第9話 反則の笛
王国のグラウンドには、異様な緊張が満ちていた。
高壇に立つのは、
サッカー王国カルディナの王――ザグロ。
「サッカー大陸統一のための戦いを始める」
重々しい声が、場内に響き渡る。
「まずは北方、ブーデリア」
「この地を、我がものとする」
一瞬の静寂の後、民衆が歓声を上げた。
叫び、拳を突き上げ、勝利を疑わない熱狂。
遠征メンバーの名が、次々と読み上げられていく。
そして――
「……レイア」
その名を聞いた瞬間、レイアの胸が高鳴った。
(初陣か……)
(やってやるよ)
視線の先には、広大なピッチ。
敵も、観客も、すべてが“獲物”に見えた。
試合開始。
レイアは迷わず前に出た。
鋭いドリブルで切り込み、敵陣をえぐる。
(魔法は撃たせない)
止めに来た相手選手の足元へ、素早く粉を散布。
――爆ぜる。
小規模な爆発が起き、相手がひるむ。
その隙に、袖から覗く刃。
一瞬の動きで、戦闘不能に追い込む。
(次)
(次だ)
レイアは止まらない。
恐怖と混乱の中を突き進み、ゴール前へ。
(いける)
シュート体制に入った、その瞬間――
――ピィィィッ!!
甲高い笛の音が、すべてを切り裂いた。
レイアは動きを止める。
審判が、静かに近づいてくる。
赤いカードが、掲げられた。
「……は?」
レイアは思わず声を漏らす。
「なんでだよ」
審判は答えず、レイアの手を掴んだ。
固く握られた拳を、無理やり開く。
そこには――小さな刃。
「武器の使用は反則だ」
冷たい宣告。
場内が、ざわめく。
「暗器……?」
「暗黒サッカー……」
囁きが、恐怖を伴って広がっていく。
ベンチから、ロウガが顔を覆った。
「……やっぱり、やりすぎだ」
観客席。
アルは、何も言わない。
ただ、静かにその光景を見つめていた。
レイアは退場を命じられ、ピッチを後にする。
振り返っても、歓声はない。
一人少なくなったカルディナは、数的不利を覆せず――
敗北した。
夜の帳が下りるグラウンドで、
レイアの初陣は、敗北と断罪で幕を閉じた。
だがそれは、終わりではなかった。
――これは、
世界が「拒絶したサッカー」への、始まりの笛だった。




