第27話 風と声
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Kは、わたしの反応を確かめるように、少しだけ間を置いた。
「2つ目のヒントを話しましょう」
そう言って、彼は窓の外――遠くに広がるドバイの夜景へ視線を向けた。
「場所は、バスタキヤ地区。
現在はアル・ファヒディ歴史地区と呼ばれています」
古い写真でしか見たことのない街並みが、頭に浮かぶ。
低い建物、土色の壁、迷路のような路地。
「そこに残るのが、“風の塔”――バードギールです」
風を取り込み、家の中を冷やすための装置。
空調のない時代の知恵として知られている。
「ですが、いくつかの塔には、説明のつかない特徴がある」
Kは、淡々と続けた。
「内部構造が、家ごとに微妙に異なる。
風向きだけでは意味を持たない仕切り。
そして――特定の時間帯にだけ、音が反響する」
風が鳴る、というより、
何かを“伝えている”ような音。
「かつては、秘密の連絡手段だったのではないか。
あるいは、盗賊への警告。
宗教的な時刻信号だった、という説もあります」
だが、どれも決定打にはならない。
記録が残っていないからだ。
「重要なのは、音そのものではありません」
Kは、静かに言った。
「“いつ”“どこで”鳴るか。
その配置です」
風の塔。
時間。
音。
また、頭の中に、繋がらない断片が増えていく。
「そして、3つ目のヒント」
Kは、声を少しだけ落とした。
「砂漠で聞こえる、“夜の呼び声”です」
遊牧民の間に残る怪異譚。
夜の砂漠で、誰かに名前を呼ばれる。
応えると、道を失う。
足跡が、突然消える。
「精霊――ジンの仕業とされてきました」
科学的には、蜃気楼や音の屈折で説明される。
だが、体験談は今も語られている。
「私の家にも、記録があります」
Kは、そう言って、わたしを見た。
「呼ばれた者が、必ずしも消えるわけではない。
だが、“応え方”を間違えた者は、戻れなかった」
風の塔の音。
砂漠の声。
どちらも、音だ。
だが、それ以上に――配置と、時間。
「3つのヒントは、独立していません」
Kは、最後にそう告げた。
「砂漠、街、そして人。
それぞれが、同じ“読み方”で作られている」
真珠商人たちは、
ただ宝を隠したのではない。
“辿り着ける者だけが辿り着く”構造を、
この土地そのものに残したのだ。
話を聞き終えたとき、
わたしの胸の奥で、何かが静かに震えていた。
怖さは、不思議とない。
代わりに、懐かしい感覚がある。
――考える前の、高鳴り。
祖父と、父と、
謎を前にしたときの、あの感覚。
わたしは、いよいよ始まる財宝探しに、
胸が高鳴っているのを、はっきりと自覚していた。
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