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蝋人形の涙

作者: 志虹

「慧っさーとーしっ」

誰だ?うるさいな・・・。

「さーとーしぃーっ!」

「っだーっうるさいなぁ!」

勢いよく起き上がると、友達の健悟がにっと笑って俺の顔を覗き込んでいた。

「いつまで昼寝してんだよっ」

「んー・・・眩しい・・・っ」

大きく伸びをして空を見上げた。六月の太陽は雲で隠れている事が多いけど、今日は珍しく顔を出して紫陽花の花を照らしている。

「なぁなぁ慧っ野球しよーぜ野球っ」

野球?そういえばこの頃やっていないな。

「・・・チームは?」

「ここ公園だろ?そこら辺からチビッ子集めればオッケーじゃんっ」

テキトー人間ここに現る。お前本当に高一か?

「っていうか何で健悟俺がここにいるって知ってんだ?」

広くて快適に過ごせるここ南公園は休みの日によくベンチで昼寝をする。

「慧のかーちゃんから聞いた」

成程。

「さー慧!野球すっぞ!」

「え、ちょっ」

健悟に引っ張られながらもう一度空を見た。太陽はくすんだ蝋の様な雲に隠れてしまっていた。

―――――――俺はこの蝋の様な雲を見る度に、彼女の事を思い出す。

そう、雫の事を・・・。



 * * *



中学三年になってから早二ヶ月。そろそろ最上級生という感覚にも慣れてきた。

「ふぁ・・・」

梅雨のじめじめとした感じ、好きじゃない。気分までじめじめしてくる。

「はい、帰りの会を終わります。・・・さよならーっ」

担任の声で皆口々に挨拶をして教室を出ていく。

「おい新田、早く帰るんだぞー」

「はーい」

担任が教室を出て行って、俺一人になった。

ふと窓の外を見る。窓側の席だから外がよく見える。青々とした葉をつけた桜の木、青い空を覆い尽くすねずみ色の空・・・。

「・・・ん?」

ポプラの木の影に人影が見える。あれは・・・セーラー服?でもうちの学校の制服とは違う、スカートと襟が深緑でスカーフが赤。

「誰だ・・・?」

視力は両目ともAだけど外が曇っているから暗くて顔がよく見えない。特徴的なのは肌の色が白いのと太ももまで伸びている長い黒髪。

「おーい慧?]

声に驚いて振り返ると健悟が立っていた。

「なんだ健悟か・・・」

「なんだって何だよ。一緒帰ろーぜっ」

「あ、うん」

そう言いながら横目で窓の外を見た。だけどもうそこに彼女の姿はなかった。

「え?スカートと襟が深緑で赤スカーフの中学?」

「うんそう」

帰り道にそう尋ねると、健悟は首をかしげた。

「知らないなー・・・。大体近くの中学の制服って紺とかしか制服の色ないだろ」

・・・確かに。じゃああの人は一体誰なんだ?

「で、どーしてそんな事聞くんだ?」

「え、ああ・・・別に」

「ふーん・・・」

健悟はチラ、と俺の方を見ただけでその後は何も聞いてこなかった。さっぱりしていて深くは追及しない。そこが健悟のいい所の一つだ。



 * * *



「・・・あれ、」

次の日の放課後、またあの木の下に彼女がいた。前に見た時と同じでセーラー服だ。

長くて綺麗な黒髪は風に揺れて、彼女の顔を隠している。

――――――別に気にしなかったらいいまでなんだけど・・・。

今日は昨日より天気がいい。もしかしたら、顔が見えるかもしれない。

そう思った時、強い風が吹いた。

「・・・っ!」

黒髪がなびいて、彼女の顔が見えた。

――――――綺麗だ。

大きな黒い瞳と桜色の小さな口が白い肌の上ではっきりと見える。心臓を脈打つ鼓動が早く、そして高まる。もしかすると、一目惚れってこんな感じなのかもしれない・・・。

そんな事を考えていたら、また彼女はいなくなっていた。

もうすぐ雨が降りそうだ。早く帰ろう・・・。

下駄箱から靴を取ろうとした時、雨が降り始めた。

「げ。傘持ってきてないし」

もう少し早く帰ればよかった・・・。仕方ないから鞄を頭にのせて、走りながら帰る事にした。

「・・・はっくしゅッ」

雨は段々激しくなり始めた。通行人は減り、目の前の道は降り注ぐ雨のせいでよく見えない。

「明日風邪ひくかもなー」

そんな言葉が口から漏れる。前を見ると少し霞んだ赤色の光。赤信号だ。自然と横断歩道の前で足が止まった。

その時だった。

あのセーラー服が俺の横をかすめた。

「・・・あ・・・」

長い黒髪は雨に濡れていた・・・彼女だ。彼女は平然とした様子で横断歩道を渡っていく。

「―――――ッ!」

彼女の左側にトラックが迫ってきている。大型トラック・・・衝突すれば確実とまではいかないが高い確率で待ち受けているのは・・・死。

「危ない・・・ッ!!」

激しいブレーキ音と雨の音。全てのものがスローモーションに見えた。

「おッおいッ!大丈夫かッ?!」

トラックの運転手の叫び声で我に返った。腕の中にいるのは、黒髪の彼女。

「っはー・・・」

無事だった。彼女は、そして俺も生きている。

「あ、ゴメン・・・」

そっと腕をほどいた。彼女が俺の方に向きなおす。白い肌は更に白く、黒い瞳は光を失っている。

「ど・・・うし・・・て・・・?」

「え・・・?」

彼女は俺の目を見つめてもう一度青ざめた唇を動かした。

「どうして・・・助けたの・・・?」

ドウシテタスケタ・・・?

「どうしてって・・・」

通行人が口々に何かを言いながら通り過ぎて行く。トラックの運転手も、何かを言ってトラックに乗り込んだ。

「私は・・・あのまま壊れたかった・・・」

「え・・・?」

彼女は肩を震わせて息を吐いた。

「あのまま粉々に砕けて、消え去りたかった・・・」

「どうして・・・そんな事を・・・」

どうしてそんな事を言うんだ・・・。

「ねえ・・・どうして?どうして助けたの・・・っ?」

どうして助けたのか・・・。あの時、風に吹かれていた彼女が光を失った瞳で聞く。

そんな事・・・

「そんな事決まってる・・・」

六月の空気を吸い込んだ。

「好きだからだよ・・・」

あの時、やっぱり彼女を好きになったんだ。だから夢中でトラックの迫る横断歩道に飛び出した・・・。

「え・・・?」

大きな黒い瞳が更に大きくなった。

「学校のポプラの木の下にいただろう?」

静かに彼女は頷いた。

「風に吹かれてる君が・・・すごく、綺麗だったから」

・・・言ってしまった。頭の中真っ白だ。

「・・・とう・・・」

彼女の唇が微かに動く。

「ありが・・・とう」

初めて見た、彼女の笑顔・・・。

「私が・・・涙を流せたらいいのにな」

「え?」

彼女はアスファルトに手をついて、ゆっくりと立ち上がる。

「そうしたら・・・嬉し泣きができるのに」

そして、彼女の口からとんでもない言葉が飛び出した。

「私、蝋人形なの」

・・・・・・え。

「ロ、ロウ・・・ニンギョ・・・ウ?」

驚きで声がおかしくなった。

まさか・・・彼女が蝋人形?ふと、彼女の言った言葉を思い出す。

『あのまま粉々に砕けて、消え去りたかった・・・』

粉々に砕ける・・・。

もし本当に彼女が蝋人形だったら、この言葉の表現も間違ってなんかない。本当に、砕けて消え去ろうとしていたんだ。

「本当に君は、蝋人形なのか・・・?」

俺の問いに、彼女は答えた。

「私は雫。世の中に要らなくなった、蝋人形・・・。でも・・・」

気づくと雨は止んでいた。雲の切れ間から太陽がのぞく。日の光に照らされて、彼女は言葉を続けた。

「あなたが、助けてくれた。私の存在価値はあなたの中にある」

「俺の・・・中」

キラキラ光る瞳を見ると、改めて助けてよかったと思える。彼女を見つめ、立ち上がる。

「俺は慧、新田慧。よろしく・・・雫」

差し出した手を雫は両手でしっかりと包み込んだ。

「よろしく、サトシ」

冷たい手なのに温かい。言葉としては矛盾しているかもしれないけど、確かにそう感じた。



 * * *



「え!?家ないの?」

家まで送ろうと歩いていたのに。何の為に歩いていたのか・・・。

「私はね、ある老夫婦に作ってもらったの―――――――」

そう言って雫は話し始めた。



 * * *



私ははじめ、何の役にも立たないただの蝋の塊だった。でもね、おじいさんが私を溶かしてヒトの形にしてくれたの。

『お前は雫。今日から儂とばあさんの娘だよ』

おじいさんはそう言って私の頭を撫でた。二人は、動かないし喋らないし、生きてもいない私にとても優しくしてくれた・・・。

『おはよう雫』

『ほらご覧雫、空がとても綺麗よ』

『雫、ばあさんがお前に制服作ってくれたぞ』

『とっても似合ってるわ』

・・・すごく、幸せだった。二人ともとても優しくて温かくて・・・。

二人にずっと、ありがとうって言いたかった。こんなに優しくしてくれて、蝋の塊だった私をヒトの形にしてくれて。

ありがとう・・・って。

言いたかったのに―――――――。

おじいさんが死んだ。心臓病を患っていて、突然。悲しかった。悲しくて、悲しくて・・・でも、涙は流せなかった。

おばあさんは、おじいさんが亡くなってから病気がちになった。いつも咳をしていて、苦しそうだった。私が蝋人形じゃなかったら、自由に動く事が出来たらっていつも思ってた。

そうしたらおばあさんの役に立てるのに・・・。

そして、おばあさんは老人ホームに連れて行かれた。二人の家は静かになった。家は、売りに出された。おじいさんとおばあさんとの思い出の空間はなくなってしまった。

私は、ごみ捨て場に捨てられた。

その時になってようやく・・・私は動けるようになった。

本物のヒトみたいに、喋れるし呼吸もしていた。でも、あんなにも望んでいた動けるようになる事が今の私には絶望だった。

なぜ・・・もっと早く・・・。

もっと早く動けるようになっていたら、二人にありがとうって言えたのに。おばあさんだって、遠い知らない場所へ連れて行かれなかったのに――――――・・・。

行くあてがなくて、近くの学校の木の下でいつも思ってた。

私はもう要らない存在なんだって。

悲しくても、ヒトの様に泣く事が出来ない。涙を流す事が出来ない・・・。

そして私は消え去りたくて、横断歩道を渡った。



「そうしたら、サトシ。あなたが私を助けた。なんで助けたりしたのか、初めはそう思ってた」

少し悲しみが混じった笑顔で、雫が言った。

雫はあの時ポプラの木の下でそんな事を思っていたなんて・・・。知らなかった。知る由も・・・なかった。

「でも私の事を想ってくれている人が、二人の他にいてくれた事が・・・とても、嬉しかった。ここに、まだいようって思う事ができた」

「雫・・・」

俺が雫に・・・出来る事は何なのか・・・。雫に、してやれる事・・・

それは―――――――――――――

「・・・会いに行こう」

「え・・・?」

「雫、おばあさんに会いにいこう」

それが俺に出来る事の全て。雫の為にしてあげられる事の、全てだ。

「本・・・当に?」

「うん」

「場所は、解るの?」

「解らない・・・でも、必ず見つけ出す。約束する」

雫は頷いて言った。

「明日、ポプラの木の下に迎えに来てね・・・」

「迎えに行くよ・・・待ってて」



 * * *




「ただいまー」

玄関のドアを開けて、びしょ濡れの靴を脱ぎ捨てる。

「おかえり慧。まあ、びしょ濡れじゃない早くお風呂入りなさい」

母さんに促されて、風呂場に向かった。

「ふう・・・」

湯船に浸かると、じわじわと体が温まっていった。

風呂場から出て、自分の部屋に向かう。部屋に入ると、急に眠気が襲ってきた。

ゆっくりと深い夢の中へ沈み込んでいく中で、最後に頭の中にいたのは雫だった。雫の、ヒトの様に柔らかな笑顔だった。



 * * *



次の日、俺は朝の四時に家を出た。

歩いて学校に向かう途中、ふと昨日見た夢を思い出す。

雫が俺の腕をすり抜けて、どんどん遠くに行ってしまう夢だった。追いかけても・・・追いつけなかった。そして一番不思議だったのは、雫の瞳から涙が流れていた事だ―――――――――

「雫」

ポプラの木の後ろで、黒髪が動く。今日は学校が休みだから、他にヒトはいない。

「サトシっ」

振り向いた雫は嬉しそうに微笑んだ。

「さあ、おばあさんに会いに行こう」

「うん・・・っ」

「この町にある老人ホームは・・・」

一つ、二つ・・・五つ。この町の老人ホームは五つか。この中に雫のおばあさんがいるといいけど・・・。

「まずはー・・・たんぽぽ荘って所だな」

「たんぽぽ・・・」

雫が呟く。

「どうかした?雫」

「たんぽぽの花言葉・・・おばあさんに教えてもらったの。花言葉は・・・真心の愛っていうの」

真心の愛・・・か。

「サトシ、春になったら見ようねたんぽぽ」

小さく微笑んで雫が言った。

「うん、見よう」



 * * *



「え?おばあさんを探してるの?こんな朝早くから大変ねぇ」

たんぽぽ荘のヘルパーさんが言う。

「はい、入居者の人を確認して頂けませんか?」

「ええ、いいわよ。その方の名前を教えてくれるかしら」

「雫、おばあさんの名前分かる?」

「佐倉・・・絹子」

雫が答えた。

「佐倉絹子さんね、ちょっと待ってねー・・・」

一つのファイルを取り出してめくり始めた。

「うーん・・・。ここにはいないわ、ごめんなさね」

「そうですか・・・ありがとうございました」


その後の老人ホームも答えは同じだった。

「この町にはいないか・・・」

「サトシ・・・」

不安げに雫が俺の顔を見る。

「約束しただろう雫、必ず見つけ出すって」

「約束・・・」

その言葉を確かめるようにゆっくりと呟く。

「あれ・・・?」

地図を持っている指がずれて、隠れていた地図の端の部分が現れた。

――――――――あったんだ、もうひとつ。

「町の一番端の、山のふもと・・・」

「山のふもと?」

「老人ホームだよ・・・この町の老人ホームは六つあったんだ。最後の一つは―――――」

その老人ホームの名前を読もうとして、俺は口をつぐんだ。

・・・こんな偶然・・・。

「最後の一つの名前は、シズク・・・」

「シ・・・ズク・・・?」

雫と同じ名前の老人ホーム・・・。

「行こう」

俺の差し出した手を、雫はそっと握った。

「うん・・・!」



 * * *



「ああ、佐倉絹子さんね。十五号室よ」

「はい・・・」

廊下を歩くスリッパの音だけが耳に響く。繋いだ手からは前は感じられなかった温かさが伝わる。

雫が、ヒトに近づいてる―――――――。

「佐倉さーん、お客さんですよ」

昼の日の光が満ちる部屋のベッドにその人はいた。優しい眼差しの、綺麗な白髪を結ったおばあさん。

・・・雫の、おばあさんだ。

「ほら・・・雫」

立ちすくんでいる雫を部屋の中へと促す。

「では、ごゆっくり」

ヘルパーさんがドアを閉めた。

「おばあ・・・さん」

雫の声におばあさんの視線が雫の方へ向く。そして、目を見開いた。

「しっ、雫・・・?あなた、雫なのッ?」

おばあさんの問いに、雫は震える声で答えた。

「そうだよ・・・私、雫だよ・・・っ」

「雫――――――――・・・っ」

おばあさんが雫の方へと両手をのばす。

「おばあさん・・・っ!」

ベッドの横に膝をついて、おばあさんに抱きつく雫の姿・・・それは紛れもなくヒトだった。

「あのね・・・あのねおばあさんっ私、ずっと・・・二人にありがとうって言いたかったの・・・っ私を二人の娘にしてくれて・・・優しくしてくれて・・・っずっと、ずっと・・・!」

雫の発する言葉の一つ一つにおばあさんは涙を流して頷いていた。

「ありがとう・・・っおばあさん、おじいさん・・・!!」

その時、俺は見た。雫の頬に流れるシズクを・・・。

夢で見た、雫の涙を・・・。



 * * *



「・・・ありがとうサトシ」

老人ホームシズクからの帰り道、雫が言った。

「え?」

河川敷を歩いていた俺は足を止める。風が吹いた。

「私の事、助けてくれて。私をおばあさんと会わせてくれて・・・。私の事を・・・好きだって言ってくれて」

振り返った雫は、初めて見た時よりも・・・ずっと、ずっと綺麗だった。

「・・・っ」

「雫・・・っ!?」

突然雫がよろめいた。

「大丈夫か?雫ッ?!」

「神様は意地悪だよ。動きたかった時には動かせてくれないし・・・消えたくなくなった時に、消そうとするんだから・・・」

「・・・ッ?!」

雫の手が・・・透明に・・・。

「蝋人形がヒトに成ろうとしてはいけないの・・・。蝋人形は、人形。それ以上の存在には成れないんだよ」

「どういう事だよ・・・雫っ?」

雫が・・・消える・・・?

「私はヒトに近づきすぎた・・・。ヒトに成ろうと、たくさんのものを取り込み過ぎたの。肌のぬくもり、そして涙・・・」

「雫・・・雫ッ」

「もう・・・ヒトには成れないし、蝋人形にも戻れないの・・・。だから、私の存在自体が・・・っ消える――――」

そう言った雫の体は、もう支えているか分からない程軽くなっていた。

「雫は・・・紛れもなくヒトだよ・・・。雫は蝋人形以上の存在に成れてた・・・っ」

頼むから・・・神様、雫を消さないでくれよ・・・。

「サトシ・・・、」

「ん?」

掠れた声で俺は応えた。

「私、幸せだったよ今日一日・・・ううん、サトシと出会えて。幸せだった・・・」

「消えないでくれよ・・・雫・・・ッ」

すると雫は俺の頬に手を当てた。

「泣かないで・・・サトシ」

いつの間にか両目からは涙が流れていた。

「ゴメン・・・っ」

でも、拭っても拭っても止まらないんだ。

俺の涙が零れ落ちて、雫の頬に当たる。 まるで、雫が泣いているみたいだ――――――――――――。

「サトシの涙が・・・私の涙みたいだね」

雫の瞳から、ビー玉みたいな涙の粒が零れた。

「雫・・・涙が・・・」

俺の言葉に、雫は俺にたんぽぽの花言葉を教えた時のように微笑んだ。そしてその涙の粒を指ですくって、俺の目の下に当てた。

「ありがとうサトシ・・・私の事を・・・見つけてくれて」

「雫・・・。ありがとうはこっちのセリフだよ・・・雫のおかげで心がすごく温かくなった・・・」

「サトシも泣かないで・・・笑って?」

雫が眩しくて、儚い笑顔で言う。

「うん・・・うん・・・!」

俺は涙を拭って笑った。

「さよならサトシ・・・私もサトシの事大好きだよっずっと・・・ずっと!」

「雫・・・!!」

雫は俺の腕をすり抜けて、遠い空の向こうへと・・・消えた。

「ありがとう・・・雫」

誰もいない河川敷で、俺は一人空を見上げて呟いた。



 * * *



「おーい慧ー!!打つぞバッターっ」

「え?あっうん!」

俺はふと、また空を見上げた。

「・・・ごめん健悟、俺用事思い出したっ」

「ええっ?・・・しょうがねーなぁ~っ」

グローブをパシンとならして健悟が笑う。

「行ってこいよ!」

「うん・・・!」

俺は走った。走って、走って、あの河川敷に辿り着いた。今日も河川敷には誰もいない。

「雫・・・俺、ここに来るのが怖かったんだ。雫がいないって再確認させられる気がして・・・」

そう呟いて、ゆっくりと座る。

「雫・・・」

一年前に俺の前に現れて、二日で消えてしまった蝋人形の雫・・・。涙を流す事が出来た・・・ヒトに成りたかった・・・蝋人形。

その時風が吹いた。雫の笑顔の様な柔らかくて優しい風・・・。

「・・・あ・・・」

六月に咲かないはずの花が、俺のすぐ横にあった。

「たんぽぽ・・・」

風に吹かれるたんぽぽはまるで雫みたいだ。花びらに、シズクが一粒ついている。

「・・・雫」

すぐ傍で、雫が笑ったような気がした。

――――――――サトシ、見れたねたんぽぽ・・・っ

今度、雫のおばあさんの所を訪ねに行こう。確か・・・思い出の家に戻ったって聞いた。

俺はゆっくりと立ち上がる。

そしてまた、六月の空を見上げた。





いや~、はい。

蝋人形の雫とヒトの慧のお話でした。

まぁ、どこかでたんぽぽを見つけたら、雫の事を思い出してやって下さいな*

ちなみにこの小説は一回手書きで書いたもののリメイク版です(´ω`〇)内容はほぼ同じですね、はい。

では、また逢う日まで*

ハルを頑張って書いちゃいますっΦ(´Å`†)

あんまし短編でもないですかね・・・

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