第74話 まるで別人!?
マニア「何度言ったらわかるんです!!!言葉遣いはその人の品性を如実に表すのですよ!!!」
この大きな部屋にマニア・ル・ドーリーの怒声が轟く。
マニア「ほんの一瞬たりともそんな言葉遣いが出てはいけないのです!!!あなたには全く自覚が足りません!」
キラリ「そんなの最初から出来るわけないじゃん!」
マニア「お黙りなさい!!!そんな口ごたえは一切許しません!」
キラリ「あんたの方こそ、もうちょっと教え方ってもんがあるんじゃないの!」
マニア「まぁ、呆れた!あなたは自分の立場を何も理解してないようですね!!!あなたは今試されてるのですよ!もう既に社長夫人にでもなった気ですか!?」
キラリ「そんなケンカ腰で言われたらこっちだって頭に来んだろ!!!」
マニアは怒りで目を吊り上がらせ、手は固く握りしめてプルプル震えている。
マニア「もうけっこう!!!あなたには翼坊っちゃんの夫人になる資格などありません!!!」
キラリは怒りと悔しさで目に涙が溜まり、それがこぼれ落ちる前にこの部屋から物凄い勢いで飛び出して行った。
そのとき、反対側に人影があることにキラリは全く気付かなかった。
あら?………ふーん、そういうこと……
ダッダッダッダッダッダッ……
翼……ごめん……ごめん……私……私…………もう……二度と翼の元へは……
泣きながら廊下を駆け抜けて行くキラリの目の前に、急に菜松が現れた。
菜松「キラリさん!」
菜松に呼び止められたが、キラリは走り去ろうとする。
菜松「待ってキラリさん!!!」
いつになく強い語気で菜松が叫んだので、キラリは立ち止まった。
菜松「キラリ……さん?どうなされたの?」
菜松はキラリの背後へ近寄り、そしてそっと肩に手を置いて優しい口調で聞いた。
キラリはその優しさに触れた瞬間、張り詰めていた糸が切れたかのようにうずくまって号泣する。
菜松「キラリさん?」
キラリ「うっ……うっ……ごめん……なさい……菜松……さん……せっかく……いろいろ教えてくれたのに……うっ……」
菜松はキラリの背中を優しくさする。
菜松「キラリさん、こちらへ」
そう言って今まで立ち入ったことのない部屋へ通された。
そこは部屋中通路を挟んで棚が置かれていて、コピー用紙やら事務用品、その他色々な物が几帳面に収められている。
菜松はこの備品室のドアを閉めてキラリを抱きしめ
菜松「キラリさん?大丈夫ですか?落ち着いて……」
と、なだめた。
キラリ「ありがとう……」
菜松はキラリが落ち着くのを待ってから
菜松「もしかして……マニアさんに相当キツイことを言われましたか?」
キラリ「………」
菜松「マニアさんは口調はキツイかも知れませんが、決して根は悪い人では無いのですよ?」
キツイ「だって!いきなりケンカ腰で言われて……最初っから言葉遣いなんて直せるわけないでしょ!?それに、二言目には翼の夫人には向いてないとか、もう夫人になったつもりかとか……あの人は私が翼と一緒になるのが気に入らないだけなんじゃないの!?」
菜松「キラリさん……」
キラリ「やっぱり私には無理なんだよ……社長夫人になるなんて……」
菜松「それで?」
キラリ「え?」
菜松「それでもう諦めるおつもり?」
キラリ「だって……」
菜松「たったそれだけで大きなチャンスを棒に振るおつもり?」
キラリ「たったそれだけって……」
菜松「私も過去に同じような体験をしました……いえ……私の場合はもっと酷かったでしょうね……私からすればキラリさんはとても恵まれています」
キラリ「え?どうして?私は逆に菜松さんが羨ましい……知的で全てが美しくて……きっと都会生まれの育ちが良い女性なんでしょう……」
菜松「いいえ……それは全く真逆です……」
キラリ「えっ?」
菜松「わすなんだらおめぇさよりも~、ずったらずったらひんどくさしゃべりがたすてってよぉ~、そんりゃマニアさぁどすかられてべってよぉ~、こんだら方言どんだに直せだのもすかられてべってたもんだがぁ~……わすからすんだらキラリさぁどんだげうんらまやかしくっているだけよぉわがるわげねぇべんよ~?」
通訳「私からすればあなたよりもずっとずっと酷い喋り方をしてたから、それはそれはマニアさんにど叱られて、これ程酷い方言をどんなに直せと怒られたことか……たがら私からすればキラリさんのことがどれ程羨ましいかわかるはずもありませんよね?」
キラリ「えっ!?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」
キラリはまるで外国語のような方言をスラスラと喋りまくる菜松を見て、戸惑い動揺を隠せない。
菜松……さん?えっ!?どゆこと?これが本当の菜松さん?
菜松「キラリさん、あのお方の夫人になれるという事がどれ程の価値がお有りかまだあなたは気付いていないご様子……それは決して財産だけを指して言っているのではございません。まして容姿でも……あのお方は皆がどれほど憧れ魅力溢れる男性であるかをあなたはまだご存知無いのでしょう……
あのお方は……」