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第15話 潮の境目で聞いた話

謎には、

驚かせるものと、

確かめさせるものがあります


−2026162


わたしは、どうしても、世界のミステリースポットを自分の目で見て回りたいという気持ちを抑えることができなかった。


写真や本で知るだけでは足りない。


そこに立ち —

空気を吸い —

確かめたい.


そんな思いが、日に日に強くなっていった。


先日、そのことを思い切って両親に打ち明けた.

反対されるだろうと覚悟していたのに、返ってきたのは拍子抜けするほどあっさりした言葉だった.


「おまえは、昔からそうだからな」


それだけだった —


さらに驚いたのは、父の決断だった。

父は、祖父から受け継いだ土地を少し売り、

そのお金を、わたしの旅費に充ててくれたのだ.


あとから知ったことだが、父自身も、若いころから世界の謎や不思議に強い憧れを持っていたらしい.

けれど、仕事や家庭に追われ、結局その夢を叶えることはできなかった。


「だから、おまえが行ってこい」


そう言った —

父は少し照れくさそうに見えた.


自分が見られなかった景色を、娘に託す.

それが父なりの、ささやかな願いだったのだと思う。


仕事を辞めると、わたしは、以前買った世界のミステリースポットの本を棚から取り出した.

何度も読み返し、付箋だらけになったページを開く。

最初に目に飛び込んできたのは、やはり、あの場所だった


バミューダ・トライアングル。


名前だけで、数え切れない噂と物語を背負った海域.

地図の上では、ただの海なのに、昔から多くの船や飛行機が消えたとされている場所 —


実際に現地を訪れてみると、拍子抜けするほど、そこは普通の観光地だった.


港には人が集まり、カフェでは笑い声が聞こえる。

海は青く、空は広い.

怪物も、異様な空気も、どこにも見当たらない。


現地ツアーに参加すると、案内役の男性は、まず有名な遭難事件や行方不明の話を簡単に紹介した.


けれど —

その語り口は、怪談というよりも、冷静な報告に近かった。


続いて語られたのは、天候と潮流の話だった。

この海域では、複数の強い潮がぶつかり合い、波が急に荒れることがある。

さらに、天気の変化も早く、晴れていた空が、あっという間に厚い雲に覆われる。


わたしが特に印象に残ったのは、海の色の境目だった。

船で沖へ出ると、水面に細い線のような違いが現れる。

濃い青と、少し明るい青 —

それは潮の流れが異なる証拠で、波の立ち方も変わるのだという.


伝説として語られる飛行隊の話についても、最新の調査では、無線の混乱や判断ミスが重なった結果だと説明されていた.


特別な力が働いたのではなく、ほんのわずかな誤差が積み重なっただけ。

海の上では、そのわずかな差が、致命的になる.


また、羅針盤の話も興味深かった。

この海域では、磁気の影響で、北の示し方がわずかにずれることがある.

経験豊富な操縦士や航海士なら修正できるが、慣れていないと —

そのずれに気づかないまま進んでしまう.


小さなずれが、距離のずれになり、時間のずれになり、やがて帰れなくなる。


それは、とても現実的で、だからこそ怖い話だった。


夕方、港へ戻るころ、海はすっかり穏やかになっていた。

伝説の中心に立っているはずなのに、そこには静かな風景しかない。


わたしは、その落差に、妙に納得していた.

ここには、超常現象はない.

けれど、自然と人間の弱さが重なる場所は、確かに存在する.


バミューダ・トライアングルの謎は、ひとつの答えに収束するものではなかった。

荒天、潮流、地形、判断ミス、そして人の思い込み。

それらが絡み合い、物語になった結果なのだ。


帰りの車の中で、わたしは本を開き、ひとつだけ付箋を増やした。

次の目的地を示すためではない。


見えないものを追いかける前に、見えるものを疑う。

そのことを忘れないための、印だった。


+2026162


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