、右指でトリガーを押したまま、左手で連続して撃鉄を起こすことでオートマチック並の連射速度を実現できる射撃法。

どうやら、銃の種類はともかくとしてその腕は確からしい。

再び装填を終えた三嶋は、遠くからでは埒があかないと思ったのか徐々に海藤に近寄ってくる。


「接近戦かよ!上等だ!」


驚くほど正確な射撃で三嶋の足を止める海藤。

三嶋は物陰に身を潜めながら、機会をうかがって海藤に発砲。

だが、海藤は飛来してくるその弾丸を次々とダブルイーグルで撃ち落していった。

これには流石の三嶋も驚きで目を見開く。


「おい、冗談だろ……」


「音速を超える弾丸を、弾丸で撃ち落すなんて芸当。

そうそうできるものではありませんよ」


後方で待機していた高遠と八神も、口々に驚きを顕にする。

三嶋はすぐに冷静さを取り戻すと、誰にも聞こえないように「面白い」と呟いた。

三嶋は戦っている内に薄々と感じていた。

この男は、おそらく射撃に関しては自分と同等か、それ以上の素質を持っていると。

だが――


「まだまだ、粗いな」


ふっと表情を緩めてそう呟いた。

物陰から再び体を出し、いくつかの銃弾を海藤目掛けて撃つ。

海藤に負けず劣らずのその精密射撃で、今度は海藤が物陰に隠れることを余儀なくされる。


「日本の警察は腰抜けばかりかと思っていたんだが……

どうやら、そんな奴らばっかじゃねぇみたいだな」


三嶋の強さを徐々に認めていく海藤。

だが、それでも勝てない相手だとは思っていない。

ここまでは互角……いや、こと銃撃戦に関してはまだ自分が押してる自信がある。

その時、その僅かな自信の差が戦況を変えた。

海藤の放った弾丸が三嶋のM60を弾き飛ばしたのだ。

乾いた音を立てて廃工場の床を転がっていくM60を横目に、三嶋は舌打ちした。


「隊長!?」


「どうやら、形成が決まったな」


悠然と物陰から出てくる海藤。


「拾っても構わねぇぜ?

ただ、その場合後ろから撃たせてもらうけどな!」


ダブルイーグルの銃口を三嶋に照準する。

それに呼応するかのようにそれぞれの得物を海藤に向けて構える高遠と八神。

だが、そんな二人を三嶋は片手で制した。


「高遠、八神、これは私の戦いだ。……手を出すな」


三嶋に戒められ、渋々銃口を下げる二人。

三嶋はその二人の様子を確認すると、自分に銃口を向けている海藤を見据える。


「大した射撃の腕だな、ギャングにしておくにはもったいないぐらいだ」


残念ながら予備の銃は持ってきてない。

銃の性能の差もあるとはいえ、この銃撃戦に至っては海藤に軍配が上がった。

だが、それでも三嶋は冷静さを崩さなかった。


「余裕なのも今のうちだ。

……まあ、あの二人よりかは楽しめたぜ」


遠くで見ている高遠と八神を一瞥すると再び三嶋の方に目線を移して、


「あばよ」


ダブルイーグルの銃口が火を噴いた。

だが、その弾丸は三嶋に届くことが無かった。


「な――ッ!?」


金属がぶつかり合うような甲高い音が響いたと思ったら、三嶋の右腕の手の甲によって海藤の放った銃弾は止められていた。

よく見ると素手ではない、これは――


「……鉄製の、篭手!?」


「銃撃戦で片がつくかと思ったんだが――」


三嶋は弾丸を防いだ右手をゆっくりと下ろす。

と、同時に物凄い瞬発力で海藤に急接近し、拳を打ち上げる。

それを咄嗟にダブルイーグルで受け止めるが、その衝撃までは押し殺せずに海藤は後方に飛ばされた。


「なんだと……?」


銃撃戦の時よりも確実にスピードが増している。


「私はもともとこちらが専門でな。

銃を振り回すより遥かに動きやすい」


特に今までと変わらずに淡々と話す三嶋。

だがその闘気は先ほどとは比べ物にならないくらい巨大なものとなっていた。

それで海藤は悟った。

どうやら、自分はとんでもない男をその気にさせてしまったのだと。


「上等だッ!」


海藤は怯まずにダブルイーグルを連射する。

が、弾道を見切った三嶋はそれを全て拳で叩き落す。


「馬鹿なッ!?」


「どうした、先ほどの威勢はどこにいった?」


またも驚異的なスピードで急接近してくる三嶋。

海藤は迎え撃つが、それも全てかわされ三嶋の接近を許す。

それでも海藤は諦めずに至近距離で発砲。

しかしそれは篭手によって防がれ、かわりに三嶋のミドルキックが海藤の脇腹を直撃する。

嗚咽を漏らす間もなく右のボディーブローが入ったと思うと、左フックで海藤のダブルイーグルを叩き落す。

続けて放った足払いで海藤は体のバランスを崩して仰向けに倒れ、その上から三嶋は海藤の顔面目掛けて右拳を振り下ろした。

しかしそれは海藤の額から数ミリのところで寸止めされる。


「……終わりだ、海藤正樹」


海藤のコメカミを冷や汗が流れる。

この男に少しでも勝てると思っていた自分が愚かだったというのか、裏世界で腕の立つ猛者と言われていた海藤でも全く歯が立たなかった。

あまりにも唐突に自分が負けたという事実を突きつけられたのでしばらく呆気に取られていた海藤だったが、思い直すとすぐに三嶋を鋭い双眸で睨みつける。


「……殺さねぇのかよ?」


自分は相手を殺す気で戦っていたというのに、相手にはその気が無かったのだろうか。

だとしたら、随分なめられたものだと海藤は苦笑する。

いや、そういえばこの男は警察関係者だった。

それならば今自分を殺せないのも無理は無いかと内心で納得する。


「オレを逮捕するんだろ?

さっさとやれよ、独房だろうがどこだろうが入ってやるよ」


三嶋に生殺与奪を握られているにも関わらず、挑発的な口調の海藤。

そんな海藤を紫の双眸で睨みつけると、それだけで海藤は気おされたように黙り込む。

とその時、三嶋は振り下ろしていた拳を海藤の額からどかすと、今度は仰向けに倒れる海藤に手を差し伸べてきた。

これには流石に怪訝に思う海藤。

戦闘が終わって「ナイスファイトだった」とでも称えあうつもりだろうか。

だが、目の前のこの男はそんな軽い性格ではないことぐらい、今日あったばかりの海藤でも分かっていた。

そんな思慮をめぐらせていると、三嶋が唐突に口を開いた。


「海藤、特務課に来い」


完全に予想外の言葉を投げかけられ、呆気に取られる海藤。


「隊長!正気っすか!?」


「馬鹿な、この男は危険です。何ゆえそのような考えを……」


八神と高遠も口々に反論する。

もっともな意見だ、さっきまで戦っていた相手に味方になれというのだから。

三嶋も無理は承知の上だった。

だが、この男の素質はこんなところで殺してはいけない……

その思いが、三嶋をこんな突拍子も無い行動に駆り立てたのだ。

それぞれの思惑が渦巻く中、予想外なことに海藤は三嶋の差し出した手を握り締めてきた。

そして海藤は不敵な笑みを浮かべて三嶋に問いかける。


「いいのかよ?

アンタが下につけようとしているのは単なる野良犬じゃねぇ。

いつ飼い主に噛み付くともしれない狂犬だぜ?」


「私の寝首をかくつもりならいつでも来い。

……だが、お前ごときに倒される私ではないがな」


海藤の挑発じみた問いかけにも強気に返す三嶋。


「上等だッ……!油断すんじゃねぇぞ?」


そう言うと海藤は、三嶋の手をとり立ち上がる。

そして三嶋と向き合う形で立つと、三嶋は軽く咳払いをして、


「では、海藤正樹。略式ではあるが…

お前を特務課隊長である私の権限で、特務課の一員として今ここで任命する」


海藤を見据えてそう言うと、まだ呆然としている高遠と八神の二人に向き直り、


「本部へは私から話を通しておく」


それだけ言って海藤から踵を返し、廃工場を出て行く三嶋。

後ろから撃つこともできたが、海藤はあえてそうしなかった。

この男は、単に強いだけではない。

知らずに人を引きつける魅力を持っているとでも言うのだろうか。

海藤は立ち去るその男の背中を見ながら、一息ついて肩をすくめると、


「ま、この男にだったら従ってもいいか」


と、誰にも聞こえない声で小さく呟いた。


Fin.

特務課に入隊するまでの海藤正樹の話。

実は彼、最初は正義なんかとは全く無縁のただの荒くれ者でした。

しかもとんでもなく強い厄介な不良ってところでしょうか。

BLNの退治に駆り出された高遠と八神では全く歯が立たず・・・。

ちなみにこの時点では反則的な能力を持つ天界武器はまだ所持していません。


隊長と海藤の戦いでは、リアルな銃撃戦を表現するために銃関係の資料を漁りまくりました。ファニングとかスピードローダーとかがその顕れです。

でもやっぱり海藤では隊長に勝てなかったとさ。

この一件以来、最初こそ噛み付いていた海藤でしたが、段々と隊長の強さを認めていきます。そして今となっては海藤は隊長に心酔していると。

隊長、底が知れない男です。


そんな感じで海藤は特務課に入隊。

ここから彼の第二の人生が始まったわけです。

ちなみに特務課のメンバーは、三嶋と藍沢以外全員三嶋が他所からスカウトしてきた者達です。それは、またの話ということで。

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