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第7話「部活選びは癖にしたがえ!!」

〈今回登場する人々〉

ウリエ・ルミコ:山吹色。天使。

葵あおと:地球のような青色。生徒会副会長。

弔咲とむらさき:上品な紫。ザ・お嬢様。

漆・ファー:黒味を帯びたつややかな赤色。クソガキ。

 ルミコと葵は寮に帰り、先生から出された国語の課題に取り組む。

「山月記ってさ、何で虎になるの?」とルミコが聞く。

「さぁ。作中には、自己の内の〈臆病な自尊心と尊大な羞恥心〉という虎が、自身を虎にしてしまったんだと書かれているが。作者がそういう癖なんじゃないかな。」

「なるほど。作者の癖って書いておくか。」

「そういえば」と葵。「何の部活に入るか決まった?」

「あぁそういえば、その話途中で終わってたね。トーテムポール部と兼部できそうなところがいいけど。」

「兼部となると、運動部は難しいかもしれない。」

「運動すると疲れちゃうからいいや。」

「ならば文化部をいくつか体験入部してみるといい。話は通しておくよ。」

「せんきゅうり。」

「きゅうりで思い出した。最近近所のスーパーできゅうりのキューちゃんを見なくなってしまったんだ。」

「誰それ。」

「まさかルミコ、キューちゃんを知らないのか?!」

「きゅうりが二つ名の人は知り合いにいないよ。」

「今度是が非でも見つけて、買ってきてあげる。」

「人身売買?」

「? キューちゃんはとても美味いからびっくりするぞ。」

「何が上手いの? もしかして葵ってそっちの運動も得意なの? 脳が破壊されそう。地球をぶっ壊してしまいそうだ!」

「ルミコ、頭が痛いのか? 今日ははやく寝て体調を整えるといい。」

 トゥンク。葵の優しさにルミコの心が揺れ動いた。

「いや大丈夫。こうすれば!」ルミコは壁に頭突きをした。

「そんなことして大丈夫なのか、ルミコ。」と葵は心配するが、ルミコの顔は晴れ晴れとしていた。

「これで邪な考えは消えた。葵の優しさに全人類が救われたんだ。」

「よく分からないが人類を救えて良かった。今日はいい夢が見られそうだ。」

「世の中には色んな癖があり、それを受容するか拒絶するかは人それぞれだ。私は葵を信じてみることにするよ。」

 二人は力強く握手した。


 次の日の朝。学校。

 ルミコはむらさきに相談する。

「書道部でいいんじゃない? 歓迎するわよ!」

「筆者が書道やってるからってその手には乗らないよ。」

「あなたホント筆者嫌いね。」

「生殺与奪の権を握られているからね。」

「鬼でも斬るつもり?」

「そういえば鬼滅のごぼう観た?」

「そんなアニメないわよ。」

「この小説、鬼滅のごぼうって題名に変えようかな。ごぼうチャンバラ出てくるし。」

「これを? やめときな。ルミコなんか、初回できんぴらにされて終わりよ。」

「私ごぼう役?」

「知らないでしょうけど、第3話の前書きでルミコはごぼうって紹介されてるのよ。」

「知ってるよ。むらさきがちくび弱いって書かれてたやつでしょ。あれで助かる人多いんじゃない?」

「むらさき無惨が言ってるわよ。『まだ確定していない情報を嬉々として伝えようとするな』って。」

「あれって未確定情報だったのか。かえってワクワクしちゃうじゃん。」

「夢を与えるのがとむらさきブランドの理念だからね。」

「名を言ってはいけない某テーマパークのようだ。」

「アバタケダブラ!」

「我が君〜!」


 授業と授業の間、つかの間の休憩時間。ルミコはひとり窓の外を見る。

 あの先生の頭バーコードみたいだ。あっちはQRコードに見えるぞ。ケヤキの近くにも薄毛がいる……あっ、先生の頭の上で、猿が喧嘩している! 髪の毛が次々とむしり取られているぞ!

 校門から生徒が走ってきた。漆だ。昆布抱えてる。今先生の口にポストインした。うわぁ、髪の毛生えてきた。きもちわるっ。

 あれ漆どこ行った? あぁいた。猿と話してる。ん? 漆がスマホを取り出してQRコードを読み込んでる。何かの画像だ。……ダメだここからだとよく見えない。その画面を見せて、猿が頷いた。今度はバーコードを読み取って……、あっ、宅配便。バナナだ!!

「漆は色んな動物を育ててるんだなぁ。私も何か育てようかな。」

 

「ねぇむらさき、見て。」

「どしたの。」

 ルミコは「部活の一覧表を葵からもらったんだ」と言い、紙をむらさきに手渡した。

 むらさきは一覧表に目を通す。「葵、こういう所はしっかりしてるわね。腐っても生徒会副会長なだけあるわ。」

 ルミコはふと思う。「そういえばこの学校の生徒会長ってどういう人なの?」

 むらさきは肩をすくめた。「さぁね。でも屈強な大男だとか、女のような男だとか、様々な憶測があるわ。」

「黒の組織かな?」

「この学校も爆破されちゃうかもね。」むらさきは紙をルミコに返した。「それで、どれに興味があるの?」

「いくつか考えてみたんだ。ひとつは園芸部。」

「珍しくまともね。」

「大根を育てる。」

「良いじゃない。」

「もうひとつはヴィーガンボコボコ部。略してインコ部。育てた大根でヴィーガンを殴る!!」

「そんなことだろうと思ったわ! でも彼ら草食系だから植物での攻撃は効かないんじゃない? それに彼らはかぼちゃで投擲してくるわよ。」

「芸術作品を盾がわりにすればいい。」

「それはまた別のグループなのよ。せめて豆投げるくらいにしときなさい。貴重なタンパク源だから、彼ら喜ぶわよ。」

「そんな気休めでどうにかできるほどバカじゃないでしょ?」

「バカだからヴィーガンやってるのよ。」

「なるほど。」

「そのインコ部ってあったかしら?」

「あるよ、ほらここ。」ルミコは一覧表の、インコ部と書かれたところを指さす。

「それは、確かにインコ部だけど、インコに罵詈雑言を覚えさせる部活よ。」

「残念。」

「他にはあるの?」

「うん、まだいくつか。調理部、登山部、広辞苑トントン相撲部、捕まえたトンボのかっこよさを競う部、ちょうちょ結び部、山月部、マンホール鉄蓋の耐荷重を当てる部、新聞野球部、西郷隆盛石化解除部、おはじき部、スイーツ部。色んなところに体験入部して決めたいなって思ってる。」

「半分くらい存在しない部活でしょ。」

「うん、だから紙に付け足しておいた。」

「付け足すんじゃありません。」

「はいママ。」

「ママじゃありません!」


 授業。

 むらさきはルミコにプリントを回す。

「何してんの? 耳かき?」

「そ。大きな耳くそがとれると嬉しいよね。ほらここに耳くそコレクション。」机の上にティッシュが一枚置かれ、その上に耳くそが並べられていた。

「気持ちはわかるわよ。でもあーた主人公なんだから、主人公らしくしなさいって。」

「令和の主人公は耳くそ掃除もするのだ! 大丈夫、鼻くそはほじらないから。」

「またそんなこと言って。あんた面はいいんだから……って逆にそれがいいのかしら。言ってくれれば私がしてあげたのに。」

「ホント?!!」

「なんでそんな嬉しそうなのよ。」

「膝枕?!!」

「ま、まあいいわよ。」

「天国かて!!」

「放課後ね。その代わり、今日は頑張って授業聞くのよ。」

「わがっだ!!」

 頑張って授業を聞く。

 バチン!

「何の音?!」むらさきが後ろを振り返る。

 ルミコの頭にヘルメットのような装置が取り付けられていた。「寝ないように定期的に電気ショックを与えてる。」

「命懸けね。」

「命を賭しても守るべき尊厳と欲望があるんだ。」

「ただの耳かきよ。」

「されど耳かきなのだよ。耳掃除のASMRが人気なのはなぜだかわかるかい、お嬢ちゃん?」

「何と言うか、気持ちいいよね、脳が。」

「ご名答!! それを“分かっている”のであれば、放課後私はどうなってしまうのか! おお、ゴッドブレス。」

「わかったわよ。一緒に今日の授業を乗り越えましょうね。」

「トゥンク。やっぱりママじゃん。」

 何とか全ての授業を真面目に聞いたルミコ。二人きりの教室、むらさきはどこからともなくゴザを持ってきて敷いた。

「ほらルミコ、おいで。」

「ママ〜。」ルミコはむらさきの太ももに頭をのせる。「素晴らしき新世界、ここにあり!」

「ほらあっち向いて、耳かきできないでしょ……ってあら。」

 ルミコは気持ちよさそうに眠っていた。


 寮。

 ルミコがガバッと起き上がる。周りを見、今いる場所が寮のベッドであることを理解した。

「くそっ!! 私の大バカ者め!」ルミコが頭を抱えた。

「どうしたんだルミコ!」葵があわててルミコの方に駆け寄る。

「葵〜。聞いてよ〜。」ルミコはしくしく泣いていた。

「とりあえずココアでも飲もう。」

「うん。」

 葵が二人分のココアを淹れる。ルミコはベッドに座り、ココアを受け取った。

 ルミコが話しはじめる。

「むらさきに耳かきしてもらう約束してたのに、耳かきしてもらう前にむらさきの膝で眠っちゃったの。」

「そうだな。私がむらさきから連絡を受けて駆けつけた時、ルミコはぐっすりと眠っていたよ。」

「くそぉ、私史上、最大最悪の失態だ。隕石が地球に衝突した時だってここまでおおごとにはならなかったのに。」

「そうか、そこまで深刻なものなのか。すまない、そんなことならルミコのお尻が真っ赤になるまで叩きまくって無理やりにでも起こせば良かったな。」

「ううん、葵は悪くない。心地よいむらさきの膝枕が悪いの。」

「そこは自分の非を認めないんだな。」

「問題は、耳かき前の膝枕をどう攻略するか。このままだと、いつまで経っても耳かきに到達しない気がする!」

 葵は少し考える。「私が耳かきをするのはダメなのか?」

 ルミコの目が見開いた。「いいの?!」

「あぁ私で良ければ!」

 葵は床に座る。「毎日走り込んでいるから、太ももはかたいかもしれない。」

 ルミコは葵の太ももに頭をのせる。「ほんとだ、ちょっとかため。でも筋肉を感じられて、これはこれで良し!」

 葵は耳かき棒を持つ。「よしいくぞう。」

「東京さ行くだ!」

「グサッ!」

「ぎゃあー!!」


 登校。

「おはようルミコ。昨日は膝の上で寝ちゃってたわね。」

「おはようママ。」

「ママじゃないわよ。今日リベンジする?」

「ううん、しばらくいいや。」

「あら珍しい。どうしたの? フグの毒でも食べた?」

「昨日葵にやってもらったんだけど、両耳ともグサッとやられた。」

「葵はぶきっちょだからねぇ。鼓膜は大丈夫?」

「ダメ。今は読唇術で会話してる。」

「あらあら。」

 職員室に行っていた葵が戻ってくる。「ルミコ、今日園芸部の体験ができるらしい。」

「せんべい布団の発見?」

「園芸部の体験。」

「あぁ園芸部ね。かぼちゃを投擲する練習しなくちゃ。」

「かぼちゃならたまたまここにある。」葵が机の上に置かれたかぼちゃを差し出す。「生徒会でもらったんだ。」

 ルミコは受け取る。「せんきゅうり。かぼちゃだけど。よし、これで漆が外にいれば……。」漆はちょうど駐輪場置き場に自転車を置いているところであった。

「どりゃーっ!!」ルミコ、力強い投擲!

 漆が声の方を見る。「ん、何……、ぎゃあーッ!!」

 ドカン! 大きな衝撃音とともに駐輪場が木っ端微塵に破壊された。

「あ、衝撃音で耳が治った。」


 授業が終わり、園芸部の体験入部。長袖長ズボン、長靴、軍手、首からタオル、そして麦わら帽子のフル装備で園芸部の畑に行く。既に二人の部員がルミコを待っていた。

 ウリエ・ルミコが自己紹介をする。「ウリエ・ルミコ、好きな食べ物は2日目の野菜カレーです。よろしくらめん。」

「私は植木みかんと言います。よろしくね!」オレンジ髪のポニーテール。

「ウチは西垣めろんです。よろしく。」黄緑色のボブヘア。

「はい!」ルミコが手を挙げる。

「おお早速。」めろんが「どうぞ」と言う。

「かぼちゃはおやつに含まれますか?」

 みかんが答える。「かぼちゃプリンとかあるし、かぼちゃを使ったスイーツって色々あるよね!」

 めろんも同意する。「スイーツにもなるし、煮物にもなる。飾り物にもなるし、武器にもなる。万能型野菜のひとつだな!」

「そうか、かぼちゃは奥が深いなぁ!」とルミコは腕を組み感心する。

「そうだ! ルミコちゃん!」みかんはルミコの手を握る。「かぼちゃ育ててみる?」

 めろんは言う。「種はもう遅いが、苗であれば今がちょうど植えどきだな。そこの畑が空いているから、かぼちゃの苗を植えてみるといいかもしれない。」

「素晴らしい。」ルミコは拍手する。

 みかんはルミコの手を引き畑を案内する。

「これはトマト、これはハーブ、ネギ、あっちはなす。」

「ここなら二年ほどウリ科の植物を育ててないから、かぼちゃを植えてもいいはず。」

「なるほど。」ルミコは畑を見る。「雑草抜いていい?」

「え? うん、いいよ!」みかんが頷く。

 ルミコは「せんきゅうり」とお礼を言い、しゃがんで黙々と雑草を抜きはじめた。

「あゝ」とルミコが声を出す。「雑草がするりと抜けて積み上がる。快感!」

 ルミコはバッと立ち上がる。「園芸部、入部決定!」

 二人は「おお!」と喜び、拍手をした。「よろしくね、ルミコちゃん!」「ルミコ、よろしく!」

「よろしくだもの。」ルミコはみかん、めろんと握手をした。

「よし次は」とルミコ。「せんべい布団を見つけてくる。」

 ルミコは「では!」と走り去ろうとするが、みかんが「待って!」と制止する。

「せんべい布団は落語部か書道部が持ってるかも……!」

 ルミコが「おお」と感心する。「行ってくる!」

「いってらっしゃい〜。」みかんが手を振る。

「……よくあのノリについていけるな。」とめろん。

「かわいいじゃない。私たちにとってのはじめての後輩なんだし。」

「それもそうだ。たしかにかわいい。」

 二人は微笑み、走りゆくルミコの背中を見守っていた。

 ──第7話「部活選びは癖にしたがえ!!」

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