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第9話 色が踊るノート

この頃、わたしは「考える」よりも、

ただ「感じる」ことに夢中でした。

第9話 色が踊るノート


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中学生の頃 —


わたしは、家と学校と山道の往復だけで1日が終わる生活をしていました.


朝は冷たい空気の中を歩き —

夕方には杉並木の影が長く伸びる道を帰る.


遠くの切り立った岩壁 —

参道へと続く石段の気配 —

肌を撫でるひんやりした空気 —

いつも日常の背景としてそこにありました。


そのころのわたしには、ひとつだけ夢中になっていたことがありました。



白いノートに、数字を書くことです.


色鉛筆も、絵の具も使わず、ただ数字を並べるだけ —


それなのに不思議なことに、数字はわたしの目の中で自然に色を帯び、紙の上からふわりと浮かび上がって見えました.


数字は、それぞれ決まった色をまとい、並び方を変えるだけで、まるで配置を変えた照明のように、全体の印象が変わります.


普通に色を塗った絵とは違い —

色が踊るように揺らめき、しばらく見つめていると、紙の奥へ吸い込まれていくような感覚がありました.


放課後、部活が終わると、わたしは図書室で静かにノートを広げ、数字を配置しては、ただ眺める.そんな時間が好きでした.


友だちに説明しても、なかなか伝わりませんでしたが、それでも、自分だけの景色を見ているようで、満足していたのだと思います.


ある日 —

理科の本を探していたとき、数学の棚で1冊の図形の本を見つけました.


それは、わたしの人生で最大の発見だったかもしれません


そこに載っていたのが、「ラウムの螺旋」と呼ばれる形でした.


中心から外へ向かって、規則正しく広がっていく曲線 —


その形は数式で表されるものですが —

わたしの目には、まるで光の渦のように見えました.


数字で構成されているはずなのに —

線は柔らかく —

色は内側からにじむように現れる —


気づけば、何時間もその図を眺めていました.

頭の中では、数字が色に変わり、色が回転し、やがて渦になっていく.

その感覚が、どうしても止まらなかったのです.



家に帰る道すがら.

参道沿いの古い灯りがともるころになると、その螺旋のイメージが、頭の中の風景と重なりました.


山の静けさ、数字の色、そして渦を巻く形 —


それらが、ひとつの情景として結びついていったのです.


それからしばらく、わたしはラウムの螺旋を真似て、数字だけで模様を作ることに没頭しました。


中心を決め —

順番に数字を置いていくと —


色の流れが自然に生まれ、見るたびに少しずつ違う表情を見せてくれました。


言葉ではうまく説明できませんが、あのとき確かに、数字と色と形が、ひとつにつながった瞬間がありました。


山に囲まれた静かな土地で、わたしは、自分だけの「つながり」を見つけていたのだと思います。


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