第11話 遠回りの決心
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読者の皆様 —
この謎解きを楽しんでいただけてますでしょうか。
順調に手がかりを集めている方も、そうでない方も、大丈夫です.
全ての手がかりが見つからなくとも、辿り着けます。
まだ、時間はあります。
ゆっくり、確実に、前をみて、ここへ向かってください。それが大切です。
わたしが大学生だったころ、毎日はとても静かに過ぎていきました.
東京の大学に通うため、初めて1人暮らしを始め、狭い部屋で目覚め、講義を受け、アルバイトへ行き、夜になればまた同じ部屋に戻る。そんな繰り返しです.
地方の山に囲まれた土地から出てきたはずなのに、都会の生活は、思っていたほど刺激的ではありませんでした。人は多く、建物は高く、電車は複雑でしたが、わたし自身は、どこにも向かっていないような気がしていました.
講義はそれなりに面白く、友人もいました。
アルバイト先の人間関係も悪くはなく、生活に困ることもありませんでした。
それなのに —
心の中に、ぽっかりと空いた場所がありました。
—
何をしたいのかが、わからなかったのです.
周囲の友人たちは、将来の話を少しずつし始めていました
資格のこと、就職のこと、進学のこと。
わたしは、その輪の中にいながら、いつも少し遅れている感覚がありました.
考えていないわけではない.
ただ、決め手が、どこにも見つからなかったのです.
ある日のこと —
講義が終わり、次の授業まで時間が空いたので、なんとなく学内を歩いていました。
人通りの少ない廊下の掲示板に —
色あせた紙が一枚貼られているのを見つけました.
短期留学の募集案内でした。
行き先は、オーストラリア —
期間は、ほんの数か月 —
その紙を見たとき、なぜか足が止まりました。
英語が得意だったわけでも、海外に強い憧れがあったわけでもありません.
ただ、ここではない場所 —
という言葉が、胸の奥に引っかかったのです.
その日の夜、狭い部屋に戻ってからも、掲示板の紙のことが頭から離れませんでした.
このまま同じ生活を続けて、何かが変わるだろうか。
変わらないなら、いっそ、場所を変えてみたらどうだろう。
そんな考えが、何度も浮かんでは消えました.
数日後、わたしは応募書類を手にしていました。
深く考えた末の決断というより、
動かなければ、何も始まらないという焦りに、背中を押されたような感覚でした。
合格の知らせを受け取ったとき、不思議と大きな喜びはありませんでした。
その代わり、静かな覚悟のようなものがありました。
行ってみるしかない。
今のわたしには、それしか選択肢がないように思えたのです。
こうして、わたしは、この日常から離れることになりました。
それが、何につながるのかは、まだわかりませんでした。
けれど、止まっていた時間が、少しだけ動き出した。
その実感だけは、確かにありました。
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