別れの3月9日
誰もが1度はこの時期に経験する物、それは別れだ。
仲の良かった友人との別れ、後輩との別れ、
同期との別れ、色んな別れが存在している。
彼もその別れを今日してきた1人だ。
彼の名は、春太一。
まだ暖かくなる前の肌寒い春先、今日をもって高校の卒業を迎えた人物だ。
春は自転車通学を3年間してきた。
今日で、その自転車通学も終わる。
その最後の帰り道に、思いつきで土手に寄り道をしに行く事にした。
(たまには無駄な道に逸れるのも大事だよな)
土手までの道のりは、見慣れた景色から中には見慣れない景色まで様々だ。
その景色を横目に少しずつ土手へとペダルを踏んだ。
そして土手に着くと、暖かく強い南の風が春を押し返さんとばかりの勢いで吹いてきた。
その風を受けて、春は得意げに一言。
「これこそ、春一番だな」
これは高校での鉄板ネタだ。
周りからはこれをきっかけに『はるいち』というあだ名を付けられて3年間過ごした。
春はその3年間を思い返しながら自転車を押して土手を歩いていた。
(色々、ばかやりながらも楽しかったなぁ。)
しばらく春が歩くとその先に、1匹の猫が現れた。
無類の猫嫌いだから近寄らなかった。
「しっ、しっ」
すると猫は、これでもかっと言わんばかりに近寄ってきた。
首元をよく見ると、赤いリボンが巻かれていて飼い猫なんだと理解した春は、気づいたら自転車を止めて立ち止まった。
「……ンニャー」
まるで、『初めまして』と挨拶されてる気分になった春は人間と会話するように返した。
「……はじ、めまして」
「ンニャッ!」
どこか喜んだ様子で、立ち止まっている彼の足元にいった。
するとズボンに爪を引っ掛けてよじ登ってきた。
春は抵抗できずに、ただ棒立ちのまま気付いたら足、背中、頭までその猫によじ登られていた。
「ちょっ、なんで登ってくんだよ」
「ニャ〜」
頭にいた猫はどこか満足そうな声色だった。
その瞬間、春はこの猫のことが可愛く思えてしまって猫嫌いだったことを忘れていた。
「……家、来るか?」
「ニャッ? ニャ〜」
『当たり前だろ』と言わんばかりに頭の上で鳴かれて思わず春は笑った。
「お前、面白いなっ。なんかサンキュー」
そう言うと春は、猫を頭に乗せながら自転車を押して歩きだす。
その姿は、別れの日であった3月9日を出会いの日として迎え入れた様子だった。




