第19話 ルールを壊す者
異形は追い返された。
だが――
世界は、何ひとつ変わらない。
アルは村外れの岩場に立ち、遠くの地平線を見ていた。
(結局、勝っただけだ)
(サッカーという世界の底辺)
(その最下層にある暗黒サッカー)
(何も変わらない)
勝利は記録される。
だが、構造は残る。
(勝つことに意味はない)
(強さが足りない)
(圧倒的な強さがなければ、世界は動かない)
背後から声が飛ぶ。
「アル!」
振り向くと、レイアが立っていた。
「なんでお前が、こんなところにいるんだよ!」
アルは表情を変えない。
「久しぶりだな」
「久しぶりじゃねえよ!」
レイアは詰め寄る。
「俺の質問に答えろよ!」
アルは静かに言う。
「俺は、世界のルールを変えるためにここにいる」
レイアは眉をひそめる。
「なんだよ……世界のルールってさ」
アルは一歩近づく。
「そのために、お前が必要だった」
「それだけだ」
レイアの拳が震える。
「知らねえよそんなの!」
「ルールとかどうでもいい!」
「俺はサッカーがしたいだけなんだぞ!」
アルは即答する。
「サッカーのために、世界を変えるんだ」
レイアは首を振る。
「わかんねえよ」
「ここに連れてこられたのも……」
「全部お前のせいか!?」
一瞬の沈黙。
アルは淡々と言った。
「あのままだったら、お前は死んでいた」
レイアは歯を食いしばる。
「なんでだよ……」
声が震える。
「なんでサッカーしたいだけで、こんな目にあうんだよ」
「サッカーの何が悪いんだよ!」
アルはゆっくりと口を開く。
「サッカーは悪だ」
レイアは息を呑む。
「……は?」
アルは続ける。
「その意味は、いずれわかる」
「今は――」
「サッカーをすればいい」
レイアは強く睨み返す。
「お前に言われなくても」
「俺は俺のサッカーをする」
二人の間に、静かな溝が生まれる。
同じ言葉を口にしている。
サッカーのため。
だが――
目指している場所は、まったく違っていた。




