表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

第3話 母と笑い声と、もうひとつの答え

この話には、謎はほとんど出てきません。


でも、答えは、確かにあります。



+82437664


母は、ミステリーがあまり得意ではありませんでした.

というより、はっきりと「苦手」だと言っていた人です.


わたしと父が、テーブルいっぱいに紙を広げて、何やら考え込んでいると、

母は決まってキッチンから顔を出して、少し呆れたように言いました.



そんなに頭を使うことをして、疲れないの。

よくやるわねえ— — —


その声には、心配と半分のあきらめが混ざっていました.


でも —

不思議と嫌な感じはしませんでした.

むしろ、いつもの光景だと思っていたのかもしれません.


父は、その言葉を聞くと、少しだけ肩をすくめて、まあな、と短く返すだけでした


母はそれ以上、口を出しません。

そのかわり、テレビの音量を少し上げるのです...



母が好きだったのは、ミステリーではなく、お笑いでした.


夕方 —

決まってバラエティ番組をつけて、芸人さんが出てくると、子どもみたいに声を出して笑っていました.


とくに、いっぱつネタが好きでした.


意味があるのかないのかわからない動きや、

聞き取れないような早口のセリフ.

それを見て —

母はお腹を抱えて笑うのです。


あるとき —

テレビを見ながら、

ちょっと待ってて、と言って立ち上がり、

急に同じネタをまねしてみせたことがありました.



動きは大げさで、セリフはところどころ違っていて、正直、完成度は高くなかったと思います.


それでも —

わたしは笑いました。


父は、困ったような顔で苦笑していました.


母は、その2人の反応を見て、さらに満足そうに笑いました.


今思えば —

母は「考えること」よりも、「笑うこと」を大事にしていたのだと思います.


正解かどうかより —

楽しいかどうか.


意味があるかどうかより、

今、笑えるかどうか.


わたしと父が、ひとつの答えを探している横で、母は、別の答えを生きていました。


夜になって、

父と2人で謎の続きを考えていると、母は眠そうな目でこちらを見て、まだやってるの、と言ってから、

おやすみ、とだけ言って部屋に戻っていきました。


その背中を見ながら、

わたしは少しだけ、申し訳ない気持ちになったことを覚えています。


でも、同時に、なぜか安心もしていました。


考える人がいて、

笑う人がいて、

そのどちらも、同じ家の中にいた。


それだけで、十分だったのかもしれません。


今でも、難しいことを考えすぎてしまったとき、

ふと、母の笑い声を思い出します。


あのときの、意味のない動きと、楽しそうな顔。


答えが出なくても、

わからないままでも、

笑っていいのだと、

母は、教えてくれていたのだと思います。


+31929327


考えることと、笑うこと。

どちらが正しいかではなく、

どちらも、同じ場所にあった――


そんな記憶です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ