0 序章
堕天使の口笛
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――これは、記憶を変えられた天使のお話。
何も知らない天使は、綺麗な綺麗な涙を流しました――
物語の始まる音。
それは、窓ガラスが割れるという奇妙極まりない音だった。
ファンタジックな現実を受け入れることが出来ないまま、彼女と長い時間を共にする彼。
ファンタジックな現実を受け入れてもらえないまま、彼と長い時間を共にする彼女。
同じような性格、違う世界の者。
それゆえに生まれるたくさんのすれ違い。
それを超えた時に果たして幸せは訪れるのだろうか?
地上と天界、出会うはずの無い二人が出会ったのは運命か、はたまた神の悪戯か。
どちらにしろ、それが最悪の結末を迎えてしまったことに変わりは無い。
「天使とは愚かな生き物です……」
それは雪に消えた最後の呟き。
誰にも届かなかった、小さな悲鳴。
涙も何も残っていない、信じることも出来なくなった。
天使として存在するべきではなかった、という後悔の念が世界を包む。
一緒にいたいと願っただけなのに……
こんな小さな望みさえ叶わない世界に、何を信じることが出来る?
心に残る現実も、確かではない。
この記憶は、私のものではないのだから。
私はもう仲間を信じることを忘れました。
ただ、自分の記憶に残る貴方を待ち続けていました。
たとえそれが「偽造」された記憶だとしても……。
貴方の紡いだ優しい言葉は、全て憎しみという名の風に消えました。
穢れた私の心に響くのは、哀しい復讐の旋律だけでした。
私達が存在していた日々。
それはもとに戻らないから、美しかったのかもしれません……。
――天使の記憶は、復讐という名の黒き花となり宙を舞っていきました――