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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魍魎丸。

作者: すみ いちろ

「ここが出るって噂の廃墟。もと病院らしいぜ?」

「きゃ! 怖ーい!」


 深夜の国道沿いにある移転先の決まった病院。

 取り壊しが決まってはいるが、一つの裏扉の鍵は開けられていた。

 ──まるで、誘い込むかのように。


「流石に、なんか空気冷たいよな? おーい、誰か居ますかー!?」

「や、やめなよ。マジ本気で、出たらどーすんのよ」


 先月も二名死んだが、公表されては居ない。特別祓魔法人『祓霊会』を除いて。

 立ち入り禁止用のロープが張られ、幾つもの注意喚起を促す柵が張り巡らされてはいるが、今夜も興味本位で立ち入ったカップルが二名。霊の恐ろしさを知らずに肝試しをしている。

 裏口から入ったカップルたちは、病院のロビーに現在いる。

 直ぐ後ろにある霊安室には入らなくて良かった。鍵は掛けられてはいないが、霊安室に潜む2体ほどの霊が早くも二人を感知し、蠢く。

 ロビーから続く一本の廊下は、診察室、レントゲン室、心電図室……。暗闇の先へと続いている。

 それぞれの部屋で、この病院で誰にも看取られずに亡くなった霊たちが、頭をもたげた。静かに眠っていたと言うのに。


「あー。なんか、俺、ヤバいよ。鳥肌たって来た。ガタガタ震える」

「あ、アタシも。な、なんかヤバいよね。気分悪い……」


 それもそのはずである。死んだ霊たちの気配は、浄化されていない。その想念は重く空気を伝染して生者に取り憑く。例え霊たちが意図せずとも、近づいた者たちの生気を奪う。つまり生命の危険に脅かされる。

 

「あぁ……。あぁ……」


 何体かの眠っていた霊たちが目覚め、二人のカップルの気配に気づき声を上げた。


「な、なんか今、声みたいなのがしなかったか?」

「き、気のせいでしょ?」

 

 成仏出来ない霊たちは、身の空くような寂しさに焼かれる苦しみを伴う。

 唯一、太陽が昇ると活動が強制的に虐げられ身動きが鈍くなる。そうやって徐々に眠りにつき、一時の安らぎを手に入れる。

 しかし、呼び覚ましてしまった。活動時における霊たちは、渇いた喉を潤すように、生者の魂を貪ろうとする。

 

「げしょ……。げしょ……」


 死んだはずの霊たちが生前の姿とは限らない。何者とも分からなくなった霊たちの姿は、生者から見ると時折、遺体が動くようにも見える。

 診察室、レントゲン室、心電図室……。その扉から抜け出るようにして、黒い遺体とも見える霊たちが、ユラリと身体を不規則に動かす。まるで、直ぐにでも崩れ落ちそうな身体を引きずりながら。


「で、出た!? だ、誰か!! た、助けて!!」

「いやー!! し、死にたくないよ!!」


 二人のカップルが、泣き叫ぶ。まだ、元気がある様子だ。

 しかし、二人とも失禁しており、足腰は立たない様子だ。二人の本能が死を察知して逃げられないことを悟っている。徐々に、脳内の快楽物質が増え、安寧に死を迎え入れる準備が整えられたとも言える。そして、それは、生者の浮き出た魂が、死霊たちに喰われるための儀礼とも言える。


「おい! しっかりしろ!! 立てるかよ!? 二人とも!!」

「ぎゃー!! はぅぅ……」

「い、いやー!! あわわ……」

「ち! 二人とも失神しやがったか。オマケに、小便まで。世話が焼けるぜ……。まったく」


 どうやら、地獄に仏。二人の若者の命を救ったのは──。

 ──『祓霊会』屈指の手練れ、不死身の魍魎丸だ。

 赤い両の瞳は義眼ではなく(アヤカシ)のもの。呪われた瞳。首から下は鬼を始めとした魍魎たちの血肉と臓器で出来ており、平安の世に跋扈した百鬼の肉片と魂が封印され焼けただれている。そのため、学生服を着た年端も行かない十七の若者だが、頭と顔以外、忌呪封印の包帯が巻かれている。


「あぁ、うぅぅ……」

「哀れだな。未成仏霊か……。俺がこの世との(えにし)、斬ってやるよ……」


 呪われた身体とは別に、涼やかな顔の魍魎丸の瞳が、這い出て来た死霊たちに向けられた。

 白髪とは違う銀色より抜けた魍魎丸の白金の毛髪が、研ぎ澄まされた霊力と妖力に混ぜ合わさり、まるで足もとから風が吹くようにして、逆立つ。


「我が霊魂を苗床に……(アヤカシ)どもよ、百鬼の夜行を舞えっ! 震えろっ! 破斬妖魔刃っ!!」


(──キーン……。ザウウゥゥゥゥ……)


 驚いたことに、魍魎丸の身体から忌呪封印包帯を突き破り、百鬼の妖魔のものともみえる百本は軽く超える触手が、立ち所に廃墟となる病院の隅々に渡るまで伸びた。

 瞬きをする間もなく、斬り裂かれた未成仏霊たちの黒い影が、光の粒へと昇華され院内の闇に立ち昇り消えてゆく。


「悪ぃな。お前たち。成仏してくれよな……」


 魍魎丸が、浄霊を終えて、あることに気づく。


「おぉっと!? いけねぇ、イケねぇ……。飛んだバカップルをほったらかしにするとこだったぜ! ガハハハハッ!! って、古いか? バカップルって。父親(オヤジ)のオヤジギャグがうつって仕方ねぇ……」


 魍魎丸が、二人の気絶した若者たちを、両の肩に担ぎ、闇の外に出た。

 赤いサイレンが鳴り響き、救急車が到着した。


「後は、頼んだぜっ!! 救急隊のオッサン!! いつもどおりなっ!!」

「オッサンは、余計だよ、魍魎丸……。早く家帰って、寝ろよな?」

「あぁ……。未成仏霊たちが、俺を寝かせてくれたらな!! 祈るぜ、まったく。んじゃ!!」


 魍魎丸の仕事は、浄霊だけではない。霊や妖魔(アヤカシ)、それ以上の化物(コノヨナラザルモノ)たちを相手にしなければならない。

 本人は、平穏な高校生活を送ることこそが、夢であるのに……。

 そして、いずれ出来るであろう恋人や家族──父親は居るようだが、果たして窮地に追い込まれた時……、誰を先に助けるのか。もちろん、一般人もその中には子どもも居よう。

 誰を救うのか……。血縁者か、他人か。

 魍魎丸を運命の(えにし)が翻弄する。






 

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― 新着の感想 ―
[良い点] カッコいい物語ですね(^-^) 続き読んでみたいかも~。
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