手
一人きりの夜は人恋しい。
街灯が煌々と照らす夜の街を歩いていると、誰もいない道に不安を覚える。
世界で私一人になってしまったような、不幸ともいえない眩暈のような錯覚。
鳴らない携帯。
着信の機能を果たせず、ただ時計の代わりに成り果てた悲しい物。
雑木林の奥に見えない闇の中から、必要ないと誘われているようだった。
繋ぐことのない両手。
一人でしか叶うことのない夢を思いながら、足音だけを響かせ歩いている。
半月前までは、朝陽を迎えるまで語り合った人がいた。
一緒にいるだけで暖かくて、横にいるだけで安心する人。
迷子のように叫んでも、もう届かない私の声。
足跡だけが思い出に残り、いつの間にか減っていく跡に、何度も繋ぎ止めたいと願った想い。
何も考えずに歩いて行ける幸せを、いつの間にか忘れてしまった。
糸の切れた携帯を取り出して時間を確認する。時刻は23時過ぎ。
意味のない確認をして、携帯から顔をあげるとそこには手が見えた。
誰の手か解らない。
人の手かどうかさえ解らない。
闇の中、街灯の外から差し伸べられた手。
まるで地獄に垂れる一本の拙い蜘蛛の糸のようなそれは、ひどく胸が苦しくなった。
(選択肢)
・手を取る
・無視する




