第3話「いざ尋常に、体力測定!!」
〈前回までのあらすじ〉
とむらさきはちくびが弱い。
〈登場人物〉
ウリエ・ルミコ:ごぼう。
葵あおと:人類到達点。
弔咲:ちくびが弱い。
漆・ファー:なす田楽。
体育の時間。この日は体力測定。
ルミコは葵の方を見る。「油断した。体操服買ってなかった。」
「保健室か職員室に余ってないかな。私聞いてくるね」と先に着替えた葵が教室を出ようとする。
「いや、まぁいいや。このままでやる。」
「でも制服汚れちゃうよ。」
「汚れないようにやればいい!」ルミコはグッと拳を握る。
「なるほど。」
むらさきが言う。「なるほどじゃないわよ。私予備持ってるから貸してあげる。」
「エッチだぜ。匂い嗅いじゃうぞ。」(ありがとう。綺麗に洗って返すから。)
「逆なのよ。逆。」
皆が着替えてグラウンドに集まる。
向こうから小さいやつが駆けてくる。「はぁはぁなんとか間に合った……。くぉら、クイメ!!」
ルミコは「こちらがクイメです」と葵を差し出す。
葵は「私がクイメです」と手を挙げた。
「えぇ、あんたがクイメだったの? じゃあ、あんただれぇ?!」
「いいじゃない誰でも。仲良くしようよ。」
「名乗りなさいよッ! って体操服に名前書いてあるじゃない。えぇっと……、えぇ!! あんた、とむらさきだったの?!」
「違うよ。」
「知ってるよ……。さすがにうちもそこまでバカじゃないって。」
「いいだろ、とむらさきブランドだぜ!!」ルミコは体操服を自慢げに見せびらかす。
「いいなぁうちもとむらさきみたいに大きくなりたい。」
「ぺぇ?」
「ぺぇ!!」
二人はむらさきにハリセンで叩かれた。「こらガキ二人、はじめるわよ!」
まずは徒競走。
漆は秘策があるようだ。
「へへんっ!! 今日は馬を連れて来たから徒競走は一番だ!!」
ルミコが馬の身体に触る。「この馬腐ってない?」
「ちょっとはやかったかも。でも走るくらいは何とか!!」
むらさきが言う。「はやかったって何よ。巨神兵の類い?」
漆と一緒に走るのは葵。
「どうもクイメです。」
「もうッ、葵でしょ! へへんっ、いくら運動神経の良い葵でも馬には勝てないでしょ!!」
「馬と競うのは初めてだから楽しみ。」
位置について、よーい、ドン!
「それいけ、馬! ッて、葵もうゴールしてる! あれ、戻ってきた……。」
「オラオラ遅いぞ速く走れ!」
「煽り運転だッ!!」
葵、暫定一位。
「あぁ馬がァ……!!」馬は腐って溶けてしまった。「ありがとう馬……。この無念、次こそ……!!」
次はルミコとむらさき。
「ぺぇがでかいと走る時痛いって言うよね。」
「現実ではそうでしょうね。」
「くっ……フィクションのメリットを活かしてやがる……!」
位置について、よーい、ドン!
「あれ、ルミコもうゴールにいる!!」
「瞬間移動だよ。フィクションのメリットを活かさないとね。」
「やるわね……!」
結果。
ルミコ測定不能。葵一位。むらさき二位。漆そこそこ。
次は立ち幅跳び。
漆は秘策があるようだ。
「へへんっ!! 今日は鳥を連れて来たから立ち幅跳びは一番だ!!」
ルミコは漆の足元にいる小さな鳥を指でつつく。「この不死鳥生まれ変わってんじゃん。」
「ホントじゃんッ!! あぁもうなんでこのタイミングなのッ?! 自力でやるしかないじゃない!」
漆、跳ぶ。頑張ればできるやつだから、そこそこ距離は伸びた。
「まぁ悪くないかも。」
不死鳥がピーピーと鳴いて漆の頑張りを褒めたたえる。
「ぴぃちゃんありがとね、もう帰っていいよ。」結局ぴぃちゃんは最後まで残り、漆を応援し続けた。
葵、跳ぶ。彼女の脚は風になり、空を駆ける。時間が止まったかのように思われた。それほどまでに彼女のフォームは美しく、それを見る者たちを魅了し、そして、永く永く宙に留まり、彼女は砂地を超えて華麗に着地した。
「まぁ悪くないかも。」葵、暫定一位。
ルミコ、飛ぶ。彼女の脚は風になり、空を駆ける。別に時間が止まったようには思われず、気づいたら砂地を大きく超えた所に突っ立っていた。
「まぁ悪くないかも。」ルミコ、とりあえず一位。
むらさき、跳ぶ。彼女の脚が風になったとかどうでも良く、皆そのご尊顔とぺぇばかりを見ていた。砂が彼女の周りを舞うその姿でさえ、一枚の絵画になる。実際、美術部の子はその様子を瞬間記憶して、その場で瞬時に絵を描いていた。
「まぁ悪くないかも。」むらさき、黙っていれば絶世の美女。
次は握力。
漆は秘策があるようだ。
「へへんっ!! 今日はゴリラを連れて来たから握力は一番だ!!」
ルミコはゴリラの前に立つ。「やぁゴリラ。私はウリエ・ルミコって言うんだ。よろしくな!」
「あんたウリエ・ルミコって言うのね、ようやく知ったんだけど。」
「私のダチがバナナ育ててるんだけど食うか? ドラゴンフルーツっていう名前のパイナップルなんだけど。」
「ちょっと勝手に餌付けしないでよ。」
「でも美味しそうに食べてるよ。」
「ゴリラ! それ食べたら握力測定してもらうからね!!」
握力計をゴリラが握る。握力計破壊。漆落胆。「まぁ、何となくわかってた。」
ルミコが握力計を握る。握力計破壊。ルミコ落胆。「私もゴリラってことね。」
葵が握力計を握る。握力計破壊。葵落胆。「私もゴリラなのか……。」
むらさきが握力計を握る。握力計をぶん投げて破壊。むらさき落胆。「そういう流れだったから仕方なく。」
実は握力測定は左右二回ずつあるので、皆もう一回ずつ、今度は壊さない程度に加減して測定した。むらさきが一番になった。
次はソフトボール投げ。
漆は秘策がないようだ。
「へへんっ!! いつも秘策があると思うなよ!!」
ルミコがニヒッと笑う。「私は秘策あるけどね。」
「なにッ!! その秘策、教えてくれッ!!」
「まぁ見てなって。」
そう言うと、ルミコは天使の輪を掴み取り、それを輪投げのごとく投げる。40mほどのところで落下した。
「うわぁ!! すげぇとんだぞ!」漆は大はしゃぎ。
「痛た、落下の衝撃で頭痛が……。」ルミコは頭を抱え、眉間に皺を寄せる。
「あ、わかったぞ! 秘策を思いついた!!」漆はどこかへ行ったかと思うと、砲台を持って現れた。
「秘策、それは……」漆は自ら砲口に入る。「自分自身がボールになることだッ!!」
ドカン! 漆は吹っ飛ばされて50mほどのところに落下した。
むらさきが正論ロボットになって言う。「立ち幅跳びの時に使えば良かったのに……。」
その間に葵は80mほどの距離を投げていた。
なんだかんだで最後は20mシャトルラン。
漆は秘策があるようだ。
「へへんっ!! 今日はチャリを持って来たからシャトルランは一番だ!!」
「うわっ、ガチのやつだ。ずるいぞ!」とルミコは文句を言う。
「チャリで来た!」お馴染みのあのポーズをする。
ドレミファソラシド。ドシラソファミレド。
葵は「はにほへといろは。はろいとへほには」と自らのペースを維持しながら順調に回数を重ねる。
「ねぇこれ自転車でも意外ときついんだけど」と漆が嘆く。
「知るか、自力でやれって。」
「そう言うルミコこそ、瞬間移動してないで自分で走りなさいって。」
「瞬間移動もなかなかきついんだぞ。まぁ走るよりは楽だけど。ってあれ、ぺぇお姉ちゃんどこ行った?」
「ぺぇお姉ちゃんはぺぇが重くて脱落しました。いい気味だよねッ!」
「ぺぇの重さはフィクションでもどうにもできなかったか。」
「あと三人、誰が先に脱落するかッ! いざ、勝負!!」
三人の勝負は終盤まで続いた。先に脱落したのはルミコである。「キツイって。ギブ……。」
漆もキツかったが、まだ踏ん張る。
「よっしゃ! あとは葵だけ。負けへんで〜!! ……あっ。」
ガシャン。自転車がパンクし、よろけて転んでしまった。
葵がそれに気づき、駆け寄る。「漆、大丈夫?」
「う、うん。大丈夫……。」
葵がしゃがむ。「さぁ私の背中に。」
「えっ……?」
「はやく、1オクターブ終わっちゃう。」
「う、うん!」
葵は漆をおんぶして走る。さすがの葵も息を荒らげたが、最後まで走りきった。
「葵……その……。」
「?」
「あ、ありがと……。」
「うん、漆と一緒に走れて楽しかったよ!」
「うん! あ……、へへんっ!! この借りはいつか必ず返すから、覚えてなさいッ!!」
「楽しみにしてるね!」葵は満面の笑みで答えた。
ルミコはむらさきに話しかける。「葵ってすごい運動神経いいし、存在が眩しいよね。神より神ってるじゃん。神のくそ野郎、調整ミスりやがったなって感じ。まぁ実際は彼女の努力の賜物だろうけど。なのにごぼうチャンバラは苦手なんだよ。」
「何よそのごぼうチャンバラへのこだわりは。」
「いや、萌えるよねって話。」
「あぁそういうこと。同意。」
体力測定は無事終了した。
──第3話「いざ尋常に、体力測定!!」
ウリエ・ルミコ:山吹色の気まぐれ天使。体力測定に天使ならではのチートで挑む外道。
葵あおと:地球のような青色のメッシュの生徒会副会長。体力測定で、うっかり天使を超えてしまった。
弔咲:上品な紫色のウェーブのザ・お嬢様。体力測定でも周囲を魅了する罪なお嬢様。とむらさきブランドはローズのいい匂いがする。
漆・ファー:黒味を帯びたつややかな赤色の髪のクソガキ。動物に適度な運動をさせる善人。