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新たな武器、新たな不安


「私と付き合って」


「…………は?」


突然の言葉に、こっそりと銃に伸ばしていた手を離してしまった。


「あなたのことが気に入った」


聞こえていないのか、とでも言うように繰り返すサクラ。尚更意味が分からない。


「…君の事はよく知らないからそういう関係になるつもりはない」


「酷いなぁ〜乙女の純情を弄ぶなんて」


これだから悪魔の思考回路は…と呆れるところだが、緊張がややほぐれたためか呆れすらしない。


「何が乙女だ。それに何を気に入った?」


「容赦なく殺そうとしてくるところかな。悪魔を恐れない人間は始めてだから」


やはりと言うべきか、昨夜彼女を撃ったことがバレているようだ。少しだけ緊張を取り戻し、制服の内ポケットの中にある銃に手を伸ばす。


「やっぱりバレてたのか。どうして生きている?俺が使った弾は悪魔でも殺しきれる弾だぞ」


「その弾、あんまり過信しないほうがいいよ。結構痛かったけど死ぬほどじゃないから」


ケラケラと笑いながら、屋上のフェンスにもたれかかるサクラ。その人を馬鹿にしたような眼が嫌いだ。『奴』を思い出すからだ。


「フン…なら何が目的だ?こんな学園程度すぐにでも壊滅させられるだろう」


「別に興味ないし。私結構適当でさ、人間の支配とかどうでもいいんだよね。だって面倒だし、自分に劣ってる種族なんて支配したところで何になるのって」


悪魔と言っても一枚岩ではないらしい。なら尚更彼女の目的が分からない。


「じゃあその劣ってる種族と一緒に学園生活を送る必要もないんじゃないか?」


「それもそうかもね。そうそう、目的だっけ…人間の支配に興味は無いけど悪魔内のヒエラルキーは気になるんだよね〜。他の悪魔に舐められたくないっていうか…」


「待て、お前は他の悪魔の情報を持っているのか!?」


思わず彼女にがっついてしまう。だが、上手くいけば悲願が叶うのだ。


「お、乗り気になった?」


「お前と付き合う、だから俺にも協力しろ」


「何々〜?お気に入りの君のためならなんでもしちゃうよ〜?」


「白い髪で赤い眼の吸血鬼型の悪魔を知らないか?親の仇なんだ」


何か良くない予感がするが、サクラが好意を持っている以上最悪の事態にはならないだろう。奴に関する情報が手に入るなら安いものだ。


「ん〜…もしかしたら君はとんでもない奴を相手にしようとしてるかもね。吸血鬼型の悪魔はヒエラルキーの最上位にいるような奴らがほとんどだからねぇ…」


「なんでもいい、何か知らないか?」


「正直これ以上の情報は今は明かせないかな…結構ヤバい奴が混ざってて…」


「じゃあ今はそれだけでいい。今後明かしてくれればな」


「うん!じゃあ契約結ぼうか」


「契約?」


「そう、他の悪魔に取られないようにね。さっきは適当な理由つけて誤魔化してたけど、君って悪魔から見たらすっごい魅力的だよ?何?誘ってるの?」


「ああ、昔から悪魔を寄せ付ける体質なんだ。そのせいで親は死んだ」


「まぁそりゃ寄ってくるよね。正直今すぐにでも襲っちゃいたいから早く契約済ませて帰らせて。流石にここで襲われるのは嫌でしょ?」


「少なくとも悪魔とやる趣味は無い」


「でしょ?じゃあ私の眼を見て…」


サクラに目を合わせる。吸い込まれてしまいそうな程深い赤色の瞳だ。


「はい、契約成立。これから恋人同士だね、ゼノ」


(何かされたか…?特に違和感は無いが…)


「なぁ、今何を…」


「秘密♡じゃあね〜!」


確認する間も無く、風の様に去っていってしまった。結局何だったのだろう。1人取り残され、困惑していたが結局すぐに帰ることにした。始末されなかっただけマシか。そう思うことにした。最初は油断させておいて殺すつもりかと思ったが、まさか本当に付き合いたいだけだったとは…


ふと携帯を確認すると1通のメールが来ていた。あぁ、そういえば今日だったか。今日は金曜日なのでいいだろう。ミリアに知らせなければ。


「もしもしミリア?片桐のところまで送って欲しいんだ。そう、いつものやつ。こっちの駅で待ってる」


あの事件以来、定期的に悪魔の血を抜かなければならず、片桐という人物が所長を務める研究所に世話になっているのだ。抜いた血液は特殊弾に使っているとのことだが、どうやって作っているのかは分からない。しかし悪魔に効くというだけで十分すぎる。


研究所は学園から見て屋敷と反対側にあるため、ミリアに来てもらった方がいい。数十分経った後、ミリアの車に乗せてもらって研究所まで向かった。


「よっ、元気してたかい?」


屈託のない笑みを浮かべる若い女性、片桐所長だ。


「少し疲れてる。まぁ総合的に見たら健康そのものだ」


それとない挨拶を交わし、研究所へと入っていく。近未来的な建築様式の建物で、白を基調としたコンクリートの壁が夕陽に染まっている。壁に設置されたパネルに触れてドアを開け、人通りが無いことを確認して専用の部屋に入った。








-一方その頃-


「よぉ、ビビらずに来た見てーだな?」


校舎裏に集まるガラの悪い7、8人の集団。金髪だが、髪の根本が黒い辺り染めている事が分かる。制服も脱いでおり、シャツもズボンから出してボタンも開けている。典型的な不良だ。


「誰がお前らなんかにビビるか」


それに相対するは蔭尋だった。蔭尋のその言葉に、不良達はケラケラと笑う。


「まさかお前がこの学園にいるとは思わなかったぜ?お前みたいなのでも入れるんだな?」


リーダー格と思われる男子の言葉に周囲が噴き出す。


「…悪いか?」


「舐めた口聞いてんじゃねぇぞ。お前、最近変な外国人とつるんでるんだってな?お前みたいな奴と馴れ合える変人がいるとは思わなかったぜ」


「ゼノは外国人でも変人でもない」


蔭尋がそう言った瞬間、取り巻きが空き缶を投げつけた。


「どうでもいいんだよ」


「とりあえず入学祝いってことでさー、2万でいいから貸してくんね?てか貸せ」


「……ほらよ」


面倒そうな表情をした後、蔭尋はそっけなく金を渡した。この反応は予想外だったのか、不良も驚いていた。


「チッ…あんま偉そうにすんなよ」


先頭の金髪が苛立ちながら背を向けて去り、取り巻きも地面に唾を吐いて去っていった。


「クソが…なんであいつらまでいるんだよ…!」


1人になった蔭尋は悪態をつきながら帰っていった。









研究所にて、片桐はゼノの銃『Seeker』のデータを機械で分析していた。その間ゼノは一般的なハンドガンを用いて射撃訓練を行う。


「少しいいかな、愛しのルイス君。Seekerの使い心地はどうだった?」


片桐のハスキーボイスは耳栓をしていても不思議とはっきりと聞こえる。セーフティーを掛けて銃をテーブルに置き、彼女に向かい合って座る。


「悪くない。けど問題は弾の方だ。人型の悪魔に撃ったが殺しきれなかったぞ?」


眼鏡の奥で驚いたような表情を作る片桐。


「6発撃って6発命中…流石だ。だが致命傷にはなっていない…何故だ…?」


「その悪魔とは和解できたが、こんなんじゃ奴とは戦えない」


あの悪魔とサクラのどちらが強いのかはわからないが、サクラ自身が吸血鬼型は強力な悪魔が多いと言及していたため、彼女より格上である可能性が高いと見積もった方がいいだろう。そうなるの今の銃では手も足も出ないわけだが…


「仕方ない、もう少しテストをしたかったがそれは実際に君に使ってもらいながら行うとしよう」


片桐が指をパチンと鳴らすと、助手らしき若い女性がアルミケースを運んできた。


「これは?」


片桐が厳重に鍵を掛けられたそれを開けると、中には40cmほどの黒光りする銃があった。


「HunterAD95、見ての通りアサルトライフルだ。君が使うことを想定して改造を施した。使用弾薬は5.45×39mm弾、装弾数は30発。もちろん君の血液入りの対悪魔弾だ」


手に取ってみると、ハンドガンとは明らかに違う重みを感じられる。やはりと言うべきか、片手では扱えないだろう。


「…寄られた時が不安だな」


「寄られないように戦いたまえ。そのための射程だ」


人間とはかけ離れた機動力で動く悪魔相手に近寄られないというのはなかなか難しい。剣で戦うことを、あまり非難することができないのも事実だ。


「有効射程は?」


遠くのターゲットを狙ってみるが、照準器無しでは流石に見えづらい。


「特殊弾を使うなら300m圏内、通常弾なら700mほどだ」


「随分と短いな」


「訂正。悪魔相手なら300m、だ」


「悪魔以外に撃つつもりは無い」


「だといいな」


どこか皮肉混じりだが、発言自体はごく真面目なのが彼女の特徴であり、ゼノにもある程度共通することだ。


「試し撃ちをしても?」


「通常弾なら」


ケースに入っていたマガジンを差し込み、発射可能であることを確認して狙いを定め…引き金を引いた。爆音と反動によって体が拒否反応を示し、すぐにセーフティーを掛けてしまった。


「命中、初めてにしては良いじゃないか」


片桐はターゲットを戻しながらどこかつまらなさそうにそう言った。


「薬莢が2つ…?それに弾痕も2つ…俺は1発しか…」


ターゲットには1発の弾痕に被さるようにして2発目の弾痕が残されており、足元には薬莢が2つ転がっている。


「超高速2点バースト射撃。口径や弾薬に頼らず、実質的な威力、貫通力の向上を目指した結果そうなった」


「…いろいろと恐ろしいな」


不審に思われるからという理由もあるが、ゼノは今まで取り回しや扱いの難易度の観点からハンドガンの類しか使ってこなかった。そのためか比較的軽い反動に慣れてしまったのだろう。肩を思い切り殴られたような痛みが尾を引いて消えない。


「扱いには気をつけたまえ。それは本当の意味で『武器』なのだから」


「…?」


「何でもない。忘れろ」


「よく分からないけど…もう少し練習してもいいか?」


「構わん」


広大な訓練所だというのに誰もいない。実にもの寂しい。その空間にはゼノの発砲音のみが強く響いていた。

















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