第5話「小説で 絵しりとりすな ばかやろう!!」
〈今回登場する人々〉
ウリエ・ルミコ:山吹色。天使。
葵あおと:地球のような青色。生徒会副会長。
弔咲:上品な紫。ザ・お嬢様。
漆・ファー:黒味を帯びたつややかな赤色。クソガキ。
授業。プリントが配られ、前から後ろへと送る。
むらさきがルミコにプリントを渡す。
「はい。」
「せんきゅーママ。」
ルミコは紙に何かを書いていた。真面目にノートをとっているのだろうか。なわけないよね。
「何してるの?」
「絵しりとり。」
「小説で絵しりとりなんてしないでよ。」
「漫画とかならやりやすいんだけどね。まぁ我慢だよ。」
「それで、今どんな感じ?」
「今ラッパが回ってきた。」
「これ、雷魚じゃない?」
「……嘘、だろ……!」ルミコが目を丸くしてむらさきを見る。「さすが、よく分かるね。」
「葵は絵心ないし、変なところでひねってくるから、単純な考えではダメよ。」
「そうか、なるほど。あっちがその気ならこっちも攻めなければいけないね。」
「そういうこと。ちなみに今回の場合、“ぎょ”か“よ”、どっちになるの?」
「“よ”で統一してある。」
「じゃあ、よではじまるもの、ヨットとか?」
「ヨット、でも安直じゃない? 鎧、とか。でも鎧を描く画力はないしな……。」
「両方とも画力がカスなのね。小説で良かったじゃない。こんな恥ずかしい絵、世間に出せないわよ。」
「うるせいやい!」
「ま、頑張ってね〜!」むらさきは授業に集中する。
よ。妖精にしよ。ルミコはさらさらと絵を描く。ヨーグルトにミスリードさせるべく、細部を曖昧に描く。
「できた、はい葵。」「ん。」
葵は描かれた絵を見る。何これ、ふんどし?
あ、パンツか。私の絵をラッパと見間違えたんだな。本当はラミネートフィルムなのに。
でももし仮に、ルミコがラミネートフィルムを見破っていた場合、パンツはミスリードだ。むではじまる言葉でそれっぽいもの、虫、いや、電話してる時のムスカ大佐にも見える。ルミコ、絵下手すぎる。
む。あ、わかった。むらさきだ。さっき二人で何か話してたし、絶対それだよ。じゃあ、きではじまるもの。キシリトールガムがいい。
「はいルミコ。」「おけ。」
あぁこれは石だな。妖精を読み取ったか、やるな葵。
いや、ちょっと待て。これは石か石ころか。葵は石に“ころ”をつける人間か? そもそも“ころ”って何だ。ころころってことかな。ころころ転がるから石ころ。知らんけど。まぁ石ころにしとくか。
ろ。ロバ。あ、そうだ。石の場合でもシマウマで誤魔化すことができる。馬系統の絵を描いておこう。適当に色も塗っておく。
「よし、葵。」「うん。」
ええっと。石ころかな?
でも“き”だからな。……あぁなるほどね。ルミコがキシリトールガムをキーボードと読み間違えているとすれば、これは、泥だ。
ろ。ロバにしよう。
「はいルミコ。」「うぇい。」
バラ? いや、裏をかいてバンジージャンプだ。シマウマと読み取った場合は、“ま”の場合もあるな。マスカルポーネ?
ネームプレート、もしくはプレートにしよう。これでネもプもカバーできる。
「葵〜。」「ほい。」
絶対まな板だよな。板の上に何かちょろちょろと描いてあるし、これが食べ物でしょ。でも“ば”なんだよなぁ。あ、バナナかな。ちょっとごついバナナ。ちょろちょろと描いてあるのが、バナナが熟した合図ってことかも。
な、な、なす田楽。ルミコ好きだからね。
「おし、ルミコ。」「うぃっすー。」
うわぁついにうん〇か。葵、ネームプレートを何と間違えたんだろ。さすがに難しかったか。
ここで問題となるのは、葵が“ち”派か“こ”派か。葵ってこう見えてガキだし、“こ”かな。あ、違う。この前、「このうんちのグミってかわいいよね」とか言ってたな。思い出から導き出す答え。探偵っぽくていいね。
ち。チョコレートにしよう。ちくびにミスリードするべく、ちくびみたいなチョコレートを描いてっと。
「できた、葵。」「せい。」
うんちだな。クリ? いやうんちだ。
ち。腸詰めにしよう。うわぁうんちみたいだ。
「ルミコ。」「ほいさ。」
またうんち? 好きだねぇ。あぁでもトーテムポールかもなぁ。トーテムポールだなこれは。羽閉じて休んでるトンビにも見えるけど。うわ、違うかも、これとうもろこしかな。分かんねえなこりゃ。
と。まさか、弔咲じゃないよな。うんちと見間違えるとむらさきって、めっちゃ失礼じゃん。ごめんむらさき。私むらさきをうんちと間違えたかもしれん。
面白いから弔咲ってことにしとこ。き、きゅうり。長細いまるが並んだ。今思うと、これ絶対とむらさきじゃないよね。とうもろこしだったかも。まぁいいや。
「ほいさ葵。」「ほいさ。」
メダカかな。腸詰めとメダカってこんなに形似てたっけ?
か、カゴにしよ。
「ほれルミコ。」「ほれ。」
またりんごだ。最初に描いたのに。このりんご、形が悪いなぁ。でも形が悪くても美味しければ問題ないんだけどね。
ご。ごぼうにしよう!
「おす葵。」「めす。」
木の棒だ。こうして見ると、この絵しりとり、酷い絵だよなぁ。はたから見たら木の棒と石ころしかないもん。第三次世界大戦後の人類じゃん。
……あぁわかった、これごぼうだ! ちゃんとカゴを読み取ってくれたんだ。ルミコ、私嬉しいよ。
うだよな。よし、時間的にも最後だし、丸型蛍光灯を描いておこう。
「ふわぁ〜。おはよ葵。」漆が目を覚ます。
「おは×2」
「ん? 何それハムラビ法典?」
「絵しりとり。」
「絵しりとり? 小説なのに?」
「実験だよ。」
「へぇ。あ、この最後のはルミコでしょ!」漆が最後の絵を指さす。
「あたり!」
「やったッ!!」漆は天使の輪から逆順に絵を指でなぞる。「じゃあその前のはバベルで、その前がルンバ!」
葵が首を横に振る。「いやこれはごぼうでしょ。その前はカゴだよ。」
その会話を聞いていたルミコが驚いた顔をする。「えっ、それカゴなの? りんごかと思った。」
「ルンバでしょ!!」と漆も負けじと主張する。
「えぇ……。」
三人のわちゃわちゃを微笑ましく眺めるむらさきは、ノートの隅にめちゃくちゃ上手い鎧を描いていた。
──第5話「小説で 絵しりとりすな ばかやろう!!」(筆者 心の俳句)
〈登場人物〉
ウリエ・ルミコ:絵が下手だからミスリードとかいう小賢しい考えは無駄無駄無駄ッ!
葵あおと:絵も下手だが、描きにくいものを選びがち。ラミネートフィルムなんてどうやって書くんや。
弔咲:絵がバチくそ上手いので騙し合いの絵しりとりは不得手。
漆・ファー:ハムラビ法典を読むことができる超天才クソガキは絵が下手であってほしい。