第9話「波乱万丈な調理実習!!」
〈バカ4人組〉
ウリエ・ルミコ:山吹色。天使。
葵あおと:地球のような青色。生徒会副会長。
弔咲:上品な紫。ザ・お嬢様。
漆・ファー:黒味を帯びたつややかな赤色。クソガキ。
むらさきが「何してるの?」とルミコに聞く。
「肉磨き。」
「肉磨きぃ?!」
「気まぐれシェフのこだわりビーフシチューを作ろうと思ってね。」
「時間に限りがあるのよ。シェフではなく主婦になりなさい。」
「はいママ。」
「ママじゃないけどこの時間だけはママでいいわ。ルミコもママになるのよ!」
「そうか、ついに私もママになる日が来たか……! 感慨深いぜ!」
肉を磨いて三千里。皆がママになる調理実習、はーじまーるよー。
メンバーはいつものバカ4人組。
葵がカバンから野菜を取り出す。「すまないルミコ。今日は投擲用のカボチャを入手することができなかった。そのかわり、レンコンとトウモロコシを手に入れたから、レンコンをスコープ代わりにトウモロコシ弾で悪いやつを撃ち抜いてくれ。」
ルミコはニット帽をかぶる。「やっと会えたな…愛しい愛しい宿敵さん…。」
漆はよく分からない魚を抱えている。「深海王からの贈り物だッ! きっと美味いに違いないッ!」
「俺の後ろに立つな。」ルミコは早速トウモロコシ弾で魚を撃ちまくる。
「ぎゃああああッ!!」
「俺に言わせりゃ、ロマンに欠けるな。」
「色々混ざってるのよ。」とむらさき。
ルミコはむらさきを見る。「それで、何作るの? ゆでたまご?」
「味噌汁よ。」
「味噌汁ぅ?!」
「何びっくりしてるのよ。前回の授業の時、先生が言ってたじゃない。」
漆が反論する。「味噌のない味噌汁なんて、ただのお湯だぞッ!」
「味噌は葵が持ってきてるわよ。ね、葵。」
「味噌は持ってきてある。」葵がポケットから味噌を取り出す。「つけてみそかけてみそだ!」
「あーたそれでどうやって味噌汁つくるのよっ?!」
ルミコが「いっそのこと味噌汁やめる?」と聞く。
「やめないわよっ!」むらさきがカバンから味噌の入った容器を取り出す。「赤味噌でいいわよね。」
「白味噌がいいッ!」と漆。
「目の前真っ白になったら赤いものも白くなるわよ。漆は味噌汁じゃなくて絶望を味わうといいわ。」
「ぴぇ。」
とりあえず食材を切る。
葵がレンコンをまな板に置き、包丁を振り下ろす。
「しまった、失敗だ。」
レンコンは切れていないがまな板が真っ二つに割れた。
「ふっふっ」と意味ありげに笑うルミコ。「いいや、成功だ。」と感心した様子。
「どういうことだ? レンコンは切れていないのだぞ?」
「違うんだ葵。レンコンは切れていないのではなく、自分が切られていることに気づいていないんだ。モーセが海を割った時、海は自らが割れたことに気づいて道をつくった。だが彼が本当にパッカーンしたかったのは海ではなく、敵だ。敵はパッカーンされたことに気づかず、あれよあれよという間に倒されていった。それと同じなんだよ。レンコンは切られているのにまだその形を保とうとしている。しかし今にわかるが、これを味噌汁に入れた途端に10個の穴はその存在を自認できなくなり瓦解する。葵はモーセの域に到達した。いずれ彼をも超える存在になるだろう。」
「なるほど……!」
むらさきが呆れた顔で二人を見る。「なるほど……!、じゃないわよ。モーセを海に沈めてやろうかっ! ルミコも口を動かすんじゃなくて手を動かしてちょうだい。」
「ねぇママ、これどうすればいい?」ルミコがアサリを指でつつく。
「いつの間にアサリ持ってきたのよ。そうね、砂抜きしなきゃね。」
「砂抜き?」
「アサリを海水と同じくらいの塩水につけるの。」
「おけ。」
ルミコは塩水をつくりアサリを浸す。「このアサリに名前つけたんだ。モーセっていうの。」
「早速沈めてくれてありがとう。」
「ねぇむらさきぃ〜ッ!!」漆が半べそかきながら駆けてきた。
「どうしたのよ?!」
「たまねぎがうちのこといじめる〜!」
むらさきが漆の両肩をがっしり掴む。「漆、そんなんじゃこの弱肉強食の世を生きていくことはできないわ。誰が何と言おうと、結局は強くなければいけないの。今は弱くても生きていける、それはここがモラトリアムだから。でも社会に出たらそうはいかない。ゴミクズ野郎がそこら辺にいて弱いやつをいじめようと常に目をギラつかせてるわ。けちょんけちょんにされないよう、漆は強くなるべきなの。だからね漆、悪いやつは切り刻んでやりなさい。私が許す。」
漆は大きく頷く。「わがッだッ!!」
「いい子ね。一緒に頑張りましょ。」
「うんッ!」
漆はまな板の上のたまねぎと向き合う。その顔は自信に満ちていた。「たまねぎ、覚悟〜ッ!!」
「……。」その様子をじっと見つめるルミコ。
むらさきがそれに気づく。「どうしたのよ?」
ルミコが半べそかきながらむらさきに駆け寄る。「ママ〜、モーセがいじめる〜ッ!」
「あーたねぇ。ぶち○すわよ。」
「ちぇっ。」
葵がむらさきに話しかける。「材料が余りまくってるから先生に許可を取ってきた。味噌汁以外のものも作って良いことになったのだが、何を作ろうか。」
「さすが葵。正直味噌汁だけじゃ物足りないと思ってたのよ。そうね、和風ハンバーグでも作る?」
「ハンバーグ!」「ハンバーグッ!!」ルミコと漆が目を輝かせている。
「と言っても卵がないのよねぇ。……ちらっ。」むらさきが葵を見る。
葵が親指をぐっと立てる。「卵なら私が何とかしよう。」
「ありがとう。じゃあ葵、爆速で卵を入手してきて。漆は肉を刻んでミンチを作って。ルミコは私と味噌汁作りましょ。」
「わかった。」「かかってこいッ、肉ッッ!!」「ママとの共同作業。トゥンク。」
「さぁ、はじめるわよ!」
葵は校庭の鶏小屋に着いた。鶏小屋の鍵を開け、中に入る。
「さて。飼育部に許可は取ったはいいものの……、噂通りだな。」
鶏小屋の真ん中に堂々と居座る人。「なんだいアンタ。このアタシから卵を取り上げようってのかい?」
彼女は鶏小屋の守護神、苔骨子。「鶏ども! お客さんだよ、お出迎えしてやんな!」
卵は小屋の奥にある。苔骨子をうまくかわして卵をゲットする。この前の昼食のコロッケの時はルミコがいたが、今日は一人でやらなきゃいけない。できるか? いや、やるんだ!
「飼育部の許可は取った。卵はいただいていく!」
「やれるもんならやってみな!」
葵は駆け出す。鶏たちは葵を捕らえるべく、くちばしで網をバッと広げる。網を持たないその他の鶏たちは葵に向かって突進してくる。
葵は網をするりとかわし、手に握しりめていた鶏のエサをばらまく。鶏たちはやるべきことを忘れエサに向かって一目散に飛びつく。
「何やってんだお前ら! くそっこうなったら……!」苔骨子は卵を手に取る。「くらえ、卵擲!」
葵は飛んできた卵をキャッチする。
「ありがとう、卵はいただいていくよ。」葵は小屋から颯爽と飛び出して家庭科室へと急ぐ。
「しまったぁっ!!」苔骨子は頭を抱える。鶏たちは「こいつウチらより鳥頭だな」と思いながら、じとっとした目で苔骨子を見ていた。
漆は肉を刻み、叩いてミンチ状にする。「うちは負けないぞッ!!」
良い出来栄えのミンチができた。
一方、ルミコとむらさきは味噌汁を作っていた。
ルミコがアサリの様子を見る。「いい感じに砂抜きできてますね。それでは、えぇ、こちらが砂抜きしたアサリでございます。」ルミコはどこからともなく別の容器を取り出した。
「出たわね、3分クッキングの奥義。」
「アサリは味噌汁に入れちゃう? それとも酒蒸しにする?」
「そうね、味噌汁に入れちゃいましょ。」
「漆が持ってきた謎魚は?」
「あれまだ生きてるっぽいから、飼育部にあげたら良いと思うの。」
「大賛成。」
「じゃあ決まりね! 私は味噌汁に入れるネギと三葉を切っておくから、ルミコはアサリを洗って鍋にぶち込んでちょうだい。」
「おけ。」
ルミコはアサリをシャワシャワと洗って、予め昆布と水を入れておいた鍋に放り込む。弱めの火で沸騰するまで待つ。
葵が戻ってきた。「卵を手に入れてきた。親切な人が一番新鮮なものを手渡してくれたんだ。」
「センキュー、葵。戻ってすぐで悪いけど、炒めたたまねぎと漆が作ってくれたミンチ、その他材料がボウルに入れてあるから、そこに卵を入れてかき混ぜといて。」
「わかった。」
「漆はハンバーグを焼く準備をして、葵がこね終わったら一緒にハンバーグの形を整えて焼きはじめてね。」
「ハンバーグはうちにまかせろッ!」
ルミコが「むらさき〜」と呼ぶ。「白飯はどうするの〜?」
「もうすぐ炊き終わるわよ。」
「おいおいさすがすぎるだろ。神が人間を作り出したときだって、ここまで段取りよくなかったぞ。」
「わけわからないこと言ってないで、アク取って。沸騰直前に昆布も取り出しといてね。」
「悪霊退散!」ルミコはお玉でアクを取り、箸に持ち替え昆布を取り出す。「ママぁ、取ったよ〜。」
「アサリはみんな開いてる?」
「モーセ、パッカーン!」
「そしたら火を止めて味噌を溶かします。」
「はいっ!」
むらさきは味見をする。「いい感じ。火をつけて沸騰前に三葉とネギを入れたら完成ね。」
「ハンバーグ焦げてるぞッ!」漆が叫ぶ。
「許容範囲内。ソースでごまかせる。全部ひっくり返したら弱火にして、ふたをして10分くらい蒸し焼きね。」
「了解だッ!」
葵がしゃもじを取り出す。「むらさき、皿や箸は用意できたがご飯をよそっても良いか?」
「良いわよ。レンコンとにんじん煮といたからそれも盛り付けて、トウモロコシも粒とって焼いてあるからハンバーグの皿のすみに入れといて。」
「さすがむらさきだ。やっておくよ。」
「味噌汁できたぞ!」ルミコが叫ぶ。
「もうすぐハンバーグもできるはずだから、ついじゃって良いわよ。」
「分かったぜママ。」
「漆、ハンバーグはどんな感じ?」
「まだあと3分くらいあるぞッ。3分クッキングの奥義使うかッ?」
「いえ、このままあと3分待ちましょう。3分たったら竹串でハンバーグをつついて、透明な肉汁が出てきたらOK。ソースはこっちで作っておくから、できたら盛り付けといてね。フライパンにお湯入れて焦げとか油を落としておいてくれると助かるわ。」
「わかったか、オウムッ。」漆は近くにいたオウムに話しかける。
「3分クッキングスタート!」とオウムが喋り、踊り狂う。
「このオウムダメだッ! 飼い主に似て頭が悪いッ。」と嘆く漆。
むらさきが「分からなかったら聞いてくれればいいから。」と、ソースを作りながら言う。
「むらさきは頼りになるなあッ!」漆はニコニコと笑う。「あぁ、そんなこと言ってる間にそろそろ3分だッ。」
漆は竹串を持つ。「全部、あなたが悪いのよッ。よせ漆ッ、話せばわかるッ! ごめんなさい、犬養毅ッ!」ぶすっ。透明な肉汁が溢れ出る。「おっけーだッ!!」
漆はハンバーグを盛り付ける。
「ソースできたわよ。」むらさきがハンバーグの上にソースかける。
「完成ね!」
「やべぇ!」
「豪華だ!」
「さらば犬養毅ッ!」
実食。
「味噌汁しゃりしゃりするぞ。誰だ砂抜きしたやつ。私だ。」
「ハンバーグに卵の殻が入っていた。私だな。」
「ハンバーグの表面を焦がしたのは誰だッ?! うちだッ!」
「でも、美味しいわよ。」
「「「ママ〜!」」」
「誰がママじゃ!!」
モーセより普通にママが好きな調理実習、これにて終了!
──第9話「波乱万丈な調理実習!!」終