第14話 地下は嘘をつかない
真実は、
いつも地上にあるとは限りません。
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わたしは、東京へ戻る電車に揺られながら、父から借りた小説を取り出し、そっと開いた —
ページをめくると、紙の匂いとともに、重たい空気が立ち上ってくる.
1945年8月.
崩壊寸前の満州国、首都の新京。
彼は工兵畑の出身で、地下施設の図面を読み解く役を任されていた.
街では、地下に国庫の黄金が隠されているという噂が広がっていた —
命令は単純だった.
地下施設を確認し、可能であれば確保せよ。
官庁街の地下入口は、防空壕と同じ構造をしていた。
天井は低く、鉄筋コンクリートには粗い型枠の跡が残っている。
湿気で壁は汗をかき、配管はむき出しのままだ。
通路は真っ直ぐではなく、必ず直角に折れている。
爆風を逃がすための、単純で実用的な設計だった。
地下は迷路ではない。
人を守るための、正直な構造だ。
奥へ進むと、問題の鉄扉が現れた。
分厚い鋼板 —
3つの番号盤 —
警告文 —
無断開封、国家を滅ぼす。
同行していた案内役の青年が言った.
ここです —
黄金の部屋は —
だが、彼は扉を見た瞬間、違和感を覚えた.
地下は正直だ
重いものがあれば、必ず痕跡が残る。
彼は床に膝をつき、懐中電灯で床を照らした.
レールはない.
台車の傷もない.
扉の前に、本来あるはずの床の補強梁が見当たらなかった.
この部屋は空だな。
青年が目を見開いた.
でも番号盤が.
番号盤は3つ。
刻まれた数字は3、6、9 —
謎解きは、それだけだった.
地下施設の設計基準では、重量物保管庫は柱間隔を3分割で補強する。
だが、この部屋の梁配置は6分割だった。
軽い物を置くための設計だ。
さらに数字。
3、6、9 —
どれも倍数だが、始点がない。
ゼロがないんだ.
彼は呟いた.
金庫番号なら、必ず基準番号がある.
これは、数えていない数字だ。
鉄扉の向こうに、守るべき重さは存在しない。
その瞬間、背後で足音がした。
噂を信じた武装集団が来たのだ。
扉の中は、やはり空だった。
誰かが叫んだ。
騙された。
彼は言った。
地下は嘘をつかない。
嘘をつくのは、人間だけだ。
後日、駅の記録で知る。
同じ日に、書類のみ、重量軽微と記された特別貨物が、地上ホームから出ていたことを。
黄金は、最初からなかった。
残されたのは、噂だけだった。
戦後も、その街では語られる。
地下迷宮に財宝が眠っている、と。
空の地下ほど、人を魅了し、縛るものはないのだ。
ページを閉じたとき、電車は終点に近づいていた。
胸の奥で、何かが静かに決まった気がした。
翌日、わたしは会社に辞表を提出した。
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