第7話 牽制の先にあるもの
少年は、深くため息をついた。
(なんで俺が、こんな奴の師匠なんだ……)
目の前に立つレイアは、小柄で、きゃしゃな身体つき。
構えは甘く、立ち姿からも隙が見える。
(油断だらけ)
(サッカーやってるらしいけど……才能あるようには見えない)
少年は視線を逸らし、短く告げた。
「俺はロウガだ」
「一応、お前の師匠ってことになってる」
少し間を置き、続ける。
「ここで生き残りたいなら」
「しっかり学べ。途中で投げ出すなよ」
レイアは何も言わず、ただうなずいた。
それから数週間後。
荒れたグラウンドを、二人は並んで疾走していた。
ロウガは余裕のあるフォームでボールを操り、レイアは必死に食らいつく。
「追いついてくるようにはなったね」
ロウガは横目で言う。
「でも――それだけじゃ足りない」
次の瞬間。
レイアが、ロウガの腕を掴んだ。
「っ……!」
鋭い痛み。
ロウガは即座に察する。
(指輪に仕込んだ刃物か……)
(しかも毒まで塗ってある)
だが、表情は崩さない。
「だけど、甘いよ」
ロウガは一気に加速する。
「毒で動きが少し鈍ってもさ」
「根本のスピードまでは止められない」
距離が開く。
「このままゴールだ」
――そう思った瞬間。
「っ!?」
足元が乱れ、体勢が崩れる。
「しまった……!」
視線を落とすと、自分の影に一本の細い針が突き刺さっていた。
(影を縫った……?)
わずかな停止。
その一瞬で、レイアがボールを奪う。
ロウガはすぐさま追いかける。
「はっ……速い!」
数週間前とは別人のような加速。
次の瞬間、レイアが地面に粉を撒いた。
「な――」
火花。
粉に火がつき、炎が一気に広がる。
「待てっ、やり過ぎだ!」
炎に包まれながら、ロウガは叫ぶ。
だが、炎の隙間から――
複数の毒針が飛んできた。
「っ!」
ロウガは必死に防御に専念する。
攻撃ではなく、生き残るための動き。
その間に、レイアはもうゴール前。
振り抜かれた一撃が、ネットを揺らした。
――ゴール。
炎が消え、静寂が戻る。
ロウガは、息を整えながらレイアを見つめる。
(暗器は、あくまで牽制……)
(本命は、判断力とスピード)
そして、心の中で続ける。
(だが……)
(あいつの暗器は、“ただの反則”じゃない)
ロウガは、ゆっくりと口元を歪めた。
「……厄介なやつを拾ったな、アル」
暗黒サッカーは、確実に“戦術”へと進化し始めていた。




