第15話 交代
試合が始まった。
――いや、サッカーが始まった。
異形の者たちは、魔力を当然のように操っていた。
跳躍は人の限界を超え、走力は風を引き裂き、放たれる魔力がボールの軌道すら歪める。
明らかに、人の次元ではない。
「……なんだよ、こいつら……」
レイアは、息をのんだ。
対する村の者たちは、魔法を使わない。
否、使えない。
だが――
魔力の奔流を、紙一重で“そらす”。
正面から受けず、ぶつからず、決定打にさせない。
当たらない。
通らない。
決めさせない。
それは、勝つためのサッカーではなかった。
生き残るためのサッカーだった。
ジョアンナが、隣で静かに言う。
「この世界の外から来た存在さ」
「人の世界には、入れてはいけないものよ」
レイアは、首を横に振った。
「違う……」
ジョアンナが、驚いたようにレイアを見る。
「そっちじゃない」
レイアの視線は、ピッチから外れなかった。
「サッカーだ」
「……あいつら、サッカーをしてるんだ」
異形も、人も。
目的は違えど、同じ形でボールを追っている。
そのとき。
――ピィィィッ!
笛の音が、鋭く響いた。
フィールドの一角で、FWの男が膝を抱えて倒れている。
顔は歪み、歯を食いしばっていた。
「……くそっ」
担架が呼ばれる。
負傷退場。
人数が減る。
一瞬、沈黙が落ちた。
その沈黙を破ったのは――
レイア自身だった。
彼女は、立ち上がり、一歩前に出る。
ジョアンナが、じっと見つめる。
「あんたは、どうするんだい」
問いは、もう裁きではなかった。
選択だった。
レイアは、迷わなかった。
「俺は……」
拳を、ぎゅっと握る。
「サッカーをする」
その言葉に、ジョアンナは笑った。
短く、強く。
「――交代だ!」
周囲がざわめく。
レイアは、グラウンドへと足を踏み出す。
ボロボロの靴。
見えない暗器。
魔法は、ない。
それでも――
(俺は、サッカーをする……)
その覚悟だけは、誰にも奪えなかった。
レイアは、ピッチに立った。




