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第29話 動く石列


+2170145314


わたしは、ゲストルームのベッドに横たわったまま、目を閉じても眠れずにいた。


天井の装飾が、空調の風にわずかに揺れている。

静かなはずの部屋なのに、どこか落ち着かない。


もうすぐ始まる財宝探し。

胸の奥が、妙にざわついていた。


Kの言葉が、何度も頭の中で反響する。


「動くのは、石ではありません。

“見る側の基準”です」


――基準。


その言葉だけが、離れなかった。


どうせ眠れないのなら、と、わたしはスマホを手に取った。

時刻は午前一時を少し過ぎている。


検索窓に、いくつかの言葉を打ち込む。


「UAE 石列 円形構造」

「砂漠 石の配列 用途不明」

「stone alignment desert uae」


表示されるのは、旅行者の写真、研究者の断片的な報告、掲示板の噂話。

だが、どれも同じところで終わっていた。


――用途不明。

――意図的に造られたことだけは確か。

――なぜか“動いて見える”。


石は動かない。

動くのは、砂。光。影。

そして――見る側の基準。


翌日、わたしは屋敷を出て、街の外れにある小さな図書館へ向かった。

観光地から外れたその場所は、静かで、人も少ない。


司書の女性に尋ねると、少し迷ったあと、薄いファイルを出してくれた。

古い調査写真と、手書きのメモ。


円形に並ぶ石。

直線状に連なる石。


そのメモの端に、短い英語が残されていた。


「counted at dusk」

「repeat 28」


――28。


その数字を見た瞬間、わたしの内側で色が立ち上がった。

にじむような緑。

数字そのものは黒いインクなのに、わたしには淡く広がる緑が見える。


夕暮れに数える。

28の反復。


わたしは、コピーを借りて外に出た。


夕方、石列のある砂漠へ向かう。

陽は傾き、光が斜めに差し始めている。


近づくと、石の並びがはっきり見えた。

一定の間隔。

だが、どこか微妙に歪んでいる。


わたしは、立ち止まった。


1つ。白。

2つ。黄色。

3つ。青。

4つ。茶色。

5つ。黄緑。

6つ。赤。


数えた瞬間、それぞれの色が、視界の奥に重なる。

石が色づくのではない。

色は、わたしの中でだけ生まれる。


夕陽がさらに沈み、影が伸び始めた。


そのとき、石の影が、砂の上で重なった。


一つの影が、別の影と触れる。

少し遅れて、別の場所でも同じ現象が起きる。


わたしは気づいた。


これは、石を数える場所ではない。

影の“重なり”を数えるための構造だ。


7つ目の重なりで、胸の奥が一瞬きらめいた。


虹色。


7は、虹色。


さらに重なりが増える。


12。

淡い青と銀が、重なるように広がった。

空気が、すっと澄む。


――ここだ。


わたしは、確信した。

夕暮れの一瞬だけ、影が特定の回数、重なる。

それを“数える者”だけが、同じものを見る。


その瞬間、わたしの思考が、別の場所へ跳んだ。


では――

この仕組みを作った者たちは?


石を並べた者たちは?


影と数字と配置を使い、

“数えた瞬間に意味が立ち上がる構造”を残した者たちは――


わたしと同じだ。


数字が、ただの数字ではなく、

感覚として立ち上がる人間。


共感覚の持ち主。


わたしは、息をのんだ。


真珠を隠したKの一族も、

わたしと同じ“見え方”を持っていたのではないか。


だからこそ、数字を残さず、

石と影と配置だけを残した。


見える人にだけ、見えるように。



――そのとき。


砂を踏む音がした。


わたしの背後。

近い。

車は少し離れた場所にある。遮るものは何もない。


振り向く前に、わたしは理解した。

誰かが、わたしが「気づく」ことを嫌がっている。


息を飲む。

次の瞬間、肩を掴まれそうになって、わたしは身を沈めた。指先が空を切る気配。


走る。


砂は足を取る。

それでも、わたしは転ばなかった。

父と謎解きをしていた頃、何度も「急ぐときほど足元を見ろ」と言われた。

今、その言葉が身体に残っている。


背後から短い声。言葉にならない叫び。

追ってくる。


わたしは車の鍵を握りしめ、ドアを開け、滑り込む。

エンジン。

ライト。

砂煙。


バックミラーに、影が一瞬映った。

顔は見えない。

ただ、こちらへ伸びる手だけが見える。


わたしはアクセルを踏んだ。


屋敷へ戻る道は長く感じた。

それでも、門が見えた瞬間、肺の奥の空気がやっと動いた。


ゲストルームに戻り、ドアを閉め、鍵をかける。

背中を扉に預けたまま、しばらく動けなかった。


やっと呼吸が整ったころ、わたしはスマホの画面を見た。

撮った写真の中に、夕暮れの影が写っている。


重なり。

反復。

そして、数字が呼び起こす色。


わたしは思う。


見つける者と、見失う者を分けるのは、石ではない。


わたしの“感じ方”そのものだ。


わたしは、見つける者になれるだろうか。


期待と不安が、同じ重さで胸に沈んだまま、

その夜も、眠りはなかなか訪れなかった。


+1170523145


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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