第18話 勝っても満たされない
試合は、そのまま人類側の優勢で進んだ。
異形の攻撃は次第に勢いを失い、
人間たちは決定的な一撃を受けることなく守り切った。
やがて、笛が鳴る。
勝利だった。
異形は撤退し、村には再び静けさが戻る。
だが――
レイアの表情は晴れなかった。
地面に転がるボールを、じっと見つめる。
(決定機は、三回あった)
(うち二回は……外した)
胸の奥が、じくりと痛む。
(もっと正確に蹴れれば)
(もっと落ち着いていれば)
(あと二点は、取れた)
ラウルが近づいてくる。
「悔しがるな。充分だ」
淡々とした声だった。
「異形は追い返せた」
だが、レイアは首を振る。
「違う」
顔を上げ、歯を食いしばる。
「もっと正確に蹴れれば、あと二点取れた」
ラウルは少しだけ目を細める。
レイアは続けた。
「それはそうと……あいつらはなんだ?」
「異形だろ?」
「そうじゃない」
言葉を選びながら、レイアは言う。
「なんで、サッカーなんだ」
ラウルは一瞬、黙る。
「……アルから、何も聞いてないのか?」
レイアの眉が動く。
「アル?」
「アルを知ってるのか?」
ラウルは当然のように頷く。
「知ってるもなにも――」
そう言いながら、ラウルは視線を横に向けた。
「そこに……」
言葉が、止まる。
そこにいるはずの人物。
ジョアンナの後ろ。
木陰。
村の入口。
どこにも――いない。
ラウルは小さく舌打ちした。
「……いねえな」
レイアの胸に、嫌な感覚が広がる。
(またか)
(あいつはいつも……)
「どういうことだよ」
ラウルは視線を戻す。
「アルはな――」
一拍置いてから言った。
「この世界で起きている“サッカー”の歪みを、作った側の人間だ」
レイアの背筋が、わずかに冷える。
「作った……側?」
ラウルは空を見上げる。
「異形も、魔法サッカーも、暗黒サッカーも」
「全部、偶然じゃない」
レイアは拳を握る。
(革命……)
かつてアルが口にした言葉が、脳裏をよぎる。
ラウルは続ける。
「ただし――」
「アル自身が、どこまで本気なのかは誰にも分からない」
沈黙が落ちる。
遠くで、子供たちがボールを蹴る音が聞こえる。
レイアは静かに言った。
「俺はさ」
ラウルを見る。
「サッカーがしたいだけなんだ」
ラウルは、かすかに笑った。
「……だから面白いんだよ、お前は」
レイアはまだ知らない。
この試合は、ただの防衛戦ではなかった。
誰かにとっては――
“観測”だったことを。




