第14話 試合の意味
レイアは、もう一度目を凝らした。
――見えない。
暗器そのものは、やはり視界に映らない。
だが、不自然な動きの“隙間”に、確かな気配だけが残る。
ボールを奪いに行った少年が、ほんのわずかに距離を取る。
次の瞬間、何もない空間をすり抜けるように体をひねった。
(……かわした)
そう思った直後。
少年の体が、ぐらりと揺れる。
「……っ」
踏みとどまったが、動きは明らかに乱れていた。
(読まれてる)
少年がかわすことを、最初から計算した暗器。
避けた先に、もう一手。
高度な駆け引き。
反射ではなく、読み合い。
「……子供なのに……」
思わず、声が漏れた。
隣で見ていたジョアンナが、静かに答える。
「これしかないからね」
レイアは、彼女を見る。
「ここには魔法はない」
「それでも、サッカーをする」
ジョアンナの視線は、グラウンドの子供たちに向けられていた。
「奪われないためさ」
「蹂躙されないためにね」
そして、レイアに向き直る。
「あんたは、どうするんだい?」
問いは、重かった。
レイアは、言葉を探す。
「俺は……」
胸の奥に浮かぶ答えは、単純だった。
――サッカーがしたいだけ。
勝ちたいわけでも、支配したいわけでもない。
魔法を使いたいわけでもない。
ただ――
レイアは、空を見上げた。
澄んだ空。
何もない、ただの空。
そのときだった。
カン、カン、カン!!
乾いた金属音が、村に響き渡る。
「敵襲!」
叫び声が上がる。
一瞬で、空気が変わった。
ジョアンナの表情から、軽さが消える。
「……来たね」
彼女は、短く息を吐いた。
「試合だよ」
「……試合?」
レイアは、聞き返す。
ジョアンナは、当然のように言った。
「そうさ」
「この村の存在理由」
「私たちがサッカーをする意味だ」
そう言って、指をさす。
その先に、影が見えた。
――いや、影ではない。
近づくにつれ、それが“人ではない”ことが分かる。
角の生えたもの。
羽根を持つもの。
人の形を模してはいるが、どこか歪んだ存在。
明らかな異形。
レイアの喉が、鳴る。
ジョアンナは、低い声で告げた。
「奴らには、魔法は通じない」
「そして――」
一拍置く。
「私らにしか、倒せない敵だよ」
レイアは、再びグラウンドを見る。
ボロボロのボール。
不揃いなゴール。
そして、見えない暗器。
ここは、ただの捨て場じゃない。
ここは――
戦うためにサッカーを続ける者たちの場所だった。
レイアの中で、
「サッカー」の意味が、静かに書き換えられていく。




