第17話 美しいサッカー
レイアは、敵ゴールへと迫っていた。
異形の守備をかいくぐり、最後の一歩を踏み込む。
体勢を整え、迷いなく振り抜いた。
――入った。
そう思った瞬間。
カンッ、と乾いた音が響く。
ボールはゴールポストに弾かれ、無情にも外へ転がった。
「……くそっ」
思わず舌打ちする。
両拳を握りしめ、悔しさを噛み殺すレイアの背後から、低く落ち着いた声がした。
「美しい……」
レイアは振り返る。
金髪の男が立っていた。
年は若くはないが、佇まいに無駄がない。
視線は冷静で、だが確かな熱を宿している。
「いいサッカーだ」
怪訝そうに見返すレイアに、男は肩をすくめた。
「俺はラウルだ」
「お前みたいな、美しいサッカーをする奴は好きでな」
ラウルは、さらりと言う。
「パスを出していく。決めろ」
「……言われなくても決める」
レイアは短く返した。
次の瞬間、ラウルの足元からボールが放たれる。
正確だった。
速さも、角度も、完璧に近い。
だが――それだけではなかった。
異形の動きが、わずかに鈍る。
ほんの一瞬。
誰も気づかないほどの遅れ。
だが、レイアだけは気づいた。
(……暗器)
視線を走らせる。
ラウルの動きは自然だ。
腕も、足も、何一つ不審なところはない。
それでも確かに、相手の反応が遅れている。
(しかも……見えない)
レイアの足取りが、軽くなる。
(動きやすい……マークが一瞬遅れる)
異形の攻撃を、紙一重でかわす。
魔法でもない。
露骨な反則でもない。
ただ、サッカーの流れの中で、わずかに“有利”が作られている。
レイアは走る。
パスを受け、トラップし、迷わず振り抜く。
今度は――
ゴールネットが、確かに揺れた。
決まった。
歓声が上がる。
レイアは息を吐き、視線を上げる。
ラウルと一瞬、目が合った。
そこには、言葉のいらない理解があった。
“気づいたな”
“ああ、気づいた”
それだけで、十分だった。
レイアは思う。
(暗器を使うか、使わないかじゃない)
(どう“サッカーを壊さずに使うか”だ)
気づいてしまった。
そして同時に、
同じ場所に立つ者がいることも。
試合は、まだ続く。
だがレイアの中で、
何かが、はっきりと形を持ち始めていた。




