第6話 暗器の世界へ
その日の夜。
レイアはアルに連れられ、王国の表通りから外れていった。
人通りが消え、灯りが減り、空気が一気に重くなる。
「……ここ、治安悪すぎない?」
返事はない。
辿り着いたのは、暗黒街と呼ぶにふさわしい場所だった。
さびれた景色。
歪んだ建物。
舗装すらされていない道。
そして、中央には——
ぼろぼろのサッカーコート。
コートの端に立つ、異様な存在が目に入る。
しわだらけの老人が、こちらを見て不気味に笑っていた。
「……アル」
老人の声は、やけに通る。
「そのお嬢さんかい?」
「暗器使いになりたいってのは?」
アルは周囲を警戒しながら、短く答えた。
「そうだ」
老人は肩をすくめる。
「警戒するな、アル」
「今日は俺一人だ」
視線が、レイアに向けられる。
「それにしても……」
「令嬢が暗器とはねぇ」
含み笑い。
「そのひらひらした服」
「暗器を隠すには、ずいぶん便利そうだ」
レイアは思わずドレスを見下ろした。
(いや、そういう使い方する服じゃないだろ……)
老人は踵を返す。
「ついてきな」
案内された奥の建物は、外観以上に薄暗かった。
壁には、小さな武器のようなものが無数に掛けられている。
短剣。
針。
細い棒。
用途不明の金属片。
「……ここ、完全にアウトな場所じゃん」
そのとき。
正面から、坊主頭の少年が歩み寄ってきた。
年は、アルと同じくらい。
表情は軽いが、目だけが笑っていない。
「やあ」
「いらっしゃい」
少年は両手を広げた。
「暗器の世界へ、ようこそ」
——次の瞬間。
「っ……!」
みぞおちに、鋭い衝撃。
「うぇ……」
息が詰まり、視界が揺れる。
レイアは腹を押さえ、その場に崩れ落ちた。
「ぐ……っ」
坊主頭の少年の右手には、
いつの間にか短い鉄の棒が握られていた。
少年は何事もなかったように、その棒を袖の中へしまう。
「おい!」
アルが声を荒げる。
「いきなりすぎるだろ!」
少年は首を傾げた。
「そうかな?」
「体で覚えてもらったほうが、早いと思ってさ」
床にうずくまりながら、レイアは上目遣いで睨みつける。
「……くそっ」
「汚いぞ……」
少年は、あっさりと言い返した。
「何言ってんの?」
「そういう世界に来たんでしょ?」
その言葉が、胸に刺さる。
「そんな...世界...」
ここは、正々堂々とは無縁の場所。
ルールも、フェアプレーも存在しない。
——暗黒サッカーの、入り口。
レイアは腹を押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。
(……上等だ)
(汚い世界なら)
(こっちも、汚く生きてやる)
そうして、
レイアの暗器使いとしての夜が始まった。




