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追いかける
私は立ち止まった。
右手の感触から、戸惑いが解る。
けれど、だめなのだ。
あの子は、あの時、私は追いかけなかったから、だからだめだったのだ。
手を振り払い、私はあの子ところに向かう。
数メートル走ると、入道雲が見えた。
甲高い蝉の鳴き声。
湿度を含んだ蒸し暑い空気。
整備のされていないデコボコ道。
土の色が感触を思い出し、空の青さがあの子の顔を思い出させる。
肌に当たる風が呼吸を再開させ、近づいてくるあの子の後ろ姿が鮮明になっていく。
名前を叫ぶ。
あの子は振り返らない。
名前を叫ぶ。
あの子は振り返らない。
私は何度も名前を叫びながら、あの子の背を追いかけ続けた。
(エンド:遠い記憶)