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-前編-

《時間軸》

【Break the Fate】

【Darkness Eagle】

【紅い雨が降る刻】

時は2004年。

この話は特務課が結成されてから約一年経ったある日の話である――



辺りが夕闇に染まろうとしている時のことだった。

突然、特務課に電話が鳴り響く。

それを数コールで取った特務課の隊長、三嶋啓二は電話越しでいくつか会話をした後に受話器を置いて、


「BLNが確認されたようだ

八神、高遠は今すぐ現場に向かえ」


三嶋が表情も変えずに素早く二人に対して指示を出す。


「って、隊長!俺達二人だけでですか?」


それに間髪いれず反論したのは金色の短髪に紫のバンダナを巻いた八神周明。


「BLNとの戦闘ということであれば、数は多いほうがいいのでは……」


そう呟くのは、銀色の髪を肩のあたりまで伸ばした高遠元。


「高遠、お前も知ってのとおり特務課はまだ人手不足だ。

私と藍沢は何かあったときのために待機していなければならない」


三嶋の言うことももっともだ。

現在特務課には、隊長、副長を含めて四人しかいない。

つまり多くに人員を割けることができない現状が付きまとう。

更に三嶋は続けて、


「それに、お前ら二人だけでも十分任務遂行可能な相手だ。

逆にこの程度の相手ごときに負けるものなら減給もやぶさかではない」


冗談なのか本気なのか、感情の入ってない声でそんなことを言う。


「……分かりました、すぐ向かいます」


ため息混じりにそう答えた八神に続いて高遠も席から立ち上がる。


「そうと決まれば善は急げです。場所はどこでしょうか?」


三嶋から現場を聞いた二人はすぐに装備を整え、特務課を飛び出していった。



二人が行き着いた場所は人気の無い廃工場。

既にその役目を終えた資材や機械が眠るように佇んでいる。

あたりに人がいないことを確認してから、八神は背中に担いでいたギターケースのようなものを開けて、中から軽機関銃【グロスフスMG42】を取り出す。

続いて高遠も短機関銃【HK MP5】を取り出し、ケースを適当に放り投げる。


「いるのは分かっています。出てきたらどうですか?」


目が全く見えない高遠だが、その代わりに気配を感知する能力だけは桁外れに高い。

どれだけ息を殺して隠れていても、高遠にかかれば簡単に見つかってしまうのだ。

と、そこで物陰から急に何かが飛び出してきたと思うと、いきなり高遠に向けて拳を振りかぶってきた。

その初撃を軽くかわした高遠だが、拳が当たったコンクリートの床は、クレーターのように陥没する。


「ふん、かわしたか……

どうやらただの無能な警官じゃないみたいだな」


見たところ20代後半ぐらいの男で、タンクトップから出ている筋骨隆々な両腕は、嫌でもその腕力の高さを思わせる。

どれだけ鍛えたらコンクリートをも破壊する拳撃になるというのか。

だが、その圧倒的な力を前にしても冷静に高遠は返す。


「大した馬鹿力のようですが、当たらなければ意味がありません。

あなたがBLN-0008(ゼロゼロゼロエイト)……エイムですね」


「だったらどうした、オレを逮捕するとでも言うつもりか?」


哄笑しながらバックステップを踏むエイム。

だが驚くべきはその跳躍力で、彼はなんと一度の跳躍で数メートル後方の資材に着地した。


「常人にはない跳躍力と馬鹿力…… 周明、油断は禁物ですよ」


「わーってるよ。ま、力勝負なら任せとけって」


そう言う八神は手に持っていた軽機関銃を放り投げて指を鳴らす。

高遠はそれを見てやれやれと肩をすくめると、


「相手が素手だからこちらも素手……というわけですか?

では、こいつの相手は貴方に任せるとして、私は後方支援に回りましょう」


そう言うと、高遠は短機関銃を持ってじりじりと後退する。

エイムはその間に素手になった八神に拳を振りかぶるが、それを右の掌で受ける八神。


「……ほう」


エイムは、自分の拳を受け止めることが出来たことについて感心したように呟く。

だが八神はただ受けただけではなく、拳を受け止めた手で相手を引き寄せて、空いてた左手でボディブローを入れる。

エイムはあっけなく吹っ飛ばされてなすがままに後ろにあった木箱に突っ込む。


「がはっ」


いきなりのことで何が起こったのか把握しきれないエイムは、ただ嗚咽を漏らすしかなかった。


「おいおい、まさかこの程度なのか?」


何事も無かったかのように右手をひらひらと振っている八神。

八神の振り回す得物、グロスフスMG42は10kgを超える重量を誇る。

そんな銃を片手で振り回すほどの怪力を持つ彼だからこそ、あえて素手での勝負を挑んだのだ。


「クッ、面白いじゃないか!」


腕で口の端から滴る血を強引にふき取ると、今度は跳躍力を活かした奇襲攻撃をとってくる。

資材から資材へ飛び移り、どこから攻撃を仕掛けてくるか読み取れない。

……が、そのために高遠は待機していた。


「周明、後方左上斜め45度に」


「オッケー!」


言われた場所にエイムはいた。

自分の場所が簡単に把握されたことに驚く間もなく今度は八神の渾身の右ストレートをその身に受けるエイム。ぼろ雑巾のように地面を転げまわった後に再び背後にあった木箱に激突した。


「力勝負でオレに勝てると思うんじゃねぇよ」


意識が朦朧としているエイムに近寄ってその胸倉を掴み起こす。


「さ、観念してお縄につきな」


そう言った時のことだった。

エイムの左胸に一発の銃弾が突き刺さる。

場所からして心臓、恐らく今の一撃で彼は絶命しただろう。


「元!?」


誰が撃ったのか分からず困惑する八神。


「いや、私ではありません!それにしても――」


八神が胸倉を掴んでいたことからエイムと八神の体はかなり近づいていた。

その中でエイムの心臓だけを狙うとしたら、八神の右後方から精密な射撃を要することとなる。

ということは撃ったのは狙撃手か――

高遠が思考しながら気配を探っていると、銃弾が発射されたと思われる場所から一人の気配を見つけた。


「周明、警戒レベルを最大に」


突如現れた男の威圧に押されて、高遠のコメカミを冷たい汗が流れる。


「誰だ、テメェは……」


八神は相手に気おされまいと必死に強気に振舞うも、やはり高遠と同じく嫌な汗をかいていた。


「そりゃあこっちの台詞だぜ、人の安眠を邪魔しやがって」


そういって姿を現した男は20代前半ぐらいで精悍な体つきをした青年だった。

手には硝煙を上げるコルト社製の拳銃【ダブルイーグル】が握られている。

狙撃銃だと思っていた高遠の読みは完全に外れたが、それよりも驚くべきは拳銃であれだけ精密な射撃をやってみせたことだ。

それに彼の撃った拳銃はクセが強く扱いが難しいとされるダブルイーグル。

高遠は新たなBLNの出現ではないかと予感するが、リストでは見たことのない顔だった。


「BLNでは――ない?」


不審に思う高遠に対して首を傾げる男。


「びーえるえぬ?なんだそりゃ?

オレは海藤、海藤正樹だ。そんな変な名前じゃねぇ」


海藤と名乗った男は気だるそうに銃口を八神に向ける。


「……で、昼寝の邪魔だから消えてくれ」


次の瞬間に容赦なく発砲。

咄嗟に反射神経をフルに使って身をひねり、銃弾をかわす八神。


「テメェ……!」


相手を睨みつけながら自分の得物を拾って構える。


「周明、彼は危険です。捕縛しますよ」


「言われなくとも!」


八神のグロスフスが火を噴く。

それを簡単にかわした海藤は横に転がりながら立て続けに二、三発の弾丸を撃つ。

確実にこちらの急所を狙ったその弾丸をギリギリでかわしながら、二人は負けじと応戦する。


「こいつ…… なんて正確な射撃をしやがるんだ!?」


相手の銃弾をかわしながら八神が悲鳴にも似た声で叫ぶ。


「しかしこちらは二人、たった一人に遅れを取るわけにはいきません」


八神に銃口が向いている隙をついて高遠は短機関銃を連射する。

海藤は、それを素早いサイドステップでかわしながら側にあった木箱の陰へと身を隠す。


「へぇ、やるじゃねぇか……」


木箱の陰でマガジンを交換する海藤は思わずそう呟いた。

どうやらただのギャングではないらしい。

となると一体彼らは何者なのか――

だが海藤にとってそんなことはどうでも良かった。

彼にとっては血沸き肉踊るような戦場があればそれだけでいいのだ。


「さあ、最後まで楽しもうぜ!」


木箱の陰から出てきてすぐさま発砲。


「純粋に戦いを楽しんでいる……?

BLNではないとしても危険な存在ですね」


弾丸の雨をかいくぐって海藤に接近する高遠。

短機関銃を構え近距離で発砲しようとするが、


「甘ぇよ」


マガジンをとんでもないスピードで再装填した海藤は、高遠の足元に向けて一発の弾丸を放つ。

と、同時に着弾した場所から爆発が起こる。


「なっ――」


海藤が装填したのは着弾した場所に爆発を起こす炸裂弾だった。

いきなりの炸裂弾に戸惑うと同時に爆風で体が揺さぶられ、高遠の体勢が崩れる。

その時、立ち上る煙の中から弾丸が飛んできたが、元々目の見えない高遠にとっては無意味な奇襲。

首を傾けてかわすと同時に銃声のしたほうに短機関銃を向ける。

……が、立て続けに放たれた海藤の蹴りが高遠の鳩尾に命中した。


「かはっ!」


後方へと蹴り飛ばされる高遠。


「てんめぇ!」


煙幕の向こうの相手に軽機関銃を乱射する八神だが、


「どこ見て撃ってんだよ」


いつの間にか八神の後ろに回りこんでいた海藤は、拳銃の撃鉄を思い切り八神の後頭部に振り下ろす。

激痛が走る後頭部を押さえて振り向くと、その眉間に拳銃の銃口が充てられる。


「結構楽しめたぜ、あばよ」


拳銃のトリガーを引こうとしたその時、突然サイレンの音が鳴り響く。


「……サツが来たか」


焦る様子も無く、つまらなそうにそう呟いた海藤は、八神の眉間から銃口を外してそのまま闇に消えていった。


「高遠、八神、無事か!」


そのすぐ後で、工場内に特務課隊長である三嶋啓二の声が響きわたる。

三嶋は副長の藍沢怜を同行して、意識が混濁している二人に駆け寄る。


「……隊長」


朦朧としてきた意識の中で、今起こったことを必死に語ろうとする八神だが、それを三嶋は片手で制する。


「どうやら、軽い脳震盪を起こしているようだ。

怜、彼らをパトカーに。

詳しい話は署に戻ってからにしよう」


三嶋の提案に藍沢は無言で首を縦に振ると、二人を自分たちが乗ってきたパトカーへと誘導した。

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