第13話 見えない反則
グラウンドとは、ほど遠い。
ただの空き地に、簡素なゴールが置かれているだけの場所だった。
それでも、子どもたちは元気にボールを追いかけている。
「おねえちゃん!」
一人が、レイアに声をかけた。
「サッカーしようよ!」
「やる!」
即答だった。
気づけば、子どもたちの輪の中にいる。
足元に転がってきたボールは、ひどく使い古されていた。
表面は擦り切れ、空気も甘い。
それでも――
(ここには、サッカーがある)
魔法はない。
派手な演出もない。
――俺の知ってるサッカーだ。
レイアは、ドリブルで前に出た。
女の子が、正面から止めに来る。
「本気でやるよ」
軽くフェイント。
――かわした。
……はずだった。
次の瞬間、足元がもつれる。
「っ!?」
転倒。
ボールは、あっさりと奪われていた。
「ちくしょう!」
地面を叩く。
(まだ、調子が出てないのか?)
だが、その後も状況は変わらなかった。
パスは通らない。
ドリブルは止められる。
守備では簡単に抜かれる。
何一つ、うまくいかない。
「……こんなはずじゃ」
試合は、そのまま終わった。
レイアは、何の見せ場も作れなかった。
「なんでだよ! ちくしょう!」
悔しさが、喉からこぼれ落ちる。
その背後から、声がした。
「あら?」
振り返ると、ジョアンナが腕を組んで立っていた。
「あんた、何にも気がつかなかったのかい?」
「……なにがだよ」
ジョアンナは、顎でグラウンドを示す。
「あの子たちのサッカーだよ」
「よく見てごらん」
レイアは、目を凝らす。
子どもたちは、相変わらず普通にプレーしているように見えた。
「普通のサッカーだろ?」
そう言うと、ジョアンナは呆れたように息をついた。
「おいおい」
「あんた、今まで何を学んできたんだよ」
レイアは、さらに注意深く試合を見る。
すると――
違和感。
不自然なタイミングで、動きが止まる。
何もないはずのところで、体勢を崩す。
「……なんだ?」
「あいつら、どっか悪いのか?」
ジョアンナは、鼻で笑った。
「あんた、バカなの?」
その瞬間、レイアの脳裏に、嫌な記憶がよぎる。
(……暗器)
目を凝らす。
だが、何も見えない。
(こんな子どもが……?)
(しかも……見えない)
ジョアンナは、当然のように言った。
「見えない?」
「当たり前だろ」
そして、静かに続ける。
「暗器ってのは――」
「そういうもんだ」
レイアの背筋に、冷たいものが走った。
ここは、
魔法のない、健全なサッカーの村じゃない。
ここには――
“見えない暗黒”が、当たり前のように溶け込んでいた。
それに気づいたとき、
レイアの敗北は、別の意味を持ち始めていた。




