第20話 遠征
空き地の中央で、レイアはボールを蹴っていた。
派手な技はない。
ドリブル、トラップ、パスの確認。
ただ、それだけ。
少し離れた岩陰から、アルがその様子を見ていた。
無言。
そこへ、重たい足音。
立派な外套を羽織った、貴族然とした髭の男が現れる。
「そろそろだな」
アルは振り向かない。
「待ってくれ。早すぎる」
「こちらの準備が整っていない」
男は肩をすくめる。
「急いで整えればいい」
アルの声が低くなる。
「敵の戦力がどの程度なのかも分からないんだぞ」
「行ってみれば分かるだろう」
アルは歯を食いしばる。
「犠牲者が出る」
男は平然と答える。
「多少の犠牲は致し方あるまい」
「そのためのお前たちだ」
沈黙。
男はそれ以上何も言わず、背を向けて去った。
アルはしばらくその背中を見つめていた。
夕方。
アルはチーム全員を集めた。
「遠征が決まった」
ざわつく空気。
「来月、異形の地へ行く」
ラウルが顔をしかめる。
「なっ……早すぎる」
「いくら何でも予定外すぎるだろ」
レイアはあっさり言う。
「早くてもいいじゃん」
「サッカーが出来るんだろ」
「試合だろ。やるしかないじゃん」
ラウルは言葉に詰まる。
「……いや、まあ、そうなんだが……」
アルはレイアを見る。
「ふっ。サッカーが出来れば……か」
レイアは睨み返す。
「お前が何考えてんのかはどうでもいい」
「俺はサッカーをする」
二人の視線がぶつかる。
同じ言葉。
違う意味。
その夜。
照明の落ちたグランド。
風だけが吹いている。
ラウルが隣に立つ。
「いよいよだな」
アルは暗闇を見つめたまま言う。
「ああ、いよいよだ」
「世界を変えに行くぞ」
グランドの端では、レイアが一人でボールを蹴っていた。
コツ。
コツ。
静かな音だけが響いていた。




