第7話 山に守られた家
今回は、わたしが育った場所の話です。
派手な謎はありませんが、
すべての始まりに、確かに関係している場所です。
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わたしが生まれ育った実家は、山に囲まれた静かな土地にありました.
冬になると雪が深く、春は遅く、夏でも朝晩は空気がひんやりしています.
遠くから訪れる人は、最初にその静けさに驚く場所でした。
—
家の近くには、長い参道があり、
背の高い木々が並んで空を細く切り取っています.
子どものころのわたしにとって、その道は遊び場であり — —
同時に、どこか近づいてはいけない場所 —
でもありました。
実家は、地元では少し知られた家だったそうです.
祖父が持っていた土地のおかげで、
暮らしに困ることはありませんでした。
幼いころのわたしは、それが特別なことだとは思っておらず、
それが当たり前の環境だと感じていました。
—
家には人の出入りも多く、
年配の人たちが集まっては、
山の話や、昔の出来事を語っていました.
その中には、決まって、
少し声を落として話される話題がありました
山では、ときどき、人が消える.
そんな言い方をされていたのを、
わたしは子ども心に覚えています.
迷子とは違う言い方 —
まるで、山の中へ連れていかれるような言い回しでした — —
小学生のころ、夏休みの自由研究で、
わたしはその話を調べることにしました.
図書館で昔話を読み、
近所の人に聞き取りをして、
山に伝わる不思議な出来事をまとめました.
森に入ったまま戻らなかった人.
気づいたら、まったく別の場所に立っていた人.
時間の感覚がおかしくなったという話 —
子どもながらに、
これは立派な研究だと思っていたのです
ところが、それを担任の先生に提出すると、
なぜか、強い口調で注意されました.
内容がよくないとか、
ふざけているとか、
そういう理由ではなかった気がします.
ただ、
これ以上書かないほうがいい.
そう言われたことだけが、
ぼんやりと記憶に残っています.
— — —
理由は説明されませんでした.
家に帰って両親に話そうかとも思いましたが、
なぜか、その話題は出しませんでした.
出してはいけない空気を —
わたし自身が感じ取っていたのかもしれません.
それ以来 —
わたしは山の話を、
あまり口にしなくなりました.
参道を歩くときも、
以前より少しだけ、
足早になった気がします.
大人になってから、
あの場所を思い出すことがあります.
深い緑と、
音の吸い込まれるような静けさ.
そして、
守られているような安心感と、
どこかに連れていかれそうな不安が、
同時に存在していた感覚。
あの家で、
何不自由なく育ったことは、
確かに幸運だったのだと思います。
けれど同時に、
知らなくていいことも、
確かにあったのかもしれません。
今でも、
あの山を思い出すと、
時間の感覚が少しだけ、
ずれるような気がするのです。
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山は、今もそこにあります。




