表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/34

第24話 三日前の電話


−2030041


ドバイの空は、思っていたよりも白かった。

夜明け前だというのに、街の輪郭はくっきりと浮かび、遠くのビル群が静かに光を返している。

ここに来るまでの経緯を、わたしは何度も頭の中でなぞっていた。


どうして、わたしは今、ドバイにいるのか。


答えは、3日前にある。


3日前、わたしは実家から東京のワンルームマンションに戻ったばかりだった。

荷物を床に置き、カーテンを閉め、明日からの旅に備えて早めにベッドに入った。

行き先は、アンコールワット。

長いあいだ、ずっと楽しみにしていた場所だ。


けれど、なかなか眠れなかった。


頭の中では、ひとつの問いがぐるぐると回っていた。


人は、アンコールワットに「神のための寺」と「王のための宇宙」を、同時に築いたのか。


石の回廊、天空へ伸びる塔、正確すぎる配置。

宗教施設として見ても、権力の象徴として見ても、説明しきれない何かがある。

あれは、信仰と政治の折衷なのか。

それとも、人が世界を理解するための、巨大な模型だったのか。


考えれば考えるほど、胸が高鳴り、目は冴えていった。

枕元の時計が、静かに時を刻む音だけが聞こえる。


そのときだった。


スマートフォンが震えた。


父からの電話だった。


こんな時間に、何事だろう。

そう思いながら通話に出ると、父の声は少し弾んでいた。


突然な、実家に電話がかかってきたんだ。


相手は、海外の人物だという。

名前を聞いたとき、わたしは思わず聞き返した。


ドバイの大富豪、K。


父の話は、信じがたい内容だった。

Kは、たまたまネットで祖父が自費出版したミステリー小説を見つけ、購入し、読んだ。

そして、すっかり魅了されたらしい。


なぜ、そんな本に行き着いたのか。

それは、K自身が、世界各地の謎や伝承、未解決の構造に強い興味を持っていたからだという。


父は電話口で、感謝と、祖父がすでに他界していることを伝えた。

そして、Kのことを墓前に報告することを約束した。

ここまでは、よくある話だ。


けれど、そのあと、父は世間話のつもりで、最近のわたしのことを話したらしい。

世界のミステリースポットを巡っていること。

祖父の本を読み返していること。

数字に色が見える、少し変わった感覚を持っていること。


すると、Kの態度が変わった。


祖父の素質を受け継いでいるなら、ぜひ会いたい。


そして、

今度、自分が私財を投じて開催する、あるゲームに参加してほしいというのだ。


財宝探しのゲームだという。


父の話を聞きながら、わたしは言葉を失っていた。

そんな話が、現実にあるのだろうか。

映画や小説の中の出来事ではないのか。


けれど、父の声は真剣だった。

Kは、本気らしい。

すでに具体的な計画があり、世界中から参加者を募るつもりだという。


電話を切ったあとも、しばらく動けなかった。


驚きは、確かにあった。

けれど、それ以上に、胸の奥が熱くなっていた。


祖父の小説を、遠い国の誰かが見つけ、読み、評価してくれた。

それだけで、十分すぎるほど嬉しかった。

ましてや、その人物が、祖父の書いた「配置」や「見えない構造」に、本気で価値を見出している。


どんな人物なのだろう。

どんな目で、世界を見ているのだろう。


わたしは、ふと、アンコールワット行きの航空券のことを思い出した。

画面を開き、しばらく眺める。


神のための寺。

王のための宇宙。


確かに魅力的だ。

けれど、今この瞬間、別の扉が開こうとしている気がした。


世界的な大富豪が、私財を投じて仕掛ける財宝探し。

それも、祖父の思想に共鳴した人物によるもの。


迷いは、長く続かなかった。


わたしは航空券をキャンセルし、行き先を変更した。

向かう先は、ドバイ。


祖父が遺したもの。

父が語ってくれたこと。

わたし自身が、これまで積み重ねてきた視点。


それらが、1本の線として、どこかへ続いている気がしたのだ。


ドバイの空港に降り立った今、その感覚は、はっきりとしている。


ここから、何かが始まる。

わたしは、そう確信していた。


−2050071

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

 よろしければ、感想や評価、ブックマークで応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ