第23話 わたしの中で光るもの
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わたしには、数字に色が見える。
7は、虹色に近い光を帯びる。
12は、淡い青と銀の重なり。
28は、にじむような緑。
子どものころから、そうだった。
特別だとも、便利だとも思っていなかった。
ただ、そう見えるだけだった。
だから、ヴォイニッチ手稿のページを見たとき、
わたしの中では、自然に色が立ち上がった。
女性像が12人並ぶページ。
淡い青と銀が、ページ全体に広がる。
7つに区切られた構造。
深い虹色が、静かに沈む。
28の反復。
にじむ緑が、ゆっくりと循環する。
ページ全体が、
色の楽譜のように、発光して見えた。
黄道十二宮の円環は、
わたしには「色の輪」だった。
赤から橙へ。
橙から黄へ。
緑、青、紫、そして黒に近づく。
黒に寄るほど、身体が重くなる感じ。
白に近づくほど、呼吸が楽になる。
これは暦ではない。
健康予報だ。
入浴する女性たちのページも、同じだ。
人数を数えた瞬間、体内の色が浮かび上がる。
4人は、どんよりとした茶色。
停滞。
5人は、黄緑。
回復の途中。
6人は、明るい赤。
活性。
これは医学書ではない。
「身体の色調を読むための視覚補助書」だ。
なぜ、数字を書かなかったのか。
その答えも、わたしにはしっくりきた。
数字は、意味を固定する。
だが、色は揺らぐ。
見る人によって違う。
年齢や体調で変わる。
季節によって、深さも変わる。
だから作者は、
数字を消し、
記号と配置だけを残した。
読む人自身が、解読装置になるように。
最後のページを見たとき、
わたしは、はっとした。
これまでに見た色が、
別の章にも、同じ順序で現れている。
植物のページ。
星座のページ。
人体のページ。
すべてが、同じ循環の中にある。
文章ではなく、
色で書かれた1文。
意味は、こうだ。
人の身体も、季節も、星も、
同じ色の循環の中にある。
だから、治すのではなく、
正しい色に戻せ。
この本は、
極端に少数の読者を想定して作られた。
共感覚を持つ人間。
数字が色になる人間。
隠されたのではない。
最初から、
見える人の中にだけ、現れるように書かれていたのだ。
わたしは本を閉じ、
自分の指先を見た。
祖父が、配置を読む人だったように。
父が、答えを与えなかったように。
この書物もまた、
答えを持たない。
読む人の中で、
初めて、意味になる。
わたしは、静かに息をついた。
色は、今も、胸の奥で揺れている。
それだけで、十分だった。
書物についての思考は、砂漠の地平線の向こうへ溶けていくように、いつしか輪郭を失っていった。
やがて機体は高度を下げ、砂の海の縁に、無数の灯りが浮かび上がる。
規則正しく並ぶ光は、夜を迎える都市の脈動のようだった。
軽い衝撃とともにタイヤが地面を捉えた瞬間、長い思索は現実へと引き戻される。
アナウンスが静かに流れ、ここがドバイ国際空港であることを告げる。
わたしは、未知の物語が始まる予感を抱いたまま、ゆっくりと立ち上がった。
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