手を取る
希望に見えた。
手以外何も見えないその存在は、普段なら畏怖となる対象のはずなのに、なぜか今この時、私には救いの糸に見える。
「……誰?」
返事がないと解っていながらも、私は問いかけてしまう。
返事を聞きたいのではなく、返事を期待する自分を確認しているようだった。
予想通り返事はなく、私が手を取ると解っているかのように、ただただ手を差し伸べ待ち続けていた。
躊躇は一瞬、私は恐る恐る手を伸ばし、掴む。
差し伸べられた手は私が手を掴むのを確認すると、ゆっくり、優しく手を包むように握り返してきた。
そのまま、優しくはあるけれど、誘導するように私を引っ張る。
街灯が照らす明かりから外に出る。
一寸先も見えない不安があったけれど、右手に感じる暖かい感触が私の足を動かしていた。
一歩一歩、確認しながら歩いていく。
さくさくと葉を踏みしめる音を響かせながら歩いていると、視界の端に人影が見えた。
その人影を私は知っている。
中学の頃、友達だった彼女の姿だ。
記憶に残る面影と一致したその人影は、私を呼んでいるように見えた。
あれは入道雲が空を覆った夏の日、彼女は私を置いて駆けていく。
そんなことするはずないと、信じていた自分がいたのに驚いたのと、そんなことをするなんてと、悲しんだ自分がいたのを思い出した。彼女の姿が段々とおぼろげになっていく。
焦っている自分がいる。
今すぐ駆けつけて、追いかけなくてはと思えてくる。
(選択肢)
・追いかける
・追いかけない