第2話 父とわたしと、最初の謎
前回からお読みいただき、ありがとうございます。
第2話では、
事件や暗号そのものではなく、
「なぜ、この語り手は“違和感”を見逃さないのか」
その原点を書いています。
謎解きは、突然ひらめくものではありません。
小さな沈黙や、言葉にされなかった一瞬を、
「そのままにしない」ことから始まるのだと思います。
この話は、その最初の一歩です。
派手な謎はありませんが、
この先に出てくる“手がかりの読み方”は、
すでに、ここにあります。
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わたしがミステリーを好きになったきっかけは、まちがいなく父でした.
思い返すと、その理由をうまく言葉にできないまま、ここまで来た気がします.
父は、いわゆる無口な人でした.
仕事のことも、自分のことも、あまり多くは語らない人でした。
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でも、ミステリー小説の話になると、少しだけ雰囲気が変わったのです。
声の調子も、間の取り方も。
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子どものころ、夜になると、父は1冊の本を持ってきて、
「今日はここまで読んでみようか」と言いました。
その言い方が、わたしは好きでした。
—
犯人当ての物語だったり、密室の謎だったり、
暗号が出てくる少しむずかしい話だったり。
内容は正直、よくわからなかったと思います。
—
それでも、父は答えを教えてくれませんでした。
「どう思う?」と聞かれて、
考え込むわたしの様子を、ただ待っているのです.
—
ときどき、沈黙が長く続くこともありました.
その時間が、なぜか嫌ではなかったのを覚えています.
ある日、紙に書かれた簡単な謎を渡されました
意味のないように見える記号と、少しの工夫.
それを見た瞬間、胸の奥がすこし熱くなりました.
考えて、間違えて、また考える.
父は隣で、うなずくでもなく、否定するでもなく、ただ、そこにいました。
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ようやく答えにたどり着いたとき、
父は小さく息をついて、静かに笑いました。
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それだけでした.
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—
今思えば、父は「正解」を教えたかったのではなく、
「考えること」を残したかったのかもしれません.
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結果よりも、その過程を.
物語を読むとき、
ふとした違和感に立ち止まる癖は、今も残っています.
たぶん、それが父からもらった、いちばん大きなものです。
言葉にしないまま、受け取ったもの.
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ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
父が出した謎は、
紙の上の問題ではありませんでした。
答えよりも、
「考えている時間」そのものを、
どう扱うかという問いだったのだと思います。
この物語では、
大きな謎ほど、説明されません。
代わりに、
読み飛ばせてしまいそうな部分に、意味が残ります。
もし途中で、
「ん?」と立ち止まったら、
それはたぶん、正しい反応です。
次回から、
その違和感が、少しずつ形を持ちはじめます。




